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【はじまりの朝】
「へっくしょんっ!ずるっ…あー…だるぅ…」
高3の5月。
ゴールデンウィークも終わって
もう初夏の匂いがしてきている
というのに… いまだに花粉症が…
しんどい…
家からほんの30分の
登下校の道のりが
果てしなく長く感じる。
まぁ俺の場合は
ほとんど1年中花粉症で
こんな状態なわけだけど。
「っふ…ふ…ぁ…っくしょい!!!」
何度目か数えられないくしゃみを
勢いよく放った瞬間
「いてぇっ」
「うがっ」
目の前にいた男子に
思い切りぶつかってしまった。
「いたぁ…」
「ごめっ…ごめ…っくしょん!」
「うわ…大丈夫?…ですか?……雨栗先輩だ…」
鼻水をすする合間に 小さく聞こえた
自分の名前に顔を上げると
目の前に綺麗な顔の男の子。
「あーーごめんねぇ…あれ?わたしのコトしってるの?」
「あ…いや…っ…知ってるというか…はい、知ってます。3年の雨栗先輩ですよね」
「ふははっ、やったね、わたし有名人じゃん。君は1年?」
「はい、1年です。」
「名前は?」
「水月ルザク…」
「ほーーーっ、ルザクくんね♪覚えておこうじゃないかっ」
「いや、別にいいです…」
「なんでだよっ!!」
綺麗でかわいい顔をしてる彼。
1年ということは
4月にうちの高校に入ってきたばかり。
初々しくて可愛くて、
その上、すでにわたしのことを
チェック済みとはっ。
なかなかいいセンスをしている。
「ふぁぁっっくしょんっ!ちくしょうめっ!」
「ふふっ…花粉症ですか?」
「そうなのよ、もーやんなっちゃう」
「まだ花粉とんでるんだ…」
「わたしのはね~…」
他愛もない会話をペラペラと 交わしながら ようやく学校の校門にたどり着いた頃
「やばいやばいやばいやばいやばいいいいいいっっっ」
「え?」
「は?」
大きな声と足音が
後ろからバタバタと近づいてきた。
「おいっ時間やばいぞ!急げ急げ急げーーー!」
「え?」
「は?」
そいつは器用にも口にパンを加えたまま
どっかの漫画の主人公みたいに
走って校門へ向かってくる。
「やべっ」
「逃げなきゃっ」
その嵐みたいなやつを避けるため、
俺とルザクは二手に分かれて道を開けた。
「だぁぁっ!ほらっ!急げ!間に合わねぇよ!!」
「うわっ!おいっ!」
「わぁっ」
せっかく道を開けたのに、
そいつはなぜか俺たちの腕をつかんで
一緒に走り出した。
「ちょっ、まっ、おいっ!こめしょー!!!!」
「わぁぁぁ…」
「あぶねーっって!!」
「だってだって!時間がっ!」
「まだ予鈴鳴ってねぇよ!!」
俺が力の限り叫ぶと
そいつは校庭の真ん中で
急ブレーキをかけた。
「へ…?」
「うわっ」
「わぁ…」
俺たちは腕を掴まれたまま
なんとかその場で息を整える。
「おまえなぁ!周りを巻き込むなっ!あぶねーだろっ」
嵐のように騒がしいそいつは
俺のクラスメイトの米将軍。
米が好きすぎて自らその名を名乗り
みんなからそう呼ばれている男。
俺は面倒くさくてこめしょーって呼んでるけどね。
「えええ‥‥だってもう時間ねぇと思ってぇ。ほら、俺の時計もう過ぎてる…」
「それ、おまえの時計狂ってっから…」
「まじかよぉ…うえ~…俺の苦労はぁ?」
「しるか!その前にルザクに謝れ!」
「ルザク?」
今気づきました、みたいな顔で
こめしょーはルザクの顔を覗き込んだ。
「おおっ!べっぴんさんやないかぁ~い!」
「おいっ、謝れっつーの!」
「ごめんごめん、びっくりさせたなぁー!」
「あ、はい、いえ…うわっ」
こめしょーは気安く
ルザクの頭をガシガシっと撫でた。
「パン、食べるか?」
「おまえ、食いかけ渡すなやっ!」
「うまいよ?食う?」
「いらねぇって」
「新しいのもあるんよ」
「まじか、食う」
「あはっ食うんじゃん。ほれ、るざぴも」
「あ…ども…ルザ…ぴ…」
そういえば、こいつと出会ったのも
高1のこの時期だった。
中学まで関西にいたこめしょーは
いつもこのノリで入学当初から騒がしく
目立つ存在だった。
俺は当時あんまり
友達もいなかったんだけど…
こめしょーは最初からこんな風に
距離を縮めてきて
懐にすっと入ってくる奴だった。
だから俺もこめしょーとは
自然と仲良くなれた。
「あの…そろそろマジでやばいと思います…」
馬鹿みたいに言い合っている
俺たちの制服の袖を
ルザクがピンっと引っ張った。
「あ…やべっ」
「もー、お前が変なコトやってるから~」
「なんだよー!お前もだろー!」
「とりあえず、急ぎましょう」
俺たちは並んで、昇降口へ走った。
「うぉっ、るざぴはえぇっ」
「こめしょーパン落とすなっ!」
「じゃぁ、ボクこっちなんで!」
ルザクは素早く上履きを履くと
1年の教室の方へ向かって走っていく。
1年の方が3年の教室より 遠いから
悪いことした…
「ルザクーーー!また話そうね!」
「るざぴっぴ、またね~!」
俺たちが大声で手をふると
ルザクは高速で走りながら
振り向いて手を振って
すぐに見えなくなった。
「そういや、なんで俺のこと知ってたのか聞きそびれたな…」
「なになにっ、運命の出会いですか!?」
「ふえっ…くしょん!」
「おいっ!鼻水飛ばすなっ!」
「飛ばしてねぇ!」
「ほれ、ティッシュやるから」
「さんきゅ」
わたしたちの高校最後の1年は
まだ始まったばかり。
マヤグスクから
上手すぎやろがい。うちの母。
コメント
1件
青春だねぇエモいねぇ( *´꒳`*)