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「そういや、忘れないうちにメルアド交換しよう。名前も」
青年はそう言うと、旅人はメルアドがないと言う。
「本当は母国を出る前に取るつもりだった。その頃同居してた弟は、インターネットをADSLから光ファイバーに替えようと考えてた。そこで、手続きからセッティングまで、僕が全てやるのを条件に、メルアドを弟から一つもらうことで話がまとまってた。僕には知り合いの業者がいたんだけど、タイミングよくその人から営業の電話が来たんだ。早速相談すると、ウチはどこよりも安く光ファイバーを引ける、という。さらに、光ファイバーにするとPCだけじゃなくて、電話も光電話になる、その方が安いという。その話に従うことにした。光ファイバーの工事が終わった。作業員は、あとはPCの設定だけど、それは全部、添付のCD-ROMのウィザードに従えば簡単だという。でも、僕はそっち方面、素人だからね。立ち去ろうとする工事の人に設定をお願いした。彼は意外な苦戦のあと、ここから先は簡単です、プロバイダー情報を入力したりするだけですから、と言って部屋を出ていった。今思えば、彼を帰しちゃいけなかった。情報を入力しようとすると、接続アカウントとか、SMTPアカウントとか、僕の知らない言葉がモニターに並んでた。弟から渡されたプロバイダー情報の紙きれを見ると、ユーザーIDだメールパスワードだというのはあるけど『接続アカウント』や『SMTPアカウント』とかいう用語はどこにもない。そこで、紙切れの端にあるプロバイダーのサポートデスクに電話した。『接続アカウントというのはユーザーIDというものを@マーク以前につけたもので、SMTPアカウントというのは弟のメルアドのことだ』と電話に出た女性はいう。そんなの分かんないって。サポートデスクの人達は、自分達は知ってるもんだから、次々と専門用語で話し続ける。こっちは素人ですと繰り返しても、向こうは立て板のごとくだ。それでも、どうにか情報を入力し終えた。ところが、『接続できません』の警告がPCの画面に出てきた。そこで、またもサポートデスクに連絡した。すると、『コース変更を行なってからでないと設定はできない』という。コース変更は僕が申込んだ業者の方から話行ってませんかと聞くと、それは『ユーザーが自分で行なわなければならない』という。ならコース変更しますから設定お願いしますと改めて言うと、『それは規則で、ユーザー自らウェブ上で行なってもらうことになっている』と係員は言う。でもウェブ自体が開いてないんですよ、と言うと、その人は『担当が別にいるんで、そっちに話してほしい』と、新しい番号を教えてきて電話が切れた。そっちへ連絡すると、コース変更の申込は受け付けてくれたんだけど、それが完了するのは最短で翌日昼だという。その間はメールもインターネットも使えない。弟は怒ったね、学校の重要な課題提出があったようなんだ。ところが、問題はそこで終わらなかった。それまでは、不在のときにかかってきた電話は、弟の携帯電話へ転送するようになってたんだけど、一切転送されなくなった。プロバイダーに文句をいうと、『それは電話会社に言ってくれ』という。電話会社に連絡すると、『光電話にすると設定がすべて変わる、マニュアルに書いてある通りに設定をやり直せばできる』という。分厚いマニュアル。僕の出発日はついに翌週に迫っていた。係員に聞きながら、設定をやりなおした。それでも、うまくいかない。そのうちなんと、電話そのものが止まってしまった。係員は、『故障係に連絡してくれ』と新しい電話番号を残して消え去った。その番号に電話をすると、自動音声が『暫くお待ち下さい』、を永遠に繰り返す。こっちは荷造りがまだ終わってない。そもそも今回の発端は、いいことをさんざん言い散らかして、僕から受注を取った知り合いの業者だ。彼に連絡して、あとの全て責任もってやってもらいたいと言うと、『それは電話局の故障係にしかわからない』という。お前は、契約さえ取れればいいのかよ。そのうち、プロバイダーのコース変更手続きが完了した。すると、今度は『コース変更に伴って、今入っているセキュリティ・コースとの整合性に問題が出る可能性がある。ウィルスソフトがうまく作動しないかもしれない、ウィルスソフトの会社と連絡とってくれ』と、プロバイダーの係員は抜かしてきやがった。いい加減にしろよ!結局、僕はメルアド持たずに旅に出た。その後、光電話と光ファイバーがどうなったのかは、知らない」