テラーノベル
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月が綺麗だなと思った。
みんなで居酒屋で飲んでからどのくらい経っただろうか。
調子に乗ってペースを見誤って飲み出したニキとりぃちょが潰れ、しまいにはキャメがでかい声で騒ぎ出し、そろそろ撤収せざるを得なくなってしまった。
潰れたニキを叩き起しタクシーにぶち込む。
18号が、りぃちょとキャメを送って帰る、と2人を車に乗せていた。
そこから2人。
少し酔いを覚ましてから帰ろうと居酒屋街を歩き回った。
「ニキニキは前よりだいぶ大人になったよねー」
「じゅうはっちーはもう下ネタ耐性ついた?」
「りぃちょは馬鹿なまんまだったな〜」
「キャメさんはまだヴァーで笑いとってんでしょ?」
出てくるのは、やはりメンバーの話で。
彼女は少し回らない口で、楽しそうに話してくれた。
そんな彼女につられ、自分もまた、
まちこさん、この前こんなことがありましてなぁ〜
と話を広げる。
卒業前と変わらない、
独特の笑い方で笑ってくれる彼女。
そんな彼女の隣は、変わらず居心地が良く、
あぁ、そうだったなと微笑ましく思った。
過去の優しい記憶に浸ってしまう。
ーー自分は、浸り、溺れてしまったのだろう。
“彼女が卒業しなければずっとこうあれたのだろうか?”
一度浮かんでしまった考え。
生まれてしまえば、静まることはなく。
(彼女はどうして辞めてしまったのだろう)
(自分じゃ、ダメだったのだろうか)
隣に立っていたつもりでいたのに。
一番分かっていたはずなのに。
いつの間にか遠くに行ってしまった彼女。
あの時の自分が、何か少しでも行動していたら。
(まちこりは、残ってくれていたのだろうか?)
後悔が、静かに押し寄せる。
そんな気持ちを、何も知らない彼女。
楽しそうに、これからの活動の話をしている彼女。
(ごめんなぁ、心から応援できなくて。)
本当は全部伝えたかった。
全部伝えて、”戻ってきて欲しい”と言いたかった。
自分でも形容できない、ぐちゃぐちゃの気持ちでも、彼女なら包んでくれるとわかっていた。
優しい彼女は、困ったように笑って、「せんせーってば何言っちゃってんの」と言ってくれるだろう。
押しに弱い彼女と、口がよく回る自分のことだ。
縋る言葉も、彼女を丸め込めてしまう言葉も、容易に思いつく。
「せんせー」
自分のドロドロした考えを払うように、彼女の声が通る。
少し遅れて、自分の耳に夜の音が戻ってくる。
自分より一回り小さい彼女。
この小さな彼女の一挙手一投足に、何度心を掻き乱されたか。
それなのに、
彼女は、俺のことなんてまるで見ていない。
前を見たまま、歩きながら
楽しそうに、笑顔を浮かべて未来の話をする。
その横顔は月明かりに照らされていて、
こちらの表情なんて、きっと見えていない。
彼女は、ちゃんと前を見ている。
今日だって、メンバーの誰一人、彼女を困らせるような言葉は口にしなかった。
動けないのは、本当に、もう自分だけなのだと。
言葉は喉まで来て、結局、戻っていった。
今更、縋る言葉を言えるはずもなくて。
ドロドロした想いを、ぶつける勇気もなくて。
歩幅を合わせる。
それだけで十分なのだと、何度も、自分に言い聞かせる。
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