コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
“ 純愛 ” なんか 俺は 信じない
蝉がうるさく鳴き 太陽も皮膚を焼くように暑い6月
俺達 三年にとって 最後の 体育祭
「 あぁ ~ 今日も暑っちぃなぁ ~ 」
「 セミもうるせぇ ~ … 」
皆 ワクワクとドキドキで胸が高まっているだろう
「 なぁ 今日も彼奴 一番なのかな ?! 」
“ 彼奴 ” __ 俺のことだ
また 堂々としなければならないのか
俺は好きで一位になっている訳じゃない
また 一位にならなければ 俺の味方は居なくなり 罵られるだろうか
大丈夫 あと一年だけの辛抱だ
そう思いながら 上辺だけの笑顔でグラウンドに広がる皆に挨拶をする
「 おっ 来たぞ 岩本照 ~ !! 」
「 よっ 岩本照 !! 今日も全部一位か ?! 」
「 照くんって凄いよね ~ 」
「 全部一位なのに 謙虚なんだもん ! 」
「 もう 非の打ち所が無い !! 」
四方八方から飛び交う歓声が とても耳や頭に刺さる
皆が俺に目を向ける中 ただ一人 テントに向かってとぼとぼ歩いている
その髪色と彼の姿に蝋燭に小さな火が付いたように心が暖かくなった
「 … 彼奴さぁ 同じ三年のくせに 照と違って皆から嫌われてるんだよなぁ 」
「 そうだよなぁ … まるで太陽と月 !! 」
一人の男子学生が 両手を使って表す
「 開会式まで あと五分 あと五分 」
アナウンスがグラウンドに響くと皆は一斉に走り出した 俺もそれを追う
俺が皆の前に出ると 一気に歓声が上がる
「 照 ~ 楽勝だろ ~ !!! 」
「 余裕カマせ ~ !! 」
こんなに盛り上がっている中 また たった一人だけ 静かに笑顔のまま此方を見ている
綱引き 玉入れ 二人三脚 俺の居るチームは全部勝った
最後はリレーだけ
さっきまで学年ごとに別れていたが リレーは 一学年 4グループごとに別れる
「 … ねぇ このチーム足遅くない ? 笑 」
「 あぁ 言われてみれば … 」
「 ねぇ わざとでしょ !! 笑 」
「 うるせぇよ !! 」
「 俺らもそこまで足遅くねぇし !! なぁ !! 」
「 笑 ごめんごめん 」
俺のチームは例年通り足の遅いチームだった
でも 仲がいいからこんな冗談も笑って言い合えた
「 おっ アンカー 照と彼奴じゃん !! 」
横を見れば 俺より小柄の男の子
背も低いし 追い抜かれないだろう
ただ… 何故か 胸がドキドキする
「 … よろしくね ! 」
「 … 」
彼は俯いたまま頷き 笑顔を見せた
嫌な笑顔じゃなくて 楽しそうな笑顔
心臓の音が相手に聞こえそうだ
“ よーい 、 ”
ピストルが鳴った瞬間 一斉に走り出した
生徒だけでなく 観客からも野次や歓声が聞こえる
遂にバトンがアンカーに回ってくる
アンカーは2周走らなければならない
さっきの子達のチームは現在4位だ
一度 深呼吸をして …
「 よし 行ける 」
呼吸を意識しながら誰も居ないレーンの上を走っていく
最後の直線 あと4m あと二歩
“ また ” 今年も一位だ
自分も皆も悟るなか 何かが一瞬で横切ったような気がした
気付いたとき 前にはあの子が居た
俺は 2位だ
生徒も先生も皆 唖然としている
でも 俺は 嬉しかった
運動会は無事に終わったが 生徒のがっかりしたような顔と声が嫌でも耳と目に入る
俺の気持ちは何故か 底なしの海に溺れていくようだった
翌日 学校は休みだったけど俺は学校に用事があった
「 ごめんよ 岩本君 」
「 いえいえ 全く ( 微笑 」
昨日 運動会が終わった後
俺達のクラスだけ重要な書類を配り忘れていたらしい
先生達もとても忙しそうだったから
俺は住所とその書類を貰った
「 24人か … 」
正直 足が重い こんな気持ちになるならもっと平凡に努力するべきだった
どうして 変な意地っ張りだけが 欲をほしたのだろうか
俺は生徒が誰も居ない学校がとても好きだ
こういうのも多々あったが バイトみたいで楽しかった
三年の教室がある三階廊下
昨日の子が歩いてきているのが 目に入ってきた
……やっぱり自分の心臓の音が聞こえる
どうして…
知らない振りをして すれ違おうとした瞬間…
「 いつも一位と最下位の人はプレッシャーが大きいよね ~ 」
「 … え ? 」
「 俺が勝った理由はそれだよ ~ 」
楽しそうな声で言った彼の言葉は意味が分からなかった
昨日 アンカーまで最下位だったから ?
「 … 」
「 … 照を一位にさせないため 」
彼は振り返って俺の顔を見た
「 一位になるの 嫌だったんでしょ ? 」
「 いや そんなこと … 」
「 じゃあ … 」
「 俺に負けたときのあの嬉しそうな顔は何だったの ? 」
「 … それは 」
彼は 右手で首をさすり 左手の本を見せながら言う
「 じゃあね ~ 俺 本 返しに来ただけだから 」
「 ちょっと待って ! 」
「 ん ~ ? 」
「 名前 … 名前 なんて言うの ? 」
「 え ? 照と同じくらい有名だと思うけどなぁ 悲しいなぁ 」
とても悲しそうには見えないけど …
「 佐久間だよ 佐久間大介 ! 」
「 改めてよろしく ! 」
「よろしく… ( 微笑 」
元気だなぁ …
俺と真反対の性格だ まるで太陽と月
教室に戻っていく彼の後ろ姿は誰よりも美しかった
それに比べて とぼとぼ教室に戻っていく俺の後ろ姿は どれだけ情けないんだろうか