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この鬼、めちゃくちゃ好きだー!!ビジュが気になるぅぅ、、、
「マスター、何か一杯くれぇ」
ここをバーか何かだと思いこんでいるらしい。明らかに酔っている男性は来店するなりそう言った。
「これはまた面白い客が来たね」
「なんでそんなに楽しそうなんですか」
右目に眼帯を付けている上に頬から血が出ている。少なくとも穏やかな人では無さそうだ。こんな人に店内で暴れられたらたまったもんじゃない。
僕が軽く睨むと、千弦先生はさすがに悪いと思ったようで、申し訳なさそうに言った。
「ごめんごめん。いざとなったら私もフォローするから」
「……頼みます」
本来なら頼るべきでは無いのだけれど、千弦先生がこの店にとってかなり頼もしい存在であることもまた事実だ。
「マスター、早く一杯くれよ」
「メニューはお任せということでよろしいでしょうか?」
「いいよそれで」
程なくしてマスターが持って来たのは氷と茶色い液体が入ったコップだった。
「なんだこれ」
「麦茶です」
「酒じゃねぇのかよ」
「麦茶にはミネラルが含まれておりますので、お酒を嗜んだ後に飲むには最適かと」
「……ここ、何の店なんだ?」
「ブックカフェです」
「居酒屋じゃ、ねぇのか……」
男性は酔いが覚めてきたのか、ゆっくりと辺りを見回した。そして気まずさを感じたのか、マスターが持ってきた麦茶を一気に飲み干した。
「ぷはーっ!」
「美味しそうに飲むね」
「あったりめぇだよ!この麦茶すっごくうめぇ!!」
「それは良かった」
「そんで……騒がしくして申し訳なかった」
「問題無いよ。今いる客は私だけだから」
「先生がそう言うなら僕も許します」
それを聞いた男性は目を見開いた。
「なんだよこの店、客も店員も優しいじゃねぇか」
「それがこの店の特色でもあるからね。ところでずっと気になっていたんだけど」
「なんだ?」
「頬から血が出てるけど、手当しなくて大丈夫?」
「ん?あー、こいつはかすり傷だな。大したことねぇって」
「もしや外で何かあったんじゃ……?」
「あながち間違ってねぇな。ここへ来る前居酒屋で酔っ払って他の客と喧嘩になっちまったんだ」
「ちなみに原因は?」
「それは……だな」
先程までペラペラ喋っていた男性は、そこで初めて迷う素振りを見せた。
「聞いて笑わねぇか?」
「笑わないよ」
「そいつ、俺がいる前で鬼のこと悪く言いやがったんだ」
「へぇ、君も鬼なのか」
「ってことはおまえも?」
「いや、前に鬼の女の子がこの店を訪れたことがあってね」
「そうなのか」
「私が全然怖がらないもんだから、逆に向こうが驚いていたよ」
「そいつの気持ち、なんとなくわかるな」
「やっぱり鬼同士通じるものがあるんだね」
千弦先生の言葉に対し、僕はそういうことじゃないと思ったけれど言い出せなかった。