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🖤:琉生(るい)
💚:世那(せな)
「琉生と世那って幼馴染なんだろ?」
「なんであんな差ついたんだろ」
「てか琉生くん可哀想じゃね?」
「世那と一緒とか足引っ張られそう笑」
廊下から聞こえてきた陰口に、
世那は眉を寄せた。
聞こえないふりをするのは
もう癖になっていたけれど、
それでも胸の奥がぐらりと揺れる。
俺たち2人は
昔からずっと一緒で対等だった。
勉強だって運動だって喧嘩だって。
何をするにも背中を預け合って、
どちらかが無理をしなくても良かった。
そのはずだった。
中学に上がってから急に差が開き始めた。
琉生は驚くほどの成長を見せ、
学年トップの成績に
部活動でもレギュラー。
教師からの信頼も厚く、
まさに絵に描いたような優等生。
対して世那はどれも中途半端。
勉強は苦手で運動も不得意。
得意と呼べるものが一つもなかった。
『どうしてこうなった?』
わからなかった。
昔と同じように笑って、
昔と同じように隣にいるのに、
結果だけが離れていく。
そしてその差によって笑われるのは
いつも自分だ。
(……もう離れたほうがいいのかな)
そう思い始めたのはここ最近だった。
琉生が悪いわけじゃない。
むしろ琉生は変わらず優しい。
だからこそ自分が負け続ける現実が刺さった。
琉生の横にいると自分のダメさがよくわかる。
それがどうしようもなく苦しかった。
距離を置こうとすれば琉生が追ってくる。
わざと早く帰ってもいつの間にか隣にいる。
教室でも休み時間でも帰り道でも。
限界が来たのは放課後の帰り道だった。
体育でミスを連発した世那に、
クラスの数人が笑いながら言った。
「世那ほんと使えないよな」
「同情で一緒にいてもらってるんだろ」
「てか琉生くんが可哀想だよ笑」
それらの言葉は
もう日常になっていたはずなのに。
今日だけはなぜか耐えられなかった。
放課後。
そそくさと荷物をまとめて教室を出た。
階段を駆け下りて、
下駄箱から靴を取り出す。
足早に校門を出ると、
背後から聞き慣れた声に呼び止められた。
🖤「世那待ってよ!一緒に……」
💚「……もう無理だ」
琉生が驚いた顔をする。
世那は俯いたまま吐き出してしまった。
💚「……お前なんか大っ嫌い」
そう言った瞬間、
世界が止まった気がした。
「しまった」と内心で叫びながらも
言葉はもう戻らない。
🖤「……そっか」
琉生は静かに言った。
声のトーンは変わらず穏やかで。
だけど何一つ感情が読めなかった。
次の瞬間、
琉生は一歩近づいて世那の手首を掴んだ。
🖤「嫌いになった理由教えて?」
💚「……離せよ!」
🖤「言うまで離さない」
いつも通りの優しい口調なのに、
掴む手が強くて目の奥に光るものが見えた。
世那の心臓が跳ね上がる。
🖤「僕 何か嫌われるようなことした?」
💚「……してない、けど」
🖤「じゃあ嘘だね」
琉生は即答した。
迷いのない声音だった。
🖤「世那が僕を嫌うわけないもんね」
💚「……何その自信」
🖤「だってずっと見てるから」
「世那が落ち込むタイミングも」
「無理して笑ってる時も」
「僕から離れようとする理由も」
淡々と告げられる言葉に背筋が冷えた。
やけに確信めいた言い方。
まるで全部読まれているみたいだ。
💚「……もうほっといてくれ!」
🖤「いやだ」
💚「何でそこまで俺に構うんだ……」
🖤「好きだからだよ」
当たり前みたいに言われて
世那は呼吸が止まった。
🖤「世那がずっと悩んでるの知ってる」
「その理由が僕だってことも」
「でもね」
琉生はそこで微笑んだ。
優等生の完璧な笑み。
けれどその奥には別のものが潜んでいた。
🖤「全部わざとなんだ」
💚「……え?」
🖤「勉強も運動も評価も……」
「差がつけばつくほど」
「世那は僕を見てくれるでしょ?」
耳鳴りがした。
💚「……待って」
「じゃあ中学に入ってからのって……」
🖤「そう」
「僕が努力してないと思ってた?」
「世那と遊ぶ時間削ってまで」
「誰にも見られないように」
「毎日勉強してたんだよ」
その言葉を聞いて世那は喉を震わせた。
💚「……なんで……そこまで……」
琉生は当たり前だろうと言わんばかりに
優しく笑った。
🖤「怖かったから」
「世那が僕のことを」
「必要としなくなるんじゃないかって」
💚「……!」
🖤「だから差をつけた」
「世那が僕を追いかけてくれるように」
「世那が僕の側を離れられないように」
💚「お前……」
狂気にも近い執着。
気付かないように隠されていた本心。
琉生は手首を掴んだまま世那の耳元に囁いた。
🖤「世那に”大嫌い”なんて言われたの」
「ちょっと悲しくなったけど……」
「これでちゃんと向き合ってくれたね」
💚「向き合うって……」
🖤「僕を見て」
「僕を好きになってよ」
世那の呼吸が震える。
心臓が早鐘を打つ。
逃げたいのに、
逃げられない理由がはっきりしてしまった。
琉生は最初から全部計画していたのだ。
距離が生まれたと思っていたのは自分だけ。
差がついたのも、
自信を失ったのも、
琉生に縛られていたから。
🖤「……ずっと隣にいさせてよ 世那」
その声音は優しくて、
でも絶対に拒絶を許さない強さがあった。
🖤「世那は僕がいないとダメだもんね?」
胸の奥に落ちる感覚は恐怖か安堵か。
自分でももうわからなかった。
手首を掴む力がゆるみ、
代わりにそっと手を絡められる。
🖤「これからは」
「僕が世那の全部になるから」
差が開いたのではない。
最初から琉生の掌の上だった。
そして世那は、
その掌から二度と逃げられないと悟った。
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