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【長編︰一本の線で、君は落ちていく】
の続きとなっております大変長いですが、
この作品ほんとにお気に入りなので是非読んでください😭😭
【長編︰一本の線で、君は落ちていく】②
⚠激重⚠
苦手な方は回れ右!
それではドゾッ👉🏻🚪
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3話【軋みは静かに始まる】
あの日の夜のことを思い返すたびに、胸が熱くなる。
千紘が震える声で
「もう少し…そばにいて」
と言った瞬間、
悠衣は自分のすべてを差し出すつもりで千紘を抱きしめた。
暗くて静かな部屋。
千紘の指先は迷うように、でも確かに悠衣の腕に触れて、
そのまま溶けるように身を預けてきた。
(あの夜――千紘は、俺を選んでくれたんだ)
その記憶だけで、今でも胸が甘くじわりと熱を帯びる。
けれど、思い出の色はゆっくりと変わり始めていた。
***
「……最近、千紘、忙しそうだな」
六月。講義終わりのキャンパスは蒸し暑く、人も多い。
いつも隣を歩いていた千紘の姿は、今日は少し遠い。
歩幅も、視線も、ほんの少しだけ。
「ゼミ棟、こっちだよ千紘。そっち行ったらグラウンドのほう行っちゃう」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「何を?」
「……なんでもないよ」
笑って誤魔化したけれど、
その笑顔が“いつもの千紘”と違うのはすぐに分かった。
(俺じゃない誰かのこと…考えてる?)
胸の奥がざわりと揺れる。
でも問い詰めれば嫌われるかもしれない。
千紘は優しくて、逃げるのが下手で、
きっと傷つけたくなくて無理して笑うタイプだから…。
「悠衣、ごめん。今日、先に帰っててくれない?教授に呼ばれてさ」
「一緒に行くよ」
「いや、大丈夫だから」
言い切った千紘の顔は、妙に固かった。
その数分後、廊下の窓から見えたのは――
別の学部の学生と談笑する千紘の姿だった。
見たことのない表情。
距離が近すぎる横顔。
(……誰だ、あいつ)
胸に落ちた影は、思っていたよりも重かった。
***
翌日、
「昨日の人、誰?」
と聞こうとして喉に詰めた。
千紘は気付いていないふりをして笑う。
「悠衣、今日一緒に帰る?」
「うん。でも無理しないでいいよ」
「無理なんかしてないよ」
笑って言うくせに、指先が落ち着かない。
並んで歩くと、肩と肩の距離がいつもより遠い。
その距離だけで胸がきしんだ。
「千紘…なんか、あった?」
「ないよ。何も」
即答が速すぎる。
本当は聞きたい。
“俺から離れようとしてる?”って。
でも、聞けば壊れる気がして、言葉が出なかった。
***
二人で初めての夜を過ごしたあの日から、
千紘は確かに変わった。
――甘え方
――抱きしめた時の反応
――呼び方
どれも柔らかく、嬉しそうで、
恋人らしくなっていくのが嬉しかった。
(千紘、あの夜…俺に触れた指、すげぇ震えてたよな)
思い返すと胸がきゅうっと締まる。
千紘は最初、怖がっていた。
けれど途中で、
「もう少し…離れないで」
と泣きそうな声で縋ってきた。
あれは間違いなく、嘘のない気持ちだったはずだ。
(なのに、なんで……)
今の千紘の目はどこか遠い。
***
夕暮れの部室棟。
階段を降りていた悠衣は、ふと声を聞いた。
「昨日、ほんと助かった。千紘くん、説明上手いんだね」
「そんなことないって。俺の方こそ、ありがと」
軽い調子。
聞いたことのない柔らかい声の出し方。
(……あの人か)
胸がぎゅっと潰れる。
喉が詰まって息が吸えない。
千紘は恋を知らないと言っていた。
だから気づかないのだろう。
自分が“誰に心を向けているのか”を。
(なあ……どうして俺じゃない方を好きになるんだよ)
指先が冷たくなって、嫌な汗が背中を伝う。
(千紘の全部、俺が初めてだったのに)
あの甘い夜が、胸の奥で音を立てて崩れていく。
***
「悠衣、帰ろ?」
いつもどおりの顔で千紘が隣に来る。
いつもどおりの声で、笑う。
「うん」
笑い返せたけれど――
二人の影は、夕陽に照らされて少しだけ離れていた。
歩きながら、千紘はぽつりと言う。
「ねぇ、最近……俺、なんか変かな?」
「どうして?」
「なんか、自分でも分からないけど、胸の中が落ち着かないっていうか…」
千紘は自分の胸を押さえる。
「悠衣を嫌いになったわけじゃない。ちゃんと好きだよ。でも、最近……違う気持ちもあるというか……」
鼓動が止まった。
千紘はまだ気づいていない。
その“違う気持ち”が誰に向いているのか。
「悠衣、聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ」
声はいつもより低く、乾いていた。
千紘はそれに気づかない。
夕陽の下、千紘の横顔が揺れる。
手を伸ばせば届くのに、
なぜかもう、触れられない気がした。
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4話【離れないでね】
千紘が他の誰かに目を向け始めてから、どれほどの日が経ったんだろう。
講義帰り、隣を歩く千紘の指先は、もう俺の袖に触れようとしなかった。
かつては少し触れただけで照れて笑ってくれたのに、今はその面影さえ見つからない。
「千紘、今日さ、帰りに少し寄らない?」
「……ごめん。バイトあるから」
短く返される言葉。
その声音に悪意はなくて、ただ俺の存在が“特別じゃなくなった”だけの響きだった。
胸の奥がきしりと音を立てた。
最近、千紘が話す時に、ふと視線を向ける特定の相手がいる。
同じゼミの、朗らかで親切で、誰にでも好かれるタイプの男。
千紘が笑うたび、その男の影が千紘の頬を照らす。
――あぁ、まただ。
俺が初めて千紘を好きになったあの日の光が、
今、他人に向けられているのを目の当たりにする感覚。
胸の奥で、何か黒いものが音を立てて膨らんだ。
その夜。
千紘は俺の部屋に来なかった。
別に約束していたわけじゃない。
でも、約束なんてしなくても来てくれていた頃があった。
「……千紘」
名前を呼んでも、返事なんてあるはずないのに。
胸の中に小さく刺さっていた棘は、
今日になって一気に心臓へ沈んだ。
喉の奥が熱く、背骨が冷たい。
携帯を握りしめた手が震えていた。
(俺を置いていかないでよ……)
どれだけ思ったって、届かない。
千紘の中の、俺への温度が冷えていくのが分かる。
それが耐えられなくて、
胸の奥に積もる嫉妬が、自分でも驚くほど静かに形を変えた。
――このままじゃ、千紘はいなくなる。
――だったら。
選べる道は、ひとつしかなかった。
夜の公園。
人がほとんどいない時間帯、錆びた街灯が弱く光っている。
千紘は、呼べば来てくれた。
まだ俺を“完全には”拒絶していなかった。
「……どうしたの、急にこんな時間に」
不安そうに眉を寄せながら、それでも俺の顔を見ようとしてくれる。
その優しさが、もう俺のものじゃないのだと思うと、胸が裂けそうだった。
「千紘。話したいことが、あるんだ」
俺の声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
心は嵐なのに、表面だけが静かに凪いでいる。
「最近さ……俺のこと、前みたいに見てくれない
よね」
千紘の肩が揺れる。
「……そんなつもりじゃ。
悠衣のこと、嫌いになったわけじゃないよ」
違う。
その目はもう俺だけを見ていない。
「ゼミのあの人のこと、好きなんでしょ?」
千紘は一瞬、言葉を失った。
否定するより先に、瞳が泳いだ。
その瞬間――悟った。
千紘の気持ちは、もう俺には向かない。
「……ごめん」
小さく吐き出されたそのひと言が、
刃よりも鋭く胸に刺さる。
『大好き』って言ってくれた声。
俺の手を掴んで離さなかった夜。
体を預けて、耳まで赤くして笑っていた顔。
全部、全部。
あの気持ちがまだ残ってるなんて、
俺の幻想だったんだ。
「千紘は優しいよ。
簡単には人を傷つけられないタイプだって知ってた」
だからこそ――離れていく。
俺の存在が重かったんだ。
あの優しさを、俺以外の誰かに分けたくなったんだ。
「ねぇ千紘。俺のこと、置いていくの?」
千紘は言葉を詰まらせたまま、目を伏せた。
その沈黙が、答えだった。
胸の奥に沈んでいた黒い種が、
音を立てて破れた。
気づけば、俺は千紘に近づいていた。
「……っ、悠衣?」
千紘の瞳が驚きを映したその刹那。
――“それ”は、音もなく終わった。
温かいものが俺の手に広がり、
千紘の膝がふらりと崩れる。
「なん、で……?」
涙のように震えた声が零れる。
「だって」
俺は、赤く濡れた千紘を抱き留める。
その体温は、まだ俺を拒絶しなかった。
「千紘が俺から離れようとしたからだよ」
千紘の指先が、弱く俺の腕を掴んだ。
その仕草が愛おしくて、苦しくて、
そして何より――許せなかった。
「嫌だよ。
千紘が、他の誰かを見るなんて」
千紘の呼吸が細くなり、
胸が上下しなくなる。
その瞬間、
俺は胸の奥に満ちていく奇妙な幸福に浸った。
これで、千紘はもう誰のものにもならない。
黒いゴミ袋は、俺の部屋の薄暗い一角に置かれていた。
カーテンを閉め切ったワンルーム。
街灯の漏れた光が、ビニールの皺に静かに反射している。
誰にも邪魔されない密閉された空気の中で、
“千紘の重み”が、確かにそこにある。
部屋に戻ってから何度も手を洗ったのに、
指先にはまだ微かに千紘を抱いた時の温度が残っていた。
その感覚が愛おしくて、
洗面所の鏡を見られないくらい胸がざわつく。
俺はゆっくりと袋のそばにしゃがみこみ、
震える手で表面をなぞった。
「……千紘」
部屋の静けさに、自分の声が沁み込んでいく。
ゆっくり、噛みしめるように呼ぶたび、
胸の奥がじわりと熱くなる。
「大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き……」
言葉が止まらなかった。
喉の奥が勝手に震えて、
気づけば涙がこぼれそうになっていた。
千紘はいないのに、
この部屋の空気は“千紘で満ちている”。
俺の願いだけが叶えられた世界みたいに。
「だから、もう……」
袋の上にそっと手を置く。
触れた部分がわずかに沈み、
その下で千紘が静かに横たわっているのを感じた。
「僕から――離れないでね♡」
声に出した瞬間、
胸の奥に広がったのは、ひどく甘い安心。
誰にも奪われない。
誰のもとにも行かない。
誰の笑顔にも影響されない。
ようやく手に入れた。
ようやく、俺だけのものになった。
部屋の静寂は、まるで祝福のようにあたたかかった。
千紘はもう、どこへも行かない。
俺だけを見て、
俺だけに触れて、
俺だけのために存在する。
これ以上の幸せなんて、あるはずない。
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この作品読んで頂きありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
全部で8000文字くらいありました?!!
リクエストも待っているので是非お願いします🙏