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こはねのコンテスト参加でーす!
桃白にでます!
今回は曲パロ、内緒のピアス様の「エス」でいかさせてもらいます!
どうぞ!
君の瞳を、俺はずっとガラスだと思っていた。
透き通っているのに、触れたら切れる。中が見えるようで、決して奥までは届かない。
「……初兎」
名前を呼ぶたび、胸の奥で鈍い音が鳴る。
壊れる前兆みたいな、不吉で甘い音。
初兎はいつも、俺を見ると少しだけ笑った。
関西弁の軽い調子で、冗談みたいに言葉を投げてくるくせに、肝心なところは何ひとつ教えてくれない。
「ないちゃん、またそんな顔しとるで。俺、なんか悪いことした?」
その声が嫌だった。
優しくて、どこか他人行儀で、俺“だけ”のものじゃない声音。
「……してない」
嘘だ。
している。ずっと。
俺の中で、初兎は罪を重ね続けている。
俺以外の世界を見て、俺以外の誰かに笑って、俺の知らない記憶を頭の中に焼き付けている。
それが、許せなかった。
初兎と出会ってから、俺の世界は極端に狭くなった。
色は減り、音は遠のき、意味を持つものはひとつだけになった。
――初兎。
普通の幸福なんて、最初から期待していなかった。
並んで歩いて、笑って、歳を重ねる?
そんな健全な未来を想像できるほど、俺はまともじゃない。
ただ、初兎が欲しかった。
全部。
「なあ、ないちゃん」
夜の部屋で、初兎は床に座り込んで俺を見上げる。
その視線が、俺の喉を締めつける。
「俺のこと、そんなに見んといてや。穴あきそうや」
冗談めかした言い方。
でも、目は笑っていない。
――やっぱりだ。
隠している。
「……何を、隠してる?」
低くなった俺の声に、初兎の肩がわずかに跳ねた。
「またそれや。ないちゃん、考えすぎやって」
違う。
考えているのは、初兎のほうだ。
頭の中に、フィルムみたいに過去を溜め込んでいる。
俺の知らない誰か、俺のいない時間、俺の声じゃない笑い。
それら全部を、俺は――砕きたかった。
「俺だけ見ていればいい」
ぽつりとこぼれた言葉は、もう取り消せなかった。
初兎はしばらく黙っていた。
そして、困ったように笑った。
「……それ、冗談に聞こえへんで」
「冗談じゃない」
空気が軋む。
ガラスがひび割れる音が、確かに聞こえた気がした。
「俺にとっては、全部なんだ」
香りも、声も、仕草も。
初兎の存在すべてが、俺の中に染みついて離れない。
初兎は立ち上がり、距離を取ろうとした。
その動きが、決定的に俺を壊した。
「離れるな」
掴んだ手首は、思ったより細くて温かかった。
逃げようとする力が、逆に現実味を帯びさせる。
「やめてや、ないちゃん……」
震える声。
初兎の“弱さ”が、はっきりと見えた瞬間だった。
――ああ、これだ。
醜くて、脆くて、隠していた部分。
俺と同じだ。
「それも全部、俺が受け止める」
逃げ場を塞ぐように、言葉を重ねる。
優しさなんて、もうどこにもなかった。
「後悔してもいい。痛くてもいい。
それでも、俺の中に来い」
初兎の瞳が揺れる。
ガラスの向こうで、何かが砕けて、崩れ落ちる。
「……ほんまに、怖い人やな」
初兎は、泣いていなかった。
それが、余計に残酷だった。
「せやのに……離れられへん」
その言葉は、救いであり、呪いだった。
俺は初兎を抱き寄せる。
壊れものを扱うみたいに、でも逃がさない力で。
「笑って」
願いは、それだけだった。
「泣かないで、俺の前では」
初兎は、かすかに笑った。
ひび割れたガラスみたいな、危うい笑顔。
その瞬間、俺は確信した。
――もう、戻れない。
砕けて尖った心も。
隠しきれない罪も。
今にも溢れ出しそうな、この歪んだ想いも。
全部まとめて、抱えたまま、沈んでいく。
幸福なんて、最初から要らない。
普通じゃなくていい。
ただ、初兎とひとつになって――
この関係が、壊れきるところまで行けるなら。
「なあ、初兎」
耳元で囁く。
「俺と終わろう」
初兎は答えなかった。
ただ、静かに目を閉じた。
それが、破滅への同意だと知りながら。
目を閉じた初兎は、まるで眠っているみたいだった。
違う。眠りじゃない。
これは、俺の言葉を受け入れた“沈黙”だ。
「……返事をしろ」
低く命じると、初兎のまぶたが微かに震えた。
それだけで、胸が焼ける。
俺はもう、相手の同意や拒絶を測る場所に立っていない。測る以前に、決めている。
「ないちゃん……」
呼ばれた名前が、歪んで聞こえる。
俺の中で肥大した“俺”が、初兎の声を食べて、別の音に変えてしまう。
「なあ、ほんまに……俺だけ、なん?」
試す声。
確認。
まだ残っている、最後の逃げ道。
「当たり前だ」
即答した。
迷いはない。
迷いがないこと自体が、もう狂っていると分かっているのに。
「君の瞳に映るものも、頭の中のフィルムも、全部。
俺以外なら、砕く」
初兎の喉が鳴った。
飲み込めなかった言葉が、そこで止まっている。
「……砕いて、どうするん」
「飲みほす」
俺は静かに言った。
怒鳴りも、熱もない。
ただ、事実を述べるみたいに。
「君の過去も、感情も、後悔も。
俺の中に入れて、溶かす。
混ざらなくてもいい。混ざらないなら、その歪みごと抱える」
初兎は、笑った。
壊れたおもちゃみたいな笑い方。
「ないちゃん、ほんま……化け物やで」
「そうだ」
否定しない。
否定できない。
「でもな」
初兎は、ゆっくりと目を開けた。
ガラスの奥で、ひび割れが蜘蛛の巣みたいに広がっている。
「それでも、俺……ないちゃんの前では、全部見せてしもた」
その言葉は、許しじゃない。
宣告だ。
俺の中の何かが、音を立てて折れた。
これで、引き返せない。
夜は深く、部屋は静かすぎた。
音がないことが、逆に狂気を育てる。
「香りがする」
俺は、初兎のそばで呟いた。
混ざり合わないはずのものが、確かに重なっている。
「俺のと、君の」
初兎は答えない。
けれど、逃げもしない。
「苦しいか」
問いかけは、優しさの形をしている。
だが中身は、刃だ。
「……鈍い痛みが、ずっとや」
初兎は正直だった。
それが、いちばん残酷だ。
「でもな、不思議やねん。
逃げなあかんって思うほど……離れたくなくなる」
依存じゃない。
これは、侵食だ。
「それでいい」
俺は言う。
「綺麗な感情だけ欲しいわけじゃない。
醜くて、弱くて、吐き出したくなるものを、全部よこせ」
初兎の肩が、ゆっくりと落ちる。
諦めの重さ。
「……歪ませてるって、自覚ある?」
「ある」
「それでも、やめへんの?」
「やめない」
短く、断言する。
やめる理由が、どこにもない。
普通の幸福?
そんなものは、最初から選択肢にない。
並んで笑う未来も、健やかな距離も、全部“他人のもの”だ。
俺には、肥大した想いしか残っていない。
「泣くな」
初兎の目の端に、ようやく光るものが浮かんだ瞬間、俺は言った。
「泣くなら、俺がいないところで」
それは、残酷な命令だった。
それでも初兎は、涙を堪える。
「……笑えって言うくせに」
「笑ってほしい」
願いは矛盾している。
だが、矛盾の中でしか、俺たちは生きられない。
初兎は、ぎこちなく口角を上げた。
割れたガラスの破片で作ったみたいな笑顔。
「これで、満足か」
「まだだ」
終わりは、もっと先にある。
「なあ、初兎」
俺は、最後の言葉を選ぶ。
選びながら、選んでいない。
「俺とひとつになって、終わろう」
初兎は、長い沈黙のあと、静かに頷いた。
拒絶じゃない。
肯定でもない。
破滅への、合流。
「……ないちゃんの、ひとつで」
かすれた声。
「俺だけの、ひとつで」
その瞬間、世界が閉じた。
他の音も、光も、可能性も、すべて遮断される。
終わってほしい。
終わらせたい。
この歪んだ関係が、これ以上、外へ漏れ出さないように。
俺は初兎を抱き、同時に壊す。
壊しながら、手放さない。
砕けた心も、尖った想いも、隠しきれない咎も――
全部、ここにある。
「……ないちゃん」
最後に呼ばれた名前は、もう祈りですらなかった。
俺たちは、互いの中でしか存在できない。
それが、選んだ結末だ。
どうでしたかああ?
コメント
2件
短い時間でめちゃ妄想膨らむお話書けるのすごすぎませんかね??(( 歪んでるのすごいすこです👍🏻👍🏻 結果発表まっててねーーーー!!!!!