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冬茉
芙月みひろ
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#極道
鷹槻れん

7,788
皐志
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「え…」
思わず声が漏れた。
冷凍庫の整理をしていた私は
奥の方に埋もれていたカップのバニラアイスを見つけた。
まだ6月なのに、むわっとした蒸し暑い空気が漂う。
今日は幼稚園の迎えの帰りにアイスを買おうと思い
スペースを開けるため
冷凍庫を整理していたところだった。
救出して手に持ったカップアイスを見て、思い出す。
去年の8月。
娘と一緒にスーパーに行った。
無事に買い物を終わらせて、帰りの車に乗る前に
持っていたペットボトルのオレンジジュースを落とし
駐車場でギャン泣きされた。
すぐに拾い上げたから
ジュースの大半はペットボトルの中に残っていた。
なのに感受性豊か過ぎる娘はパニックを起こし
しばらく泣き喚いていた。
灼熱のアスファルトの上で、車に乗るまでに20分かかった。
その時に買っていたのが、このカップアイスだ。
家に着く頃には、溶け切っていた。
一応、冷凍庫には入れたが
そのまま奥へ奥へと追いやられ
すっかり存在は忘れ去られていた。
あの頃と比べると、娘も大分落ち着いたなぁ。
ふっと笑みを浮かべて、カップアイスの蓋を開ける。
スプーンで掬って一口、口に入れる。
「まっず…」
もはやアイスクリームではなかった。
アイスクリームの形をしているだけの冷たい塊だった。
ザラザラした食感。
バニラでもミルクでもない
何とも言い表せない後味の気持ち悪い味。
一度溶け切ったら、こんな風になるのか。
スプーンとともに、カップごとシンクに置く。
冷蔵庫から出したお茶をコップに注ぎ、口を直す。
そう言えば
これはバニラアイス好きの夫にと思って買ったんだった。
あの頃は、まだそんな気持ちがあったな。
鼻からフッと息を吐き、乾いた笑いが出る。
ふと時計を見て、自転車の鍵を手に取り
私は娘の幼稚園へと向かった。
✧
「ただいまぁ〜」
玄関を開け、娘の由依が靴を脱ぎ捨てて入っていく。
「ちゃんと靴揃えて。手ぇ洗ったら、アイスだよ〜」
「はぁ〜い!!」
バタバタと玄関に戻り、靴を揃えて洗面所に走っていく。
その後ろ姿を見届けて、キッチンへ向かう。
買った物を仕分けして冷蔵庫などにしまう。
キッチンで手を洗い、冷凍庫を開け
先ほど買ってきたばかりの棒付きアイスの箱を開ける。
バニラにパリパリのチョコがついているアイス。
私も由依も、これが一番好きだ。
そこから2本取った。
目を輝かせてソファーに座っている由依に
じゃーん、と見せる。
「食べよ食べよぉ〜!!」
私もソファーに座り、2人で袋を開けて、食べる。
「今日はおばあちゃんの家でお泊りだよ。楽しみだね」
「うん!」
「アイス食べたら準備して、出発しようね」
「わかったぁ!」
そんな会話をしながら、左手でスマホを開く。
夫の位置情報を確認する。
まだ会社を出てはいない。
ダッシュボードに置いた
録音のためのドライブレコーダーに
果たして夫は気付くだろうか。
きっと気付かない、あの無頓着な人間は。
浮気相手とのメッセージアプリが
家にあるiPadと連携していることすら気付かないんだから。
今日は浮気相手と会う日だ。
昨日iPadで確認した、バカップルのような会話を思い出し
「きも…」と思わず口に出しそうになる。
浮気に気付いた当初は、随分落ち込み悩んだ。
私の何が悪かったのか、どうすれば夫の気持ちが戻るのか。
ぐるぐると何周も考えて、一つの結論に至った。
今は、もう腹立ちすらない。
いかにバレないように証拠を集めるか、それだけだ。
今日は決定的な証拠を手に入れられるかも───
「──ママぁ!!!」
由依の声に、我に返る。
と同時に、手に持っていた食べかけのアイスが
ポトッとGパンの上に落ちた。
棒の下半分が落ち
上半分も、持っていた右手の指先に
溶けかかってきていた。
「だから言ってるのにぃ。由依の言う事聞かないからぁ!」
「ごめんごめん。ちょっとティッシュ取って」
「仕方ないなぁ」
由依は偉そうな口をききながら、ティッシュを取った。
私は急いで上半分の残ったアイスを口に入れ
受け取ったティッシュで右手とGパンを拭き
ゴミ箱に入れる。
淡い水色のGパンには、くっきりと薄茶色い染みが残った。
手を洗った後
Gパンを脱ぎ捨て、黒いズボンに履き替えた。
「由依も食べ終わった?
おばあちゃん家行く準備しよっか。」
「うん!」
私は、シンクの水道の蛇口を開けた。
勢いよく水を出す。
そして、そこに置いていた
アイスではなくなったものを洗い流し
カップをゴミ箱に捨てた。
私の人生に溶けたアイスなんて要らない──。
コメント
1件
うわあああ…これめっちゃ胸にくるやつだ😭💔 最初は「あ、ほっこり子育てエッセイかな?」って思って読んでたら、途中からじわじわと違う空気になって…。バニラアイスの「まっず」と、人生の「ざらざら」が重なって見えた瞬間、背筋がぞわってしたよ。 シンクで流すラスト、静かだけどすごく強い決意を感じた。この奥様、絶対に負けない…!続きめっちゃ気になるよ!!🌸