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【放課後】
みんながいなくなった下校時間、いつものように遅くまでグランドでサッカーをやっていたレオが、誰もいない教室にランドセルを取りに来た
教室のドアをスパンッと開きレオがドカドカ入ってくる
すると3人の男子クラスメイトが、ハッと一斉にレオを見た、その三人は明の机を囲んでいた
「・・・?・・・・おい!何やってんだよ 」
ホッ・・・「なんだ・・レオ君かぁ~」
「焦ったぁ~ 」
「近藤先生かと思っちゃったよ」
三人はレオを見てホッとしたようだ、訝し気にレオが訊く
「そこ・・・成宮の机だろ?今何したんだよ?」
クスクス・・・・
「内緒だよ」
レオが覗き込むと明の机の引き出しに、水で湿った泥が沢山入っていた
「アイツもうこれで、教科書入れられないよ 」
一人がさも「面白いでしょ?」とばかりに肩をすくめる、レオが明の机にいたずらした三人をジロリと睨む
お互い目と目を合わせ、お互い相手の腹を探り合う
三人は今レオが敵になるか仲間になるか、見計らっている
しばらくしてレオが口を開いた
「お前らダセェぞ!それ今すぐ綺麗にしろよ!」
「え~面白いじゃん!」
「なんだよ~レオく~ん」
「お前もムカつくって言ってたじゃん、仲間にならないのかよ」
途端に三人が不安にゆがんだ顔をする
「お前らみたいなヤツと一緒にすんな!」
殴りかかってくるかな?・・と一瞬レオは思ったが、もともとそんな勇気があったら、陰でコソコソこんな事はしないだろう
「成宮の上履きもどこに隠したんだよ、言えよ」
「あっ・・・あれは僕達じゃないよ」
「嘘つけ」
同じクラスメイトだからレオなりに、仲良くしようと思っていたが、たった今その考えは捨てた
レオは三人を睨んで凄んだ
「いいか!今すぐ上履きをどこに隠したか言え!でないと先生にチクるからな、それとアッキーズにもな!明日からお前らは全校女子生徒の敵だ!」
..:。:.
「あ・・あったじゃねーかよ・・・・」
レオは花壇の花の中に埋もれて隠されている、明の上履きを見つけてホッとため息をついた
なんであんな奴の上靴を必死で探しているのか、自分で理由がわからない
ただ・・・・
時々見せるアイツの寂しそうな目
レオがクラスメイトとバカ笑いをしている時―視線を感じてアイツを見ると一緒に笑っていた
レオに見られているとわかると、ハッとしてすぐに目を反らして唇を引き結び、いつもの硬い表情になる
「・・・別に・・・どうでもいいけどよ・・無視してるのはアイツだ」
上履きはよく見るととても汚れているけど、まだまだ履けそうだ
ふっと息を吐いて泥をパンパンと払ってやった、これをこそっと下駄箱に返しといてやろう
ドサッ
鈍い音の方にレオが振り向くと、1メートル向こうに明が立っていた、さっきの鈍い音は、明がランドセルを落とした音だった
明の目線がレオの顔・・・からの手に持っている汚れた上履きに移った。明の顔がみるみる青ざめた
「え?・・・俺じゃね~ぞ!」
レオは左右に目を泳がす、その仕草が余計に自分が犯人だと言っているようなものだ
ヤバくないか?この状況?
キッと明がレオを睨んでずんずん向かってきて、上履きをひったくった
そしてくるりと向きを変えて、またずんずん去って行こうとしている
ムカッ・・・
「拾ってくれてありがとうもねぇのかよ!」
ムカついたレオの中に、途端に意地悪の悪魔が顔をもたげた、レオが去って行く明に叫んだ
「悪かったな!余計な事をして!成宮の御曹司は上履きなんて、いくらでも買ってもらえるもんな、それとも何か?女に守ってもらってるヘタレは俺達と口を利くのも嫌なのか?」
ピタリと明がレオに背を向けて一時停止した
とにかくコイツを怒らせたい―レオはわけのわからない衝動にかられた
入学式から数か月ずっと無視され続けてたコイツを、ぎゃふんと言わせれば、さぞかし気分がいいだろうと思った
「お前そんなんだからいじめられるんだよ!何されても黙っちゃってさ!本当はお前いじめられたいドMなんだろ!何とか言えよっ!このオカマ!! 」
明が憤慨して不意に振り向き、ずんずんレオに向かって来た
怒りに目をぎらつかせている明を見て、本当の彼らしさにレオは胸を突かれた
パシンッ
レオは明に右頬を叩かれた
「なにすんだよっ!!」
レオは明に飛び掛かった、これまでに一番好ましい明の態度だったので、レオも衝動に任せて明の脇腹に肘鉄砲を食らわせた
明はくぐもった唸り声を出すや否や、レオのトレーナーをひっつかんで、横に引っ張り半分のしかかって、片方の拳でレオのみぞおちを殴った
「このやろう」とか「男女っ!」とか散々罵倒を浴びせながら、レオも明に殴りかかる、何も考えず明の右頬にパンチをめり込ませた
しかし明は強かった、渾身の力を込めて左頬を殴る明の、パンチは重くとても痛かった
そこからも明は無言で蹴りとパンチの、はちゃめちゃな連打をレオに浴びせかけた
まるで今までのフラストレーションを一気に、爆発させたような暴れっぷりだった
レオはあのおとなしい明がこんなに、凶暴的なのに驚いた、と同時になぜかニヤついた
明はまったく闘争心が無いというわけではなかったのだ
明にドスンッと腹に蹴りを決められて、とうとうレオが腹を抱えて地べたに座り込んだ
ハァ・・・ハァ・・・「・・・・やるじゃねーかっ・・・」
レオが息を切らしながら明を見る
いつも綺麗にセットされた髪の明ではなく、レオとつかみ合いの喧嘩をしたせいで右頬を腫らし、ヨレヨレの涙目の明がそこにいた
ゼーゼー息を荒げてレオの前に立っている、今の明はキラキラ王子ではなく、びっくりするほど人間らしかった
ハァ・・・ハァ・・・「きっ・・・・ 」
レオは明を見つめ返し、明が何か言おうとしているのを、ピタリと静止して待つ、なぜか背筋が伸びる
「き?なんだ?」
レオの声がかすれた
「ききききき・・・きみにっななななっ・・何がわかるっっ!」
え?
怒って顔を真っ赤にして、その瞳はレオに対する怒りに燃えているが、なぜかレオの腹の中はワクワクが止まらなかった。まるでシュートを決めた後の興奮にさえ近い
ペシッ・・・・
明はレオに何か投げつけて、そして走って去って行った
レオはショックとばかりにその場に呆然と座りつくした
そして気が付いた
あいつ、し・ゃ・べ・れ・な・い・のか?・・・・
明に投げつけられたものがレオの足の間に転がっていた、何だろうと見てみると、小さく折り込まれた便箋だった
それは四方が折れ曲がっていて、ヨレヨレだったのでずっと以前から、持ち歩いていたような感じだった
レオはその便箋を開いた、ずいぶん小さく折られてあった、良く読めるように地面に手アイロンをしてシワを伸ばして読んだ
:.*゜:.
―レオ君へ―
今学校が終わって帰ってきてこれを書いています。君に初めて会ってから一週間が経っています
結論から先に言うと君の質問の答えは
「男です」
あの時・・・入学式の時横にいた君は、担任の先生は「男」か「女」かと僕に聞いてきたよね
僕は担任の近藤先生が男だと言うことは知っていました。なぜなら入学式の前に担任の先生と、会っていたからです
僕は「吃音症」という障がいを持っています。最初に話すときに言葉が出てこない時があります
いつもではありません、緊張した時や焦った時にそうなります
なのであの時君に話しかけられた時、僕は緊張してしまったのです
あれからずっと考えています
もう一度君が僕に話しかけてくれないかなと
だからわざと君の後ろを歩いたりもします、音楽の時も君の隣にわざと座ったりします、何度も君をチラチラ見たりします
雑巾も君の雑巾の横に干したりします、君が雑巾を取りに行ったときにタイミングを合わせて、僕も取りに行きます
もう一度君に話しかけてもらいたくて
気持ち悪かったらごめんなさい
僕から話しかけるのは絶対できないから、やっぱり緊張するので僕には友達がいません
今度こそは失敗しないぞと、家で何回も練習しています
そっと目を閉じて今日も僕は想像します
君に話しかけられて気の利いた返事をする自分を
冗談を言って君が腹がよじれるまで、笑わせている僕を
君のノートに名前を書いてあげている、カッコいい僕を
君みたいにカッコよくて、ぶざまでない自分を・・・
レオ君・・・・
「担任は近藤先生といって男」です
君の質問に答えるのに、ずいぶん時間がかかってしまっています
僕たちの間にはとても深い溝が出来た気分です
今でも僕は君に話しかけられるのを待っています
今度こそ失敗しませんように
―明―
::.*゜:.