桃赤
桃side
夜空の星が海に映る
「…………………」
『さとちゃん!!!』
『ん?』
『来年も再来年も!ずっと一緒に居ようね!』
「おう!』
うそつき
波の音が鼓膜を揺らす
去年の春、ここで約束した言葉
丁度1年が経って思い出してこの場所に来た
もう、君はいないのに
此処に来る意味がないのに、ただ来たくなってしまった
ヒラっと1枚の桜の花びらが目の前に落ちる
掌を出すと丁度乗っかって来たのを軽く掴む
掴んだって願い事が叶うはずもないのに
なぁ、莉犬
…………好きだよ
なんで…俺を置いていくんだよ
ポタポタと落ちていく涙が砂に染み込んでいく
「——…さとちゃんが泣くなんて、らしくないね」
風が髪を乱す
聞こえるはずのない声が聞こえ、時が止まったように思えた
聞こえた声に目を見開いて後ろを向くと、眉を下げて悲しげに笑う莉犬
「な、んで…?」
その疑問に莉犬は答える事はなく、俺を通り越して海に足を浸けた
どうして莉犬は今目の前にいるのだろう
会える筈ないのに
「…ねぇ、さとみくん知ってる?」
「人の為って書いて偽りって読むんだよ」
なんで急にその話を…
「…ねぇさとちゃん」
こっちを振り向く莉犬
「…ん?」
「お話しよう」
莉犬のその癖、抜けないな
「………急だな」
「いい?」
「……あぁ」
俺と莉犬は横並びに座って色んな話をした
日常の話や活動の話
莉犬はとても楽しそうに話を聞いて、笑って、共感して、自分の意見を言ってくれた
久しぶりのこの空間がとても楽しくて、時間が経つのはあっという間で
話すことがなくなると二人で黙って夜空を見上げた
置かれた指先をどちらからともなく絡めて、チラッと横目で莉犬を見る
静かに頬を流れていく涙はまるで流れ星のように地面につかずに消えていく
その涙を拭う事はせず、俺はまた夜空を見上げた
次第に明るくなっていく空
星々は姿を隠し、朝日が昇る
指先に伝わる感覚がなくなり、莉犬に目をやると立ち上がり、手を広げて俺の前に立った
「さとみくん。最後にお願い聞いて?」
「なに?」
「………さとちゃん、俺の事ぎゅってして」
少しずつ、少しずつ透けていく莉犬
「……あぁ」
莉犬から出ていくガラスの破片の様な物がキラキラと輝いていく
立ち上がって、砂をはたいて莉犬を見る
優しく微笑む莉犬に笑い返して、ゆっくりと近づいて腕を伸ばす
ぎゅっと、強く、優しく抱きしめる
背中に腕が回って、肩が濡れて行く
「……好きだよ、莉犬」
「うん……うん…っ、俺も……ね、俺も、さとちゃんが大好きなんだ」
「ごめん…ごめんね…?」
「ありがとう、大好きな人」
頭を撫でる莉犬は最後ににっこりと笑ってガラスが砕ける様に消えていった
その日、俺は泣き崩れたのを覚えている
その涙は悲しさからではなく、最後に会えた嬉しさからの物だった
涙を流しきって、そのまま海を眺めた
なぁ、莉犬
…………好きだったよ
本当に大好きで、愛してたよ
輝いて世界を照らしてくれる太陽めがけて腕を伸ばし、掌を握る
パシ、と背中に触れる温かい手
「………幸せになって下さいね」
「るぅと…」
「莉犬には嘘をついていましたが…ころちゃんを渡す気になんてなりませんから」
「いいよ、そんなの」
「俺が想い続けるのは莉犬だけだから」
~ end ~
この話は、『〜お化けなんて〜』『〜偽りの星〜』と少し繋がりを持たせております
コメント
8件
はぁ、もう最悪、最高なんだけど(?) ぶくしつです✨
すごく良かったです( ᵒ̴̶̷̥́ ^ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )泣ける、、こはなまるさんの書く小説めっちゃ好きです。一旦結婚しましょ((?