「やっほー、イギリス!来てあげたよ」
よく手入れされた庭のある街外れの屋敷に、騒がしい声が響いた。時刻は午後4時近く、アフターヌーンティーどき。声の主は近くの椅子に腰掛けた。これから、楽しい…いや、愉快なティーパーティが始まる。
「ありがとうございます、頼んでないけど」
「まあまあそう言わずに。『栄光ある孤立』をしてる君にとっては貴重な情報源でしょ?」
「…否定はできませんね。ところで、この間アイスランドに暴言を吐かれたんですが、あなたの教育はどうなってるんですか?」
「僕じゃなくてノルに聞いておくれよ。離れて暮らしてるから話す機会なんてほとんどないのさ。」
「うーむ」
どうしたもんか、と顔をしかめた館の主は、おもむろに席を立ち、来客に尋ねた。
「紅茶淹れますね。何がいいですか?」
「じゃあアールグレイで。一応ミルクも持ってきて」
「気が合いますね。分かりました」
「持ってきましたよ」
「おかえり…って何その不気味なティーポット。」
帰ってきた館の主の手には陶器のティーポット、そして人の形をしたティーポット。注視すると持ち手付近に二つ穴が空いていることがわかる。
「ふふふ、『アサシンティーポット』です。この間手に入れました」
「アサシン?物騒だね」
来客が顔をしかめる。
「東の国では暗殺に使われていたもののようです。ブレンドティーを飲みたいあなたにはぴったりだと思って」
「なるほど?僕これから殺されるんだ?」
「まあまあ、見ててください。」
館の主は陶器のティーポットをテーブルに置き、カップをとって紅茶を注ぐかたちになった。
「まず、この『アサシンティーポット』は内部に二つの空間があります。今でしたら上の層にアールグレイを入れているので、下の穴を塞ぐと…こんな具合に、紅茶のみが注がれます」
「おお〜。ぱちぱち」
「自分で効果音出す人なかなかいませんよ…さて、次は上の穴を塞ぎます。すると、下の層には__」
「毒が入っているわけだね。だから『アサシン』なんだ。」
「その通りです。もっとも、今入れているのはミルクなので…じゃーん、ブレンドティの出来上がりです」
「自分で効果音出す人なかなかいないよ…おいしそうだね!普通に混ぜた方が速そうだけど」
「遊び心があってもいいじゃありませんか。」
「そういうもんかね」
「そうですよ…そういえば、フィンランドさんはお元気で?」
「元気だよ、多分。基本家にいないから微妙だけど、ご飯はいつも無くなってるし…山に篭って猟でもしてるんじゃないかな?」
「それは何より。実は、面白い噂話が立ってまして。『彼に会えたら夢が叶う』…とかいう。」
「な、なにそれ…流れ星みたいな…」
「面白いですよね」
「あ、そういえば…」
会話は途切れることを知らない。今日も数時間、2人の声が庭に響き続けた。
空が茜色に染まり始め、鳥も巣に帰りはじめる時間。空を見上げた来客が、潮時と言うように席を立ち上がった。
「そろそろ帰ろうかな、暗くなってきたし」
「わかりました。ではお開きにしましょう。」
「今日はありがとうね!いい土産話ができた」
「ホラ吹きすぎないようにしてくださいね…あ、そうだ。今日はオーストリアが演奏会をしているはずなので、少し足を運んでみては?」
「そうしてみよっかな。じゃあね!また今度」
「はい、さようなら」
来客を見送るついでに郵便受けに近づいた主は、一通の手紙が届いていることに気づいた。
コメント
3件
これが文才...か... 表現方法が天才的すぎる... アサシンティーポットだ! 使い方がかっこいいんだよなぁ...好き
どうも、だんでらです!ほのぼの系の供給が欲しくて自給自足しました。書き方を模索中なので回によって雰囲気が変わると思いますがあしからず!今回は掛け合いを意識してみました。 サムネイルはいずれ描こうと思います!読んでくださりありがとうございました!