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「なあ、守さん、何であいつにつけてんだ?患者につけないのか?」
四季が守に質問すると、「まあまあ」と四季の肩を叩いた後静かにとでも言うように指を立てて言った。
「そうしなきゃ血足りなくなっちゃうの。すぐに分かるよ」
守が花魁坂に視線を移す。
それにつられて四季も同じ方向に視線を移した。
「旦那、腕と足、どっちがいい?足なら一回、腕なら二回、口閉じてよ」
花魁坂はあくまでフランクに、それでいて安心する声音で患者に言った。
患者は二回、ぎこちなく口を動かした。
「…腕ね」
確認したように呟くと、患者が震える声でうわ言のように言った。
「こ…うま、れ…だきしめ…たい」
それだけで何故腕を選んだのか、痛いほどに分かった。
「しっかり抱かせてあげますよ。ただ、俺の血を大量に『入れる』んで、超痛いっす」
明るい声で「我慢お願いしゃっす!」と言いながらメスで手首を傷つけたかと思うと、患者に飲ませ始める。
「俺の血は戦闘向きじゃないけど、便利なのよ。この血は鬼の回復力を何倍にもしてくれる」
そう言う間もドクドクと血液を患者の口へと流していく。
「輸血ガンガン減ってるぞ?!」
四季の言葉に守は思い出したように言った。
「ごめんけど、何人か抑えるの手伝って!他は輸血パック大量に!俺が持ってきたのじゃ到底足りない!」
抑えるために残ったのは守と四季、皇后崎、矢颪だった。
皆で一斉に抑えると同時に、治癒の代償である激痛によって患者が激しく身をよじり始める。
守は顔と右肩を抑えながら言った。
「絶対に離すなよ君達!」
その間も苦しそうにもがこうとしている姿は、痛々しい。
しばらく抑えていると、ぐじゅぐじゅと腕になるであろう皮膚を伴った肉が包帯を突き破って出てきた。
抑えていた手を離すと、一気に腕と手の形をとってあるべきものとなっていく。
腕が治ったかと思うと、胸の赤黒くなっていた部分が皮膚で覆われていく。
「腕と肺が…治った…!」
そこには、腕と胸が元通りになった患者の男がいた。
「よかった…」
気付けば、声が漏れていた。
それと同時に、自分達の置かれている立場についてもまた考えてしまう。
(いや、今は他の人達を助けなきゃ)
生徒達の事を含めた後の事は花魁坂に丸投げし、部屋から出ようとする。
すると、話が終わったらしい花魁坂に呼び止められた。
「守、四季君とメンタルケアお願いできる?」
「俺でいいの?」
「お姉ちゃんだし、四季君と一緒で優しいでしょ?」
「…桃華とかさ、俺は…」
「大丈夫だから!お兄ちゃん命令!」
「もぉー…」
結局勢いで押し切られ、四季と庭に面した縁側へ足を運ぶ。
「…!」
そこには、虚ろな目をした少女が静かに座っていた。
(昔の海みたい)
寂しそうに、孤独に、心細そうに、心を閉ざして。
その姿は、守にとってこれ以上無く痛々しく見える。
幼子は好きだが、このような姿は無意識に妹達と重ねてしまう。
(…話し、かけられない)
思い出してしまう。
息が出来ない。
吸おうとした息を吐いてしまう。
いつまで経っても守は、結局、幼子のこのような姿を見ると昔に戻ってしまう。
蹲ってしまいたい。
泣いてしまいたい。
思考がまともに出来なくなり、呼吸がおかしくなってくる。
「なあ、地下なのに庭あるとか、ビックリじゃね?」
おかしくなった呼吸を戻したのは、四季だった。