完成日╎8/16
投稿日╎8/16
Irxs╎水白、白水
6,300文字
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ご無沙汰しております
シルトクルーテ.です
物語は1年の月日を越えて
目が覚めた
が、そこは知らない場所
外で蝉の鳴き声が聞こえる
今は夏だったか
そもそも僕は何でここに居るのだろう
眠る前の記憶がない
頭がぼーっとする
視界が曖昧だ
)お、ちゃんと起きたんか、
正面から聞こえた誰かの声
なんだかよく聞き馴染んでいる気がする
窓から差し込む光に慣れ
目の前の景色が広がる
僕に声をかけてくれたのは
🐇)おはよう、いむくん。
💎)……………、
💎)……誰、ですか…?
全く知らない人だった
彼が驚いたように目を見開く
どうやら相手は
僕のことを知っているみたいだ
🐇)……あー、
🐇)記憶喪失、ってやつか……。
💎)え……、?
🐇)あぁ、すまん。まだ決まったわけちゃうよ。
左右でアホ毛が跳ねている
可愛らしい顔の反面
低くて優しい声が素敵な人
不審者、ではなさそうだ
💎)…記憶喪失……。
自分が記憶喪失であるかも
しれないことに疑問は持たない
先程から昔のことを
あまり思い出せないから
流石に、ここまで薄っぺらい人生を
歩んだはずがないと本能が言っている
🐇)………信じて欲しいんやけどな、?
🐇)僕、君と……、
一瞬、辛そうに顔を歪める彼
どうやら僕は、とても深刻なことを
忘れてしまっているらしい
🐇)…僕、君と……、
🐇)……友達、だったんよ。
💎)……………、
彼の顔から察するに友達と言うより
親友、と言ったところか
一緒に居て涙が出てきそうな程に
落ち着いている自分がいる
きっと、記憶を無くす前の僕は
彼のことが大好きだったのだろう
🐇)……やっぱり、覚えてへんか…、
💎)……ごめん。
🐇)全然…!僕はええんよ。
🐇)いむくんが生きてくれてれば、それで。
目を細めて笑う彼に心がきゅ、っと
締め付けられる
何としてでも彼のことを思い出さねば
そう感じた
💎)……じゃあ、まずはさ、
💎)もう1回、名前から教えて欲しいな、?
にっこりと微笑む彼
心臓が高鳴る
🐇)…はつうさぎって書いて初兎
🐇)改めてよろしくな。いむくん。
僕に向けて白くて細い手が差し伸べられる
握ったその手は少し冷たく感じた
じ、っと初兎ちゃんを観察してみる
別に怪しんでいる訳では無い
が、どうにも彼が気になる
🐇)……?
🐇)どしたん、僕の顔に何かついとる?
💎)いや…別に……、
何か、何か会話を
少しでもいいから、
初兎ちゃんのことを知ってみたい
ふと、彼の手元に置かれた
薄紫のノートが視界に映る
💎)…それ……何、書いてるのかなあ、って…
少し怪しくなってしまっただろうか
恐る恐る彼の顔を覗き込む
だが、その顔は思ってたのとは違った
🐇)あぁ、これな。
🐇)……アルバム、みたいなものやなあ。
懐かしい物を思い出すように
微笑みながら淡々と話す彼
アルバムみたいな物、日記だろうか
💎)……どんなこと書いたの、?
🐇)んー、ないしょ!
💎)えー……、
いつかまた見せてあげるわ、と
僕の頭を撫でてくる初兎ちゃん
何故だろう、心地よい
🐇)……またいつか、な。
そう言って彼はウサギのストラップが
付いたカバンに日記をしまい込んだ
相変わらず僕は彼をじ、っと見つめていた
僕に向けてくれる優しい笑顔が見たくて
必死に話題を考えている
と、脳裏に一つ思い浮かんだ
💎)初兎ちゃんってさ、
💎)……都市伝説とか、好き?
そう問いかけると彼は
ふはは、っと笑った
さっきとはまた違って、明るい笑顔
🐇)好きも何も、w
🐇)昔からいむくんに聞かせられまくってたわw
💎)えぇ?そうなの……?
🐇)ほんまに!
🐇)聞いたことないやつまで教えてくれるんよ。
語りだしたら止まらんくなるのは
辞めて欲しいけどな、なんて苦笑いする彼
💎)え、じゃあ、あれば教えてもらった?
💎)病院に出るお化けの話!
🐇)あー、病院シリーズは山ほどあるなぁw
💎)むむ…じゃあ、
💎)自ら電車に飛び込んで死んじゃった……
ガラララッ
病室の扉が開く
一番いいところで話が遮られてしまった
)失礼しまー……
こちらを見て目を見開く青髪の人
誰だろう、また僕の知り合いか
🤪)…目、覚めたんやな…
🤪)……俺は猫宮いふ。脳外科医や。
💎)…僕の……?
そうか、一応僕は病人だ
ここに医者が居ても不思議では無い
初兎ちゃんは僕らの話を
にこにこと聞きながら大人しく座っていた
🤪)とりあえず、様子見んで。
🤪)俺の質問に、正直に。答えてな?
💎)はい、
全ての質問が終わった頃
いふ先生は少し難しそうな顔をして
重たげに口を開いた
🤪)……記憶喪失、やな…。
💎)そう、ですか……。
やっぱりそうなのか
でも一体どうして僕は記憶喪失に
なってしまったのだろう
🤪)……驚かないんやな。
💎)……えっ、?
🤪)記憶喪失って伝えるとな、
🤪)大体みんな動揺した顔するんよ。
💎)あぁ、まぁ…
💎)目覚めた時に…何となく察してたんで……
🤪)そうか……。
そ、っと初兎ちゃんの方を見る
相変わらずにこにことしながら
僕らの話を聞いていた
🤪)君は頭に多少重めな外傷も負っていたんよ、
🤪)かなり時間経ってるから大丈夫やと思うけど…
そ、っと頭に触れる
ぴり、っと痛みが走った
🤪)ま、何かあったらすぐにナースコールな。
じゃ、と言っていふ先生は部屋を出た
部屋が広い
なんだか少し疲れてしまった
人と話すのは久しぶりな感じがする
🐇)なーんか頭の良さそうな先生やなあ。
なんて彼は呑気なことを言っていた
なんだか彼は昔からこうで
いつも明るい人、な気がする
🐇)それにしても頭。
🐇)結構酷い傷やったんやで?
💎)そう、なんだ……
生きてるのも不思議なくらいやな、と
笑って言ってる初兎ちゃん
……本当に、呑気なだけなのか
🐇)あ、さっき撮ったいむくんの寝顔見る?
💎)、はっ?!//
今日は比較的涼しい日
窓から入るそよ風が頬を撫でた
暖かい味噌汁に口をつける
💎)……おいし、
僕が目を覚ましてから数週間が経ったが
思い出せたことは殆どなかった
ただ、出会って間も無いのに
初兎ちゃんに対する僕の思いは
増していくばかりで
僕を呼ぶ無邪気な顔が、声が
どうしようもなく愛おしくて
もっとずっと、初兎ちゃんと
一緒に居たいと思った
🐇)いむくんただいまー
💎)ん、おかえりっ
💎)どこ行ってたの?
🐇)この近くに海があるんよ
🐇)色んな意味で忘れられん場所でな、、
💎)そ、っか…。
僕も早く外出たいな
そしたらもっと初兎ちゃんと
色んなことして色んなところに行けるのに
💎)ん、ごちそーさま!
ずっと病室ではつまらない
病院内でも歩いていたら
もっと彼と話すことができるだろうか
💎)帰ったばっかで申し訳ないんだけどさ、
💎)ちょっと付き合ってくれない、?
🐇)わ、廊下は人多いなあ。
特に用事はないけれど
ずっと病室に居ても暇だから
二人で廊下に出てみることにした
しばらく歩くと沢山の科に別れる場所まで着く
🐇)循環器内科…?心臓とかか。
💎)心臓…あ、そうだ。
💎)ねぇ、赤い悪魔って知ってる?
結構有名な都市伝説を思い出した
記憶を無くす前の僕が
もう既に教えてるかもしれないけれど
🐇)またそんな話か…w
🐇)なんやそれ、聞いたことないで。
💎)えぇっ?!結構有名だよ?!
他の都市伝説と混じって
伝え忘れていたのだろうか
あまり食いついてはいなさそうだが
とりあえず話を続ける
💎)赤い悪魔はね、病院に現れる悪魔なの!
少し話し疲れて病室に戻ってきた
夜とはいえ、夏の空
まだ外は広く広がっている
💎)ここの病院って結構広かったんだねー
🐇)せやな〜
窓場に飾られた白と紫の夏水仙
初兎ちゃんが水換えをしてくれている
開いた窓から夏の匂いが漂う
なんだか、あまり好きではないような
🐇)わっ、
飛んできた蝶が初兎ちゃんに止まった
珍しい、緑色のアゲハ蝶
🐇)なんや、どうしたん?
なんてほほ笑みかける彼
その横顔が美しくて、綺麗で
💎)好きだな……。
🐇)ん、?
💎)あ、いや…なんでも……/
顔が熱い
まさか自分の思いを
無意識に口に出してしまうなんて
お互い黙ってしまって
少し気まずい雰囲気が流る
🐇)……なぁ、
先に口を開いたのは初兎ちゃんだった
🐇)……ほんとに、僕のこと思い出せないん?
💎)…え、?……うん、、
だが、いつもと様子が違う
🐇)……違うな。
💎)……?
💎)何が……、?
何かおかしい、かと思えば
ぱ、っといつもの表情に戻る
🐇)思い出したくないだけ、ちゃうか?
💎)え……?
初兎ちゃんの手がするり、と僕の頬に触れる
近くて近くて、なんだかおかしくなりそう
薄紫の瞳の奥がよく見える
暖かくて冷たい
💎)しょ…ッちゃ……?//
🐇)……………。
あれ、
この目、どこかで
初兎ちゃんッッッ!!
耳に響く蝉の声
淡々と下がる黒と黄の棒
気づけなかった傷
容赦なく訪れた鉄の塊
💎)…………ッ、あ…
全部思い出した
2年前のあの日
夏が消し去った少年が今
🐇)…………、
🐇)ありがとな、いむくん。
視界がぼやける
色彩が滲んで
💎)待って…ッ
真っ白な腕を掴む
もう離さない
置いていかないで
お願いだから独りにしないで
初兎ちゃんの腕を掴む手に力が入る
少しでも油断したら失くなってしまいそうで
🐇)っ……………、
彼の動きが止まる
迷惑だろうな、きっと
💎)ごめんね、初兎ちゃん…ッ
僕がいつまでも不甲斐ないから
だから来てくれたんでしょ?
ずっと寄り添っててくれてたんでしょ?
なんでよ、僕なんかほっとけばよかったのに
僕が気づけなかったから初兎ちゃんは
💎)……っ、
🐇)……いむくん。
🐇)ばいばい、、
初兎ちゃんの身体が透け始める
待ってよ
💎)しょおちゃ……ッ
まだ伝えてないよ
💎)……ッ、
💎)初兎ちゃん、ッッ!
体に残っている力を全て出して
彼の名前を呼ぶ
🐇)……いむくん、?
振り返ってくれた
今度は勝手にいかせない
ベッドから抜けてゆっくりと立ち上がる
一歩、また一歩と距離を縮めて
💎)……………、
倒れるように初兎ちゃんを抱きしめた
🐇)いむく……っ
💎)ありがとう……。
💎)ありがとう初兎ちゃん……ッ
まるで温もりを感じないのに
心がどんどん優しさで滲んでゆく
やっと言えた
💎)ごめんね初兎ちゃん、”
💎)だから…友達だなんて言わないで……、ッ
あの時言えなかった言葉
今なら言えるよ
彼の目を見る
綺麗なのに、光が映らない
死んだ目だ
💎)ねぇ初兎ちゃん……、!
なのにどうして泣いてるの?
🐇)…やめてや、
🐇)ずっとここに居たくなるやろ……ッ、w
そっと僕を引き剥がす初兎ちゃん
やっぱり幸せな時間は
💎)っ………。
長くは続かないみたいだ
🐇)…はい、これ。
💎)……………夏水仙、?
初兎ちゃんがお世話してくれていた花
彼の瞳と同じ色
💎)ねぇ初兎ちゃん、?
🐇)ん、?
ずっとずっと届けたかった
届けられなかった言葉
💎)大好きだよ…初兎ちゃん……。
🐇)………。
🐇)僕も、大好きやで。
彼の顔が近づいてくる
唇が重なった気がした
よく晴れた空
雲ひとつない快晴
絶好の退院日和だ
💎)……………、
行こうか
2年前から逃げ続けたあの場所へ
紫のノートを握りしめた
騒がしい蝉の声
奥に海が見える踏切
その傍の電柱に置かれているのは
枯れた花束
と、
💎)……あれ、、
色褪せたウサギのキーホルダー
緑色の羽を持ったアゲハ蝶がとまっている
その隣にそ、っと夏水仙の花束を捧げた
💎)初兎ちゃん、帰ってきたんだね。
今日はお盆
死者が帰ってくる日
カンカンカンカン
踏切の音が辺りに響く
もういかない
向き合うって決めたんだ
💎)見ててね、初兎ちゃん。
風もない暑い夏の日
少年の足元で白と紫の夏水仙だけが揺れていた
『 ??? 』END.
コメント
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なんでこんないい話もっと伸びないわけ?まじ怒る。 泣きそうww 情景描写?とか使い方うますぎだろ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きまじやばいお前のストーリー好きまじ好き
赤桃さんの時と同じ時間軸とか…いたね、白水さん……🥲🥲 泣いちゃうよ… ちょっと最後ら辺少女レイを感じました全然関係ない気がしますが!! 切なくて愛しいしるるんの書く夏が大好きです ありがとうございます😭😭😭😭😭😭😭😭😭
通知見つけた瞬間お昼ご飯とかどうなってるんだ() なんか…やっぱ天才の雰囲気を感じますね… 赤い悪魔出てきたとき鳥肌たちました。すげっ、って! 苦しい話のはずなのになんで優しい雰囲気が出せるんだろうなって思います。本当にシルさんのネタメモを美しくできるか心配になってきました…😶