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嫉妬されたかっただけなのに
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「あ、ごめん。その日無理。僕合コンなんだよね~。」
「は??」
「だから~合コン!」
「いや単語は理解してんだわ。目の前に彼女がいてデートの予定立ててるときに出てこないはずの単語がでてきてビックリしてんだわ。」
「ほら、僕ってグッドルッキングガイだから?引く手あまたなんだよね。」
「私が合コンの幹事だったら絶対悟は誘わないけどね。」
「客寄せパンダよりモテるしね。」
「うっざ。てかなに、彼女いるのにOKしたの?」
「うん。だってただの飲み会みたいなもんでしょ。僕飲まないからそういう事案も発生しないし。それにさぁ、お前嫉妬しないからいいじゃん。」
ごんっ、頭の上にたらいが落ちてきた。もちろんイメージだけど。『お前嫉妬しないからいいじゃん。』はい、会議会議、脳内会議。
今日は久しぶりに休みが重なって、朝からデートをしていた。小腹がすいてカフェに立ち寄って、軽く談笑。そのあとは次のデートの約束をたてる、いつも通りの流れだった。次に休みが被るのは来月だね、なんて話してたら思い出したかのように「その日は合コン!」と言われたのだ。いやいや、こいつなにいってんの?案件ですよね。
悟と付き合って3ヶ月。学生時代からの友人だった悟に「ねぇいい加減付き合わない?」とまぁムードもなにもない焼き鳥屋で言われたのがはじまり。まぁいいかでOKしたのだが、悟は案外嫉妬深く、異性との任務はNG、補助監督すら女性をつける徹底ぶりを見せた。私はというと、仕事上での異性との交流に目くじらをたてるタイプの人間ではないため(そもそも悟は単独任務が主で、補助監督もほぼ伊地知くん固定だし)悟の人間関係についてはとやかく言ったことはなかった。
それがこの台詞の真相だ。嫉妬しなければなにしてもいいって言うのか?そりゃ私だって合コンという単語ではなく飲み会と濁してくれれば付き合いかな、で納得をして快く送り出していただろう。けれど、合コンは違うんじゃないか?わざわざ異性にそういう目で見られる場にいくと、こいつは言っているんだぞ。許す、許さないの前になにいってんの?が占めている。
目の前の悟を睨み付けても、なぜか向こうも睨み返してくる始末。あーもういい、めんどくさい。
「そうだね。行ってくれば?」
「!!ほんと可愛げないよね。行かないでの一言も言えないの?」
「……なんで私が責められてんの?そっちが合コン行くって言ったから「そうだよね。お前はいっつもそう。僕が付き合おうって言ったからOKしてくれたんだもんね。僕が別れようって言ったらきっとOKするんだろうね。」
「……何が言いたいわけ?」
「別に。」
居心地の悪い空気が流れる。なんなの、そもそもこんな空気になったのも悟が合コンにいくとか言い出したからじゃん。私が機嫌悪くなるのはわかるけど、なんで私より機嫌悪くなってんの?本当意味わかんない。
「……もういい、帰る。」
「ほら、また逃げる。」
「逃げ……ねぇ、さっきからなんなの?合コンでもなんでもいけばいいじゃん。それでもっと素直で可愛い女の子でも捕まえれば?じゃあね!」
意味わかんない。つかつか歩いて、ショーウィンドゥにうつる自分の姿が目に止まり立ち止まった。いつもは履かないヒール、悟の瞳の色をしたピアス、この日のために3日前から悩んで決めたワンピース、たまにしかデートできないからと、気合いをいれたコーデはすべておじゃんだ。
ぐしゃぐしゃのひどい顔、『僕が別れようと言ったらきっとOKするんだろうね。』悟の声がリフレインする。なんでそんなこと言うんだ。自由奔放な悟が好きだからこそ縛りたくないのに、いつもにこにこ好きなことをしていてほしいから、わがままを言わないのに。どうして、なんで。
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「ひろい男なんらよ、ごじょーさとりゅって男は。」
「はは、面白いほど酔ってるな。ほら、七海、持ち帰るなら今日だぞ。」
「遠慮します。巻き込まれ事故は嫌なので。」
「付き合うならにゃにゃみのほうがいいよ、しょーこ。」
「付き合うか?七海。」
「遠慮します。」
今日は悟の合コンの日だ。あれから連絡を取り合っていないため本当に参加しているかは分かんないけど、予定のない休日を1人で過ごしていると悶々と考えてしまうため同期の硝子と後輩の七海をつれて飲みにきたのだ。もちろんここの代金は私がもつつもりだ。
「そもそも君と五条が付き合いだしたのには驚いたよ。五条はともかく、君、五条のこと好きだったか?」
むにゃむにゃと視界が揺らぐなか、高専時代を思い出す。あれは私が初めて任務で失敗したときのことだ。自分も重症をおったが、任務に同行していた術師と補助監督は死んでしまった。その事実が受け止められずに自室に籠っていた私を、外に連れ出したのが悟だった。こんこん、と窓を叩かれカーテンを開けると、月明かりに照らされた悟の髪が淡く輝いていて思わず目を奪われた。
『面白いもの見せてやる』と手を引かれ、『え、え』とわたわたしていたらそのままお姫様抱っこをされ空を駆けのぼった。高所恐怖症だった私は空の散歩なんて怖すぎて、ぎゅっと目を瞑って悟にしがみついていたけれど、『目、開けてみ。』と言われて目を開けるとそこには月明かりに照らされきらきらと光る海が広がっていた。
『大丈夫、お前はよくがんばったよ。』
いつも意地悪なくせに、いつもバカにするくせに、言いたいことはたくさんあったけど、私はぼろぼろと泣いた。誰かにそう言ってほしかった。初めて人前で泣いた。そんな私を揶揄することもなく黙ってそばにいてくれた悟のことが、頭からはなれなかった。
いつもけらけら笑って、我が儘で、やりたいことをやりたいようにやって、だからこそ輝いていた悟が、生気を失った顔で過ごしていた時期がある。夏油の離反、一番の親友の裏切り。悟は笑わなくなった、我が儘を言わなくなった、やりたくないことをやるようになった。
『五条はがんばってるよ、私はちゃんと知ってるよ。』
と、直接は言えないから共同スペースで死んだように眠る悟にそっと呟いた。悟がいるから救える命がある、救われた命がある。私もそうだったから。もうその頃には悟のことが好きだった。気づいたときにはあぁ、私って悟のこと好きなんだ、と自然と納得できた。
昔を思い出してますます頭が痛くなってきた。はじめに飛ばしすぎたのかも、頭がふわふわする。トイレ行こうかな、グラスあけてからいこうかな…。もう酔いがまわっているのにグラスに残ったアルコールを流し込みおぼつかない足で立ち上がれば、少しはなれた席から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あ、やだな。なんですぐ分かるんだろう。会いたくないのに、今一番会いたくないのに。
数週間ぶりにきく恋人の声に引き寄せられるようにふらふらと歩き、そこで私の記憶は途絶えた。
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「僕、とっても可愛い彼女がいるから。ごめんね?」
「えぇ~、でも合コンにきてくれたってことはぁ、ちょっと遊び相手探してるから、とかですよね?」
組まれた腕をするり、と外し愛想笑いをする。うーーーざっ。はやく帰りたい。売り言葉に買い言葉で本当に参加することになった合コン。来て数秒で後悔。ちょっとは嫉妬してくれるかな、なんて思って断るつもりだった合コンの話をちらつかせてみたら、あれよあれよと最悪の結果に。意地はって参加したけど香水くさい自意識過剰女に囲まれてすでに吐きそう。
あとちょいちょい飲み物を酒に変えられてるのも腹が立つ。僕が下戸なのは有名だからねぇ、普通女の子にする手法でしょ、これ。肉食系女子はこわいねぇ。べたべたと絡まれるのも気持ち悪くなってきたからバレない程度に無下限をはる。こんなことせずに彼女に謝ればいいんだけど、そもそもは彼女が僕への愛情表現をしてくれないのが問題なんだよね。
彼女は自分のことになると疎いタイプで、正直すごくモテる。下心のない優しさというのがあって、優しくした分の見返りとかを求めたことはない。そういうところに老若男女が引かれるのだ。彼女は二級術師だから大体は合同任務につく。合同任務でペアになった男どもはこぞって彼女の虜になる。わかるけどね、一歩引いた距離感、心地よい距離感をあの子は保ってくれる。そばにいるだけで満たされる感覚、それを彼女は無意識で与えてくれるのだ。
彼女を好きだと自覚したのは、僕が自室までもたなくて共同スペースで眠りこけてしまったときのことだ。その時の僕は傑が離反したこともあって、常に神経をとがらせていた。だから眠っている自分に近づく気配にもすぐ気づいたし、手を触れようものなら無下限で弾いてやるつもりだった。
『五条はがんばってるよ、私はちゃんと知ってるよ。』
でも彼女はそう呟くと、僕に触れることはなくその場を去った。彼女の足音が遠退いてから僕は飛び起きた。心臓が痛い。鼓動がはやい。その時だけは、彼女の保つ距離感がもどかしかった。触れてほしかった?まさか。最強である自分を労う人なんて今までいなかった。その日からだ。僕が彼女に執着するようになったのは。
まぁ彼女からしたら大きな犬が懐いてるぐらいのものなんだろうけど。これほど素直に愛情表現しているのに、どうしてわかってもらえないかねぇ。うーん、と首を捻っているとまたもや女がくっついてきた。僕にとっては彼女以外猿なんだよなぁ、とおっと、傑みたいなこと言っちゃった。
「……いい加減はな「だめーーーーー!!!!」
ぐん、と首根っこを掴まれてそのまま柔らかいなにかが顔にむぎゅ、と押し当てられる。ふわりと香った匂いは香水じゃなくこの世で最も落ち着く匂い。
「え、なんでここ「しゃとるは黙ってなさい!」はい。」
すごい剣幕で言われて思わずはい、と答えたけど、あれ?相当酔ってない?これもう完全に出来上がってるやつじゃん。顔は火照ってるし、服も少しはだけて素肌がでてるし、エロすぎ…。って、なにいってんだ僕。
気配を感じて後ろを振り向けばそこにはもう1人の同期と後輩があちゃあ、という顔でこちらを見ていた。ふーん、こいつがこんなになるまで飲ませたのはお前らってことね、ふーーーーん。
「いいれすか貴方たち。しゃとるは私の彼氏なんれすからね!!しゃとるはねぇ、おうちでは甘えたなんれすよ。」
えっへん、と胸を張る彼女。え、なにそのマウント~!かわいい~!!呂律のまわってない僕の彼女可愛すぎない?あ、動画とろう。彼女の惚気聞けるチャンスなんて素面のときにはないぞ。
「しゃとるは私のこと大好きだから、私と会えないときは私の写真をおかずにしてるんらよね!」
「え、ちょっとまって。」
「たまに電話のときに息があがってるのは、私の声で抜いてるかりゃ「まってまって、ちょっとまって。」
「んもう、止めないで!!!!私のこと嫌いなの!!??」
「す、好きです……けど、まってこれ僕が恥ずかしいからやめて!!!」
「えっちのときしゅきっていったら誤爆しがちなのも言っちゃだめ?」
「言ってるんだよね、もう言ってるんだよね現在進行形で。」
雲行きがどんどん怪しくなっていく。後ろでドン引きしている後輩とにやにや録画している同期。悲惨だ、なんで僕こんな目にあってんの??
「あとしゃとるは、パイズリがしゅき。」
「謝るから許して。ほんとに。」
「しゃとるの目隠しを私につけてパイズリさせるのしゅきなんだよね!!!!」
「ごめんってほんと、合コンにきた僕が全部悪いからほんと黙って、おねがいだから!!!」
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「………んん、……」
「おはよう、よく眠れた?」
頭ががんがんする。ふかふかのベッドで寝返りをうち声のする方に目を向ければそこには喧嘩しているはずの悟がいた。え、なんで?そういえば昨日飲みに行って、トイレに行こうとしたら悟の声がして……そこから記憶ないな。でも隣に悟がいるってことは、あの日確かに悟はそこにいたってこと……つまり合コンに参加してたってこと……。
「………私、別れたくない。」
「へ?」
「悟のことちゃんと好きだよ。仕事は仕事って割りきってるから、そこまで文句言わないけど…でも、でも下心もって接してくる女の子にはちゃんと嫉妬してるし、だから、その…」
「分かってるよ。ちゃんと僕のことが好きなことくらい。……僕もごめん、意地をはって君を傷つけた。」
仲直りしよう、と両手をぎゅ、と握られたので私も同じぐらい強く握り返した。嬉しくてくふくふ笑っていると頭上から大きなため息。
「??悟、どうかした?」
「いや……外では、あんまり飲まない方がいいよ。」
「どういうこと?」
「………はぁーーー、なんでもない。」
蛇足
▼夢主
酔うと惚気るけど、惚気るベクトルがおかしい。ある意味すごいマウントとれてる。でも五条のHPは0。あのあとも五条の性癖を暴露し続けた。
▼五条悟
誰よりも傷ついた男。高専内で性癖がまわされ釘崎や伏黒に冷ややかな目で見られることとなった。もはや彼女としか付き合えないし結婚できない。