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シエサは眉間に皺を深く寄せながら、ヒューズの腰に下げられた剣を奪い取る。
「この腑抜けどもが、1匹残らず拘束せよとあれほど言って言っていたのに。お前等が逃した連中が、私の主人を誘拐したではないか!!!」
シュッ!!!
怒りに身を任せながら剣を抜き、剣先をヒューズの首元に向けた。
シエサ•アビゲイルは母、サバサ・アビゲイルを持つアビゲイル家は代々、カーディアック家に仕える使用人の家系である。
母のサバサはギルベルトの身の世話を担当しており、女のシエサは魔力が高く、剣の腕前をオルタニアに買われ、アビゲイル家から初の女騎士が誕生した。
男世界に身を置いていたシエサは口調も男らしくなり、大公子であるギルベルトにも男言葉が混じった敬
語を使っていたが、ギルベルトは何も言わなかった。
炎属性の魔法攻撃、剣術も黒騎士団の活躍に直結する程の働きをし、シエサが16歳になった頃、黒騎士団の
副団長の座を実力だけで勝取った。
騎士なら誰もが女騎士シエサの名を知る程。
ギルベルト也コンラットもシエサの腕を認め、竜討伐をシエサの隊だけで行っていたとう言う実例がある。
女騎士シエサは母との破れない約束を守らなければならなかった。
それはシエサが成人を過ぎた21歳で剣を置き、使用人としての道を歩まなければならないと言う内容であった。
幼い頃に病気で亡くなった父の代わりに、女で一つで育ててくれた母との約束を破る訳にはいかなかったのだ。
21歳の誕生日を迎えた時、シエサは剣を置き、修行の為にローベルク家の使用人として働き出し、1年後に
甘野芣婭が異世界にやって来た。
血生臭い世界にいたシエサにとって、甘野芣婭は初めて仕える主人であり、同性の友人でもあり、シエサの中では護るべき存在の1人。
「小競り合いはどうでも良いです。俺達は芣婭の居場所が分かりますから、先に迎えに行きます」
ケロちゃんはそう言って、ベロちゃんと共にギルベルト達の前から姿を消すと、コンラットヒューズの声が重なる。
「「は!?いきなり消えんな!!!」」
「瞬間移動で移動したんだろう。奴等は他の悪魔よりも魔力が高い、上位魔法である空間魔法を使えてもおかしくはない」
「あー、成る程…」
ギルベルトの説明を聞いたヒューズは、納得したような反応を見せた。
*空間魔法、瞬間移動は物体や人物が瞬時にある場所から、別の場所へ移動出来る魔法。
本来なら、空間魔法である瞬間移動の呪文が刻印さえた魔石が、装置されている魔道具を使っての移動方法が一般的である*
「奴等の根城など、既に調べがついている。見つけ次第、殺せ。ただし、芣婭の身の安全を確保してからだ」
「「「ハッ!!!」」」
「行くぞ」
ギルベルト率いる黒騎士は、ギルベルトを先頭に甘野芣婭の奪還に向けて歩き出した。
***
ウサ耳海賊団は意識を失っている甘野芣婭をソファーで寝かせ、各々の武器を取り出す。
「おい、ジョーンズ。黒騎士団共が追い掛けて来てねーか、見張りして来い」
ロン毛のオレンジ髪の中年太りした男が、毬栗頭の男に命令する。
「えー、自分でやんすか?」
「おめーが1番下っ端だろうが!!!!おら、行け!!!」
「うわっ!?蹴るのはやめて下さいでやんす!!!分かったでやんすよ」
足を蹴られた毬栗頭の男は渋々、部屋を出て行くと残りの男達が甘野芣婭の周りに集まった。
「ん…?」
自然に目を覚ました甘野芣婭は、目の前にいる奇妙な格好をした男達を視界に入れる。
「何?この状況は…?」
シュンッ!!!
ケルベロスの2人は契約者である甘野芣婭の居場所は、すぐに察知出来ており、到着したのは2階建ての酒屋だった。
「チッ、こんなボロい店に芣婭がいんのかよ」
「芣婭の気配がしますから、とっとと殺ししょう」
ボッ!!!
ケロちゃんの手のひらから何個かの闇弾が現れ、ボールを投げるように軽く手首を振る。
ブンッ、ドゴォーンッ!!!
放たれた闇弾は至る方向から建物に当たり、中にいた海賊団達は一斉に窓から顔を出した。
「な、何だ!?アイツ等、浮いてんぞ!!?」
「だ、だから言ったでやんす!!!変な奴等がいるって!!!」
「誰の許可得て、俺様の主人を連れ去ったてんだ糞人間共が」
「「ヒィッ!!?」」
ベロちゃんの怒りに満ちた海賊団達は、顔を真っ青にさせて顔を引っ込める。
「な、何でやんすか、コイツ等!!!体が浮いてるでやんす!!!」
「おい、栗野郎」
「へ?」
声をかけられた毬栗頭の男は恐る恐る視線を向けると、眉間に深い皺を寄せたギルベルトが立っていた。
ピキピキピキッ!!!
ギルベルトの足元から冷気が漂わせながら氷の破片が現れ、毬栗頭の男の喉仏を突き刺そうとしている。
「犯罪者の分際で、芣婭を連れ去るとは…。早死にしたいようだな」
「ギルベルト・カーディアック!?黒騎士団も!?え、何分も経ってないでやんすよね!?あの女を攫ってから!!?」
「「「あの女だと?」」」
毬栗頭の男の言葉を聞いたギルベルト、コンラット、シエサの3人は毬栗頭の男を強く睨みつけた。
コンラットとシエサの後ろに立っていたヒューズは、団員の男達と小声で話し出す。
「あ、あの男死んだなぁ…。3人の地雷を軽々と踏みやがった」
「「死刑確定ですね…」」
「おい、栗野郎。お前如きが女呼ばわりしていい方じゃねーんだよ。あの方は私の大切な主人様だ、怪我でもさせてみろ。確実に息の根を止めてやるぞ」
ゴオオオオオオオッ!!!
「ヒィッ!!?」
シエサの手のひらから現れた大炎の炎を見た栗頭の男は、悲鳴を上げながら建物の中に戻って行った。
その姿を見たコンラットは剣を抜きながら、団員達に指示をする。
「逃亡した海賊団は1人残らず捕縛しろ。逃亡を図った場合は殺せ」
「「「ハッ!!!」」」
「ギルベルト様、お待ち下さい!!!」
コンラットが団員達に指示をしていると、ギルベルトは建物中に走って入って行っていた。
***
甘野芣婭(17歳)
そして、現在に至る。
栗●が泣きそうな顔をしながら声をかけてきた。
「あの謎の男達を何とかしてくださいでやんす!!!」
「謎の男達?何言ってんの、栗●」
「誰でやんすか、それ!!!おいらの名前はジョージでやんす!!!」
「いや、アンタは栗●でしょ?サッカーの練習はしなくて大丈夫そ」
「はぁ!?何言ってんで…」
ドゴォォォーンッ!!!
栗●の言葉を遮る程の大きな爆発音と共に、建物が激しく揺れる。
ドサッ!!!
「ぐへ!??」
建物が揺れた衝撃でソファーから転げ落ち、思いっきり床にた転がり落ちた。
グキッ!!!
「あいた!!?」
嫌な骨の鳴り方が耳に届き、右手首に鈍い痛みが走る。
見る見るうちに手首が腫れ上がっているのが、誰が見ても分かる状態だった。
変態サーカス団は芣婭の腫れている手首を見て、顔が真っ青に染まり始めて行く。
ドスッ!!!
サーカス団が持っていた武器が建物が揺れた衝撃で手から離れ、芣婭の目の前の床に短剣が突き刺さる。
あの短剣が芣婭に刺さっていたらと思うと、サーッと
身体中の血の気が引いて行くのが分かった。
あっぶなー!!!
ちょっとでも体勢が前に出てたら、確実にあの短剣が突き刺さってたわ!!!
異世界に来て、初めて死にそうな状況になってるんですけど!?
ん?ちょっと待てよ?甘野芣婭。
こんな感じの状況、漫画で見た事あるじゃん?(甘野芣婭の知識は、全て漫画である)
ここは芣婭が居た世界じゃなくて、異世界だよ?異世界ものだよ?
魔法とかあるよね、だって異世界だし。
こっちに来てから魔法とか見た事ないけど、絶対ある筈!!!
もしかしたら、芣婭だって魔法が使えるんじゃないの!?
主人公とかがピンチな状態から、覚醒してものすごーい強い魔とか使えてたりしてたし!!!
「ピンチの時こそ、芣婭も覚醒する時では!?」
「「はぁ??」」
芣婭の言葉を聞いた変態サーカス団達の声が揃う。
「何言ってんだ?この女」
「おいおいおいおい!!!この女、怪我しちまったぞ!!!?」
「うわー!!!嫌な予感しかし…」
パリーンッ!!!
バンッ!!!
うさ耳の変態オヤジ達が話し合いをしていると、窓が蹴り破られたと同時に扉も蹴破られた。
「「無事か、芣婭!!!?」」
窓からベロちゃん、扉からギルベルト君の2人が芣婭の名前を呼びながら入って来たのだ。
「ギルベルト君、ベロちゃん!!!」
「「「ギャアアアアアアアアア!!!」」」
ギルベルト君の姿を見た変態サーカス団は、女の子みたいに内股足で立ちながら大声で叫ぶ。
「すまない、芣婭。俺が居ながら、危険な目に合わせてしまった。何もされてないか」
「芣婭は何もされてないよ?」
「良かった、来るのが遅くなってすまない」
「いや、ここに来たの5分も経ってなかったでやんすけど…」
芣婭とギルベルト君が話していると、栗●がツッコミを入れてきた。
「この手はどうした、芣婭」
ベロちゃんがそう言いながら、腫れている右手首を優しく触れる。
背後からギルベルト君も覗き込んできて、冷蔵庫の中にいるみたいに寒くなってきた。
「あ、これはソファーから転がり落ちた時に…」
「テメェか?芣婭に怪我させたのは」
芣婭の説明を最後まで聞かずに、栗●を犯人だと決めつけた。
「じ、自分じゃないでやんすよ…!!!ガハッ!?」
ベロちゃんに説明しようとした栗●だったが、いきなり栗●が苦しみ出す。
「まさか、空間魔法が使えるのか!?そんな上級魔導士しか使えない筈だろ!?」
「くーかんまほー?魔法!!?ベロちゃん、魔法使えるの!?」
ロン毛オレンジ髪の中年おじの言葉を聞いて、大きな声でベロちゃんに尋ねた。
ちょっと、芣婭の想像してた魔法じゃないけど、派手さはない魔法が見れた!!!
「船長、どうにかして下さよ!!!俺達、マジで殺されますよ!?」
「俺、まだ死にたくないですよ!!!」
「チッ、分かってるっての!!!」
ゴオオオオオオオッ!!!
変態サーカス団の団員団員達が中年おじの周りに集まり、怒鳴り声を出しながら手のひらから炎を出す。
「おおおおおおおおお!!!火が出たああああ!!!」
興奮している芣婭の肩に、ギルベルト君が着ていたジャケットを着せてくれる。
そして芣婭の前に立つと、ギルベルト君の足元に現れ、青色の魔法陣の中から氷のライオンが出て来た。
シュウ…。
氷のライオンが現れると、中年おじの手のひらから出ていた炎が一瞬にして消え去ってしまう。
「ガルルルルッ」
「氷の獅子!?魔獣も従えていたと言うのか!?」
「コイツは気性が荒くてな、俺の命令を聞かない時もある」
「ガウッ!!!」
ガブッ!!!
ブシャッ。
ギルベルト君がそう言うと、氷のライオンが中年おじの首元に思いっきり噛み付く。
「グアアアアアアアッ!!!」
氷のライオンの牙が首に深く刺さり、中年おじが暴れる度に血が飛び散っていた。
ブチブチと皮膚が破れる音、今にも破けるんじゃないかってくらいに皮膚が引っ張られていて、肉らしきものが見えている。
え、え?
何、この状況。
ドサッ!!!
芣婭の目の前で栗●が口から泡を吹いて倒れ、ベロちゃんは容赦なく栗●の顔を踏みつけた。
「「うわああああああ!!!」」
変態サーカス団達が部屋を出ようと走り出したが、背後から小さく光る紫色の光達が一瞬だけ見える。
窓からケロちゃんが入ってくる姿が見え、ゆっくりと口を開く。
「極小闇球」
シュシュシュシュッ!!!
ブシャッ、ブシャ、ブシャ!!!
目には見えない何かが変態サーカス団達の体を貫き、血飛沫が上がっている。
*極小闇球とは、特殊な魔術で一個一個がとてつもなく小さく、沢山作る事ができ、それを操作して弾幕を張る事も可能。
幅広い使い方ができ、術師の魔力量によって一個一個の極小闇球の威力は変わってくる*
「芣婭様!!!ギルベルト様!!!」
背後からコンラットの声が聞こえ、振り返るとコンラットとヒューズの姿があった。
「退けええええ!!!」
ブンッ!!!
血を吐きながら、変態サーカス団の1人が腰に下げていた剣を抜き、コンラットに向かって振り下ろす。
「あ、危ない!!!」
「死ねぇええええ!!!」
ブンッ!!!
ブシャアアアア!!!
見えない速さでコンラットは剣を振り、変態サーカス団の男の右腕を斬り落とした。
芣婭の足元に斬られた腕が落ち、返り血が頬にかかる。
「グアアアアアアア!!!!お、俺の腕がああああ!!!!」
「芣婭様の右手を怪我させた罪だ、斬り落とされて当然だろ」
「っ…」
斬られた傷口を抑えながら苦しむ男に向かって、コンラットは今まで見た事がないくらい、冷たい目をしている。
ゾッとするくらいに冷たい眼差し…、芣婭こんな顔知らない…。
と言うか、さっきまで平和な感じだったのに、空気が悪過ぎ!!!
バトル漫画みたいな展開になってんじゃん!?
パキパキパキッ!!!
「なっ!?足が凍ってやがる!?」
いつの間にか中年おじと、他の変態サーカス団達の足元が凍っているのが見えた。
「逃す訳ないだろう?この俺が。捕縛しろ」
「「ハッ!!!!」」
ギルベルト君の命令を聞いたコンラット達が、手際よく変態サーカス団達の事を縄で高速し始める。
「芣婭様!!!」
「シーちゃん!?どうして、ここに?」
「旦那様の御命令で、芣婭様の護衛をしに…。あぁ、芣婭様っ、お怪我を…っ!!!」
シーちゃんが泣きそうな顔をして、芣婭に駆け寄り、優しく右手首に触れた。
「申し訳ありません、芣婭様!!!芣婭様に怪我をさせてしまうなんて…っ!!!」
「いやいや!!!シーちゃんは何も悪くないから!!! これは芣婭が、勝手に転んで…」
「芣婭、右手首を見せてくれ。骨が折れているかもしれない」
シーちゃんと話していると、心配そうな顔をしたギルベルト君が声をかけてくる。
「え?マジ??これ骨折してるかな…」
パシンッ!!!
芣婭の右手首に触れる前に、ギルベルト君の手をケロちゃんが強く払い除けた。
「触るな、人間」
「あっ、ケロちゃん」
「芣婭、帰りますよ」
「わっ!?」
ケロちゃんは芣婭の体を軽々と抱き上げ、颯爽と部屋を出て行こうとする。
「本当に大した事ないから!!!」
「大した事あります」
「えぇ…」
「やっぱり、出掛けさせるんじゃなかった」
いつも表情を変える事がないケロちゃんが、眉毛を下げてガチで心配しているのが見て分かった。
そんな顔されたら、何も言えなくなる。
「すぐに馬車を準備します」
「急いで下さい」
ケロちゃんちゃんとシーちゃんが話してる中、芣婭はギルベルト君の顔を盗み見ていた。
ベロちゃんと何か話しているみたいだけど…、何を話しているのかな…。
***
ケロちゃんにお姫様抱っこされながら、部屋を出て行った後の事だった。
ガッ!!!
「おい、お前の所為で芣婭が怪我しただろうが」
「返す言葉がない。俺がいながら、芣婭を怪我をさせてしまった」
「チッ、澄ました面しやがって。ムカつく野郎だ」
言葉を吐き捨てながら、ギルベルトの胸ぐらを離す。
「テメェの親父が、何か考えてるみてーだけどよ。芣婭を利用なんかさせねーし、渡す気は最初からない。良いか、芣婭の前に顔を見せるな」
「あ、ケルベロス待て!!!」
コンラットの言葉を無視して、ベロちゃんは部屋を出て行った。
「ギルベルト様…、どーしますか?」
「俺はコンラットお共に、海賊団を皇帝の所に行かなければならない。芣婭の見送りに行ってくれ、ヒューズ」
「え、俺で良いんですか?ギルベルト様が行った方が、芣婭ちゃん、喜ぶんじゃ…」
「…、俺が行かない方が良い」
「分かりました、芣婭ちゃんの見送りに行って来ます」
部屋を出て行くヒューズの背を見送った後、ギルベルトは窓際まで歩き出す。
「本当に宜しいのですか、見送りをしなくて」
「俺と関わる人間は皆、必ず怪我をする。お前の傷もヒューズの火傷も、俺と関わって出来た。他の団員達もそうだ」
「ギルベルト様の所為なんかじゃ…」
コンラットの言葉に返答せずに、窓の外から馬車に乗り込む甘野芣婭を見つめていた。
***
甘野芣婭(17歳)
芣婭達の後を追い掛けて来たヒューズが、芣婭達の元に駆け寄ってくる。
タイミングよく馬車を連れて来たシーちゃんとも合流し、馬車に乗り込もううとした時、ヒューズに声をかけられた。
「芣婭ちゃん、今日は本当にごめんね」
「もー、みんなして謝り過ぎ!!!そんなに気にしないでよ。それよりも、ギルベルト君は?」
「ギルベルト様は、アイツ等を皇帝の所に連れて行かないといけなくなって…。俺が代わりに、芣婭ちゃんの見送りに来たんだ」
「あ、そうなんだ。お仕事なら仕方ないよね」
ちゃんとギルベルト君と話してから帰りたかったけど、お仕事が入ったなら仕方ないよね。
「芣婭、早く帰ろうぜ」
「あ、うん。じゃあね、ヒューズ」
ベロちゃんに促され馬車に乗り込もうとすると、ヒューズに呼び止められる。
「ふ、芣婭ちゃん!!!」
「どしたの?ヒューズ」
「また、ギルベルト様と会ってくれないかな」
「え?」
予想外の言葉が出て来たので驚いていると、ヒューズは頬を掻きながら言葉を続けた。
「ギルベルト様さ、芣婭ちゃんと出会ってから雰囲気が柔らかくなったんだよね。今日も、芣婭ちゃんと話してる時の優しい表情とか…。俺、見た事なかったんだよね」
「そうなの?」
「うん、そうだよ。芣婭ちゃんさえ、良ければだけどね」
「そんな事を話しに来たんですか?芣婭は怪我人なんですよ」
芣婭とヒューズが話していると、ケロちゃんがヒューズの事を睨み付けながら不機嫌な声を出す。
「ケロちゃん、そんな言い方しなくても…」
「ごめん、確かにそうだよな。公爵家に着いたら、シュバルト公爵に回復魔法をかけてもらってね」
「シュバルトお兄さんも、魔法使えるの!?分かった、テンキュー!!!」
芣婭達はヒューズに見送られながら、シュバルトお兄さんのお家に帰る事になった。
数分後
馬車に乗って数分くらいで、お家に着くと門前でマダムとシュバルトお兄さんの2人が立っていた。
執事おじに馬車の扉を開けてもらい、降りると物凄い勢いで近寄ってくる。
「芣婭さん!!!無事かい!?」
「ギルベルト大公子殿下から、連絡鳥があ届いたの。誘拐されたって聞いて、心配したのよ!?まぁ、怪我してるじゃない!!!貴方、芣婭さんん
お怪我を治してあげて」
「そうだね、すぐに治そう。芣婭さん、少し触るね」
マダムの言葉を聞いたシュバルトお兄さんが、ソッと芣婭の右手首に触れる。
「ヒール」
*ヒール、主に怪我や体力の回復を行う治癒魔法の1つ*
シュバルトお兄さんが呪文を唱えると、右手首に温かい光が宿り、腫れが引いて行っているのが見て分かった。
「捻挫だったみたいだね。これで大丈夫だ」
「おおお、今日はいっぱい魔法見たなぁ。ありがと、シュバルトお兄さん」
「本当に無事で良かった」
そう言いながらハンカチを取り出し、シュバルトお兄さんが返り血のついた頬を拭いてくれる。
あ、せっかく作ってくれたワンピース汚しちゃったんだよね。
「マダム、その…、ワンピース汚しちゃった。作ってくれたのに、ごめ…」
芣婭が言葉を言い終わる前に、マダムが優しく抱き付いた。
「そんな事を気にしなくて良いのよ、貴方が無事に帰ってきてくれただけで…、良いのよ」
マダムの優しい言葉を聞いて、目頭が熱くなって行く。
もし、マダムの立場がお母さんだったら、芣婭の心配なんかしてくれない。
お父さんも同じ、心配してくれるのはお兄ちゃんだけだ。
こんな優しい言葉も投げ掛けられた事もない。
「芣婭、マダムとシュバルトお兄さんの赤ちゃんになりたかったな…」
「「っ…」」
ガバッ!!!
芣婭の言葉を聞いたマダムとシュバルトお兄さんが、芣婭の体を強く抱き締めた。
***
ルナ帝国宮殿に捕縛した海賊団を連れ、ギルベルトとコンラットの2人はガルシアの前で膝をついていた。
捕縛されている海賊団達に、ガルシアは冷たい視線を注ぐ。
「コイツ等が逃した海賊団か、お前が逃亡を許すとは珍しい」
「俺の落ち度ですので、返す言葉がございません。捕縛した者達を合わせて、海賊団を壊滅させれました事を報告に参りました」
「黒騎士の掟はこうだったか?立ちはだかる者は、全て蹴散らす」
「その通りでございます」
ギルベルトは既に、黒騎士の掟を聞いた時にガルシアの言いたい事は察しがついていた。
ガルシアはギルベルトが、予想した通りの事を言い出す。
「お前達の王である俺の前に立ちはだかる者は、全て蹴散らさないといけないだろう?代々、我々の家系が収めている魔石が取れる洞窟がああるだろう?どうやら、頭の悪いゴブリン達が住処にしていると報告を受けた」
「…」
「ゴブリンを全て殺して来い、それで今回の件は水に流そう」
そう言って、ガルシアはギルベルトとコンラットに視線を向けた。