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結局、そのまま一緒に帰ることになった。
雨は弱くなる気配もなくて、駅まで歩く
うちに、スーツは少し濡れていた。
「近いなら送るよ」
そう言われて、断るタイミングを失う。
気づけばマンションの前にいた。
「ここ?」
「……うん」
鍵を出す手が少し震える。
ここまで来たら帰らせるべきなのに、
なぜか言葉が出ない。
「上、寄っていく?」
口に出した瞬間、自分で驚いた。
あいつは一瞬だけ黙って、それから静かに
笑った。
「いいの?」
その問いがやけに低くて、喉が渇く。
頷くと、2人で部屋に入った。
ドアが閉まる音が妙に大きく響く。
「タオル出す」
背を向けた瞬間、
「ありがとう、優真。」
名前を呼ばれて固まる。
振り向くと、真っすぐ見られていた。
「……なんで知って」
「社員名簿」
さらっと言う。
でもその目はずっと前から呼び慣れていた
みたいだった。
「俺も呼んでいい?」
そう聞くと、あいつは少しだけ息を止めた
「玲央でいいよ」
その名前を口にした瞬間、距離が一気に
縮んだ気がした。
「玲央」
試しに呼んでみると、
彼の表情がほんの少し崩れる。
嬉しそうで、危うくて。
「……もう一回」
小さく言われて、胸がざわつく。
「玲央」
今度は近くで呼ぶ。
その瞬間、手首を掴まれた。
でも今度は強くない。
ただ、逃げないように触れてるだけ。
「名前呼ばれるの、好きなんだ」
低い声が耳に落ちる。
「君の声で呼ばれると、
ちゃんとここに繋がってる気がする。」
距離が近い。
呼吸が触れそうで、 目を逸らせない。
「…ねぇ優真」
指先が、濡れた髪をそっと払う。
「少しだけ触れていい??」
断るべきなのに。言葉が出ない。
代わりに、 小さく頷いてしまった。
その瞬間、 玲央の指が頬に触れる。
優しくて、 でも逃げられない温度だった。
唇が近づく。
触れる直前で止まって、 低く囁かれる。
「怖い?」
頷けなかった。 代わりに息が揺れる。
その答えで十分だったみたいに、
玲央は静かに笑って——
次の瞬間、
そっと唇が重なった。