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入間紫音ハ推理スル。

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入間紫音ハ推理スル。

5 - 第5話 脳天を突き抜ける痛み

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2023年03月19日

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bl視点

sm「おい、入るぞ」

スマイルは何の断りもなく職員室の扉を開ける。当然だが、中の教師陣たちは皆面食らってた。

sm「雨宮陽子はいるか?いたら出てこい」

教「ちょっと……!紫音くん。急に入ってこないで!」

他の教師が止めるが、スマイルは虫を追い払うように手を振っている。

sm「俺はお前らに興味ない。話が聞きたいのは雨宮陽子だ。おい、雨宮陽子、いるならとっとと出てこい」

更に声を張り上げると、奥から「もううっさいわね!」と大声が飛んで来る。

am「誰?私を呼んでるのは!」

sm「俺だ。雨宮陽子」

スマイルの声に反応して、雨宮先生は振り返る。眼鏡の奥の目が三角に吊り上がってて、いかにも神経質そうだ。

am「あんたが私に何の用?今日は部活無いわよ」

sm「部活なんか俺はどうでもいい。興味あるのは鈴村京花の事だ」

鈴村さんの名前を口にした途端、雨宮先生の目が泳いだ。心当たりがあるのだろう。

sm「おっ?今少し目が泳いだな。もしかして、身に覚えがあるのか?それとも、もう自分の家に警察が来たか?」

am「いや…そんな事……」

sm「じゃあ話を聞いていいか?」

am「いや…!それも……」

sm「なら話が早いだろうな。いやぁー、教師が生徒を襲うなんて言語道断。倫理に反するなぁ」

勝手に犯人に仕立て上げ、煽るように言葉を繋ぐ。次第に職員室の視線が集まってきて、用があって訪れた生徒もこちらを見てた。

am「……っ、あぁーもう分かったわよ!とにかく知ってることを話せば良いのね!?」

sm「なんだよ。話してくれるならとっとと言え。無駄な時間を作りたくないんだよ」

スマイルの態度にイラッとしたのか、何か言いたそうな顔だったが、雨宮先生は何処かに向かって歩きだした。

sm「おい、何処に行く」

am「何処に行くって、話ができる場所。職員室じゃ出来ないでしょ」

sm「何でだ?もしかして、お前が犯人だから……ふぐっ!?」

余計な事を言いかけたスマイルの口を、両手で塞いだ。気を悪くした雨宮先生から証言を聞き取れないかもしれない。

am「……何してんの」

bl「あっ、何でもないですぅ。はい、じゃあ行きましょう」

両手の下でスマイルが何か騒いでるが(恐らく僕に対する罵詈雑言)無視して、雨宮先生に着いてく。

瞬間、手の甲に鋭い痛みが走り、脳天まで突き抜けた。

sm「お前っ!勝手に人の手を塞ぐな!」


sm「さて、話を聞こうか」

相談室に連れられたというのに、スマイルは偉そうな態度でパイプ椅子にふんぞり返ってる。ちなみに、僕の手の甲には、痛々しい八重歯の跡が残ってる。めっちゃ痛い……

am「話って……特に大したことは無いわよ」

sm「大したことかどうかは俺が判断する。お前は知ってることを話せ」

am「あなた……!教師に対してお前って……!」

ヤバい。これはトラブルになる予感がする。僕が二人の間に入る前に、スマイルが口を開く。

sm「俺は誰に対しても二人称は『お前』だ。お前一人だけ特別扱いしてるわけでも無い。分かったらさっさと情報を話せ」

余計なこと言うなバカっ!スマイルの火にガソリンを注ぐ発言で、雨宮先生の顔が紅潮していく。

bl「待って下さい!うちのスマイルが余計なこと言ってすいません!」

sm「ぶるーく何で謝るんだ?俺は何も余計なこと……」

bl「お前は黙ってろぉ!」

また余計なことを言いかけたスマイルの頭を勢いよくはたく。「いった!」と頭を抑えると静かになった。雨宮先生は「何この子たち」とでも言いそうな顔をしてる。

bl「すいません……捜査に協力してくれませんか?」

殊勝な態度に毒気を抜かれたのか、「え、えぇ……」と雨宮先生は話始める。

am「といっても、私とあの子に接点は無いわよ?ましてや、襲うなんて」

sm「何を言ってるんだ……お前はよく鈴村京花にスペルの間違いを指摘されてただろ」

まだ痛いのか、頭を抑えたまま口を挟む。

am「はぁ?……まぁ確かにそうだけど、それだけで人を襲うほどバカじゃないわ」

sm「いや、それは違うな」

一転してスマイルは真面目な表情になる。

sm「人間というのは、お前が思ってる以上にバカだ。それこそ、ちょっとしたことで人を襲うくらいな」

急に真面目な声になったスマイルに、雨宮先生は困惑してる。もちろん僕もだ。部屋に重い空気が流れる。金縛りを解いたのは、パン!という小気味いい音だった。正体は、スマイルが両手を合わせた音だ。

sm「まぁそれは良いとして。鈴村京花が襲撃された日のことについて話せ。俺が質問をするからお前は答えろ」

さっきのスマイルを見て印象が変わったのか、抵抗することなく「分かったわ……」と言った。

sm「まず一つ目だ。お前は鈴村京花についてどれくらい知ってる?」

am「どれくらいって言っても……そんなに知らないわよ。他の先生も知ってるような事しか知らないわ」

sm「他の先生も知ってるような情報とは?」

am「住所とか家庭の話とか。個人情報のこと」

sm「じゃあ鈴村京花がてんかんを患ってることは知ってたか?」

am「てんかん?てんかんってあの、震えるやつ?」

sm「あぁ、そのてんかんだ」

am「知ってるわけないでしょ。保健の先生なら知ってるかもだけど」

sm「そうか……次だ。お前はいつこの学校にきた?」

am「そうねぇ……七時半くらいかしら」

sm「丁度同じくらいか……」

ボソッと呟いたが、雨宮先生には聞こえていないらしかった。スマイルは暫く考え込むと、勢いよく立ち上がった。

sm「よし、これで終わりだ。仕事に戻っていいぞ」

am「は?こんだけ?」

sm「何だ。もっと尋問されたかったか?」

am「んな訳ないでしょ!とっとと帰りなさい!」

怒声を背中に感じつつ、僕らは逃げるように相談室から出た。


bl「ねぇ、雨宮先生やっぱり怪しくない?」

sm「ほう。なんでそう思うんだ?根拠を聞かせてもらおうか」

相談室から出た僕らは、図書室に向かうため廊下を歩いてた。その途中で、スマイルは壁に背を預け、話を聞く体制になってる。

bl「いやさ、明らかに動揺してるし」

sm「ふーん……で?」

bl「え?」

sm「は?」

僕らは間抜けな声を出して見つめあう。

sm「いやだから、続きは?」

bl「え、無いけど」

sm「……てめぇぶっ殺すぞ!」

bl「ええええ何でぇ!理不尽!」

スマイルが大声を発した途端、首に手をかけられた。力を込めれば多分絞まる。

sm「何が理不尽だこの馬鹿者が!そんな理由で人を逮捕して犯人じゃなかったらどうする!?そういうのを起こさないために俺らは捜査してんだ!だから今から立石直也に会いに行くんだよ!」

息継ぎをすることなく捲し立ててくるスマイルに気圧され、少しのけぞってしまう。

sm「チッ、分かったか?」

bl「はい、分かりました……」

スマイルは舌打ちを弾けさせた。僕は少しシュンとして、図書室に向かって歩いた。


sm「おい立石直也出てこい。いるのは分かってんぞ~。こってり絞ってやるからな~」

まるでヤクザのような言葉を吐きながら、スマイルはガラガラと図書室の扉を開けた。カウンターに座って本を読んでた少年が、ビクリと体を震わせた。

no「えっと、あの……僕に何か用ですか?」

第一の印象は、「地味」だった。

ボサッとしてて放課後なのに寝癖だらけの髪の毛。長いせいで、目にまでかかってる。その目は野暮ったい眼鏡が邪魔してて、目元は全く見えない。肌は病的なまでに真っ白。今どき珍しい。でも、それ以外は普通。身長とか体型も普通。なんだが、色々とアンバランスだ。

sm「おおそうだお前だ。よし、鈴村京花について聞くぞ」

さっきまで不機嫌だった(多分僕のせい)スマイルは、立石くんに会うと上機嫌になる。

鈴村京花、と言った途端、彼の体がビクッと震えた。

no「……なんで僕に、鈴村さんの事について聞くんですか」

sm「簡単だ。俺らはお前が鈴村京花襲撃の犯人だと疑ってるからだ」

瞬間、立石くんの眼が前髪越しでも分かるほど見開かれた。呼吸が少し速くなってる。

no「…………もしかして、僕が鈴村さんを襲う動機があるんですか」

sm「俺は根拠無しに疑わない。ったく、物分かりの悪い奴だな」

チッと二回目の舌打ちをした。また不機嫌になってしまったようだ。

sm「はぁ…コイツと話してたら気が失せた。ぶるーく、帰るぞ」

bl「は?良いの?」

sm「仕方ないだろ。俺だって話を聞きたいけど、コイツが馬鹿だからめんどいんだよ」

「馬鹿」の所で、立石くんの鼻先にビシッと指を指した。いきなり「馬鹿」と言われた上、指を指された立石くんは眉の間に深いシワを刻んだ。

どうしようか……スマイルはこうなったら中々下がらない。出来れば、犯人を早めに見つけるために、ここで立石くんの証言が必要だとは思うんだけどな…..

しょうがない。「あれ」を使おう。

bl「ねぇスマイル」

帰ろうと図書室の扉に向かっていたスマイルを呼び止める。

bl「今欲しい本ってある?」

本といった途端、体がピクッとした。

sm「……賄賂か?」

bl「犯人を早く見つけたいだろ?けど、スマイルは聞く気が無い。そうなったら賄賂しかない」

「うぅ~……」と絞り出すような唸り声を出し、スマイルは本気で悩んでる。額にはうっすら汗すら浮かんでた。

たっぷり三分は時間が経った頃、またしても絞り出すような声を出した。

sm「………………分かった。話を聞こう」

僕は内心ガッツポーズをした。

実はスマイル、周りから見れば天才の完璧人間のように見えるだろうが、実際は弱点の方が多い。「コミュニケーションが苦手」もその一種だ。更に、集中すると自分の世界から中々帰ってこない。その集中するものの一つが「本」だ。

彼は無類の本好きで、一度部屋に行ったことがあるが、本棚に収まりきらない本が床に樹となって積まれてて、まるで魔女の家だった。

それでもまだ本は足りないらしい。それを有効活用できるのが今のような状況だ。本を賄賂にすれば、大体はなんとかなる。

sm「……仕方ない。本のためだ。そう…本のため……本…ほん…ホン……」

……ヤバい。クスリをキメた薬物中毒の患者にしか見えない……

sm「よし、本のために話を聞こう。立石直也。お前は鈴村京花についてどれくらい知ってる?」

スマイルは再びカウンターに近付いた。

no「どれくらいって…対して知りませんよ。興味も無いし。でも……」

立石くんの本のページを握る手に、力が込められた。

no「…酷い奴だとは思ってます」

sm「ほう……何故だ?」

スマイルは立石くんが鈴村さんを恨んでる理由を知ってる筈だ。なのに、知らないフリをしてる。何故だと聞こうとすると、スマイルが意味ありげな流し目をしてきた。僕は言いかけた言葉を飲み込んだ。きっと、意味があるのだろう。

no「……アイツは…僕の命を奪ったんです」

sm「命を?お前は普通に生きてるぞ」

比喩表現を読み取ることが苦手なスマイルは、言葉をド直球に受けとる。僕はその頭を軽く叩いた。「いたっ」と小さく言ったが、それ以上は何も言わなかった。

no「僕は、幼稚園の時に父を亡くして……父が亡くなる前に貰った小さなロボットのキーホルダー……それだけが父の形見でした」

痛々しい声で言葉を紡いでいく。

no「それがあると、何だか見守ってくれる気がして……なので、学校にも持ってきてたんです」

sm「いや、死人のたま……ふぐっ!」

また余計な事を言おうとしたスマイルの口を塞いだ。また噛まれるだろうな~……

no「そして、あの日が来たんです。僕はいつも通り、委員会活動のため図書室に向かったんです。暫く本を読み漁っていたら、教室に忘れ物をしたことに気付いたんです。……2、3分……たったそれだけの間に、キーホルダーは無くなってました。ちょうど近くにいた鈴村さんに知らないか聞いたら、『ゴミ出しのついでに捨てた』と、軽々しく言ったんです……それから一度も、アイツの行いについて忘れたことはありません……」

話してて思い出したのか、俯いて肩を振るわせ始めた。小さな嗚咽が鼓膜を揺らす。

bl「いった!」

少し感傷的な雰囲気を、僕の大声が破った。理由?……職員室でのやり取りを思い出してくれ。

sm「おめぇ、さっき言った事を忘れたのか。この馬鹿者が」

手の甲には、痛々しい八重歯の跡が二つついてた。

sm「なんでそんな鈴村京花を恨んでるんだ?ロボットのキーホルダーくらい、また買えばいいだろ」

no「……そんな軽いものではありません。あれは、父が亡くなる直前、僕の誕生日にくれた、世界でたった一個のキーホルダーだったんです。そう…世界で、たった一個……」

言葉を味わうように繰り返した立石くんは、唇を噛み締めた。その姿に、背筋に寒気が走った。

sm「…次の質問だ。お前は何時くらいに登校した」

no「いつも七時くらいです。でも、鈴村さんが倒れたらしい日は、少し遅れたかもしれません」

sm「最後だ。お前は鈴村京花がてんかんを患ってる事を知ってたか?」

no「てんかん?いいえ、知りませんでした。薬を飲んでる所は何回か見かけたことありますが」

sm「ふ~ん……そうか…よし、ありがとう。お前が犯人だったらまた会いに来るよ」

no「……僕はやってませんが」

言い切る前に、スマイルは図書室から出てった。


sm「今のところ、一番怪しいのは立石直也だな。根拠は弱いがな」

bl「理由を聞かせてもらおうか」

sm「……それは俺の真似か?」

じとりとした声は無視する。はぁ、とため息をついてスマイルは話始めた。

sm「お前も話を聞いてて感じただろうが、アイツの怨念は凄まじい。その気になれば、人を襲うくらいな」

確かに、根拠は弱い。しかし、話を聞いてて僕もそう感じたため、反論が出来ない。

sm「まぁ、ともさんに監視カメラの映像を調べるよう頼んでたから、それを見ればもっとよく分かるかもな」

その時、ヴヴッとバイブ音が聞こえた。

sm「噂をすれば、だな」

音の発信源はスマイルのスマホのようだった。言葉から察するに、ともさんからだろう。

sm「ともさんお疲れ。何か分かったか?……あ?スピーカー?別に良いが……」

スマホのスピーカーボタンを押した。スマホから、電波越しのともさんの声が聞こえてきた。

tm『あ、スマイルくんぶるーくくん元気?』

sm「元気だからとっととしろ」

気のせいかもだが、ともさんの声は覇気が図った。珍しいな……いつもハキハキしてるのに。

tm『それがねスマイルくん…もう捜査の必要は無くなった』

sm「は?どういうことだ」

tm『そのまんまだよ……』

次の瞬間放たれた言葉に、僕は目を見開いた。

tm『犯人が自首したよ。彼氏の荒牧日向くん』

次回へ続く

入間紫音ハ推理スル。

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