この作品はいかがでしたか?
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帰りのHRには顔を出し、その後は青子に断ってカバンを持って屋上に来ていた。運動部の威勢のいい準備運動の掛け声を聴きながら朱色に染る空を見上げていた。
「好きです!付き合ってください!」
どうやら屋上を選んだのは失敗だったらしい。誰かさんが誰かさんに告白をしていた。
「すまない。君の気持ちには答えられそうにない。」
?!この声は…
「白馬先輩…。でも、諦めきれません!」
「気の持ちようは君の自由です。それに、僕の汚いところを見ると、きっと失望しますよ。 」
「好きな人なら、汚いところも好きになれるんです!」
「その気持ち、よくわかりますよ。」
「もしかして白馬先輩…好きな人、いるんですか。」
「ええ。秘密にしておいてくれないかい?」
衝撃を受けた。こんなんじゃ、パラレルワールドの白馬に抱かれたどころじゃない。俺の好意を受け取ってくれるかさえ怪しい。向こうの白馬とこっちの白馬は本質は同じと言うから、てっきり俺のこと好きなんじゃないかと思い上がってしまった。
「…せめて、教えてくれませんか?その人のこと。」
「…とても可愛い人だよ。」
白馬に告ってたやつは泣きながら屋上から出ていった。とても、可愛い人。そんなのなれっこなかった。男で角張った体で素直じゃなくてきつい態度をとるような俺じゃ…。あいつの好きな人になるどころか、好きなタイプになんてなれないじゃないか。目が熱くなる。雲の形がぼやけて見えない。あの女の子が告白の返事を聞いている間に見つからないところに移動したから居場所はバレないようだけど、見つけて抱きしめて欲しいとずっと、泣きながら切に祈っていた。白馬の背中が遠ざかっていく。屋上のドアに手をかけたところでこれからその好きな人のそばにいくとしたらと、思ってしまって。その人を横に連れながらデートをするのだろうかと、考えてしまって。白馬の形をその好きな人は覚えてしまうのだろうかと、想像してしまって…。気づいたら走り出していた。
「白馬!」
ゆっくりと白馬はこちらを振り返った。
「黒羽くん?」
少し驚きを見せつつも足を止めてくれたのに安堵してそのまま飛びかかって抱きすくめた。
「白馬。おめーの好きな人って誰だ?」
言いながら悲しくなって白馬の方に雫の跡を作った。
「…言えません。」
「なんで!!!!!!」
行って欲しくない。誰かも知らない彼の想い人のところへ。
「貴方の傷をえぐってしまうからです。」
「もう充分傷ついてるだろバーロー!」
こいつは気づいたのだろうか、俺がこいつのことを好きだということが。
「…すみません。ですが、これ以上は、傷つけられません。」
白馬は俺を抱きとめながら背中をトントンと叩いている。その大きな手のひらが好きだ。どこまでも繊細なところが好きだ。繊細だからこそ人の心を汲み取って悲しみを吹き飛ばしてくれるところが好きだ。どこまでも優しくて、変なこだわりがあるところも好きだ。真実を見抜く時の鋭い瞳も、巻き込まれた民間を背中に隠して精一杯守ろうとする姿勢も、自分より他人を優先してしまうところも好きで好きでたまらない。俺はよりいっそう白馬の背中に回す腕の力を強めた。
「聞くだけでも、聞いてくれ。」
声の震えは止まらない。頬を伝う涙も止めどない。想いの欠片は白馬の制服に染み込んでいく。
「好きなんだ。」
背中を叩くリズムが途切れた。
「おめーには、俺の綺麗なところだけ見て欲しかった。だから、汚れた俺はどんな顔を持っておめーと顔を合わせたらいいかわからなくなった。」
でもこの汚れは、おめーによって染められた色だから、大事にとっておきたかった。
「…誰に、汚されたんだい?」
心做しか白馬の声がワントーン下がった気がした。有無を言わせない圧がかかってきて、答えざるを得なかった。
「…おめーだよ。向こうの世界の」
白馬の腕に力が籠って、先程よりも強く俺を抱きしめた。
「君は、傷ついたかい?」
「おめーと繋がってる感じがして、心底幸せだった。」
言って気づいた。そもそも俺は、パラレルワールドに行く前からこいつのことが好きだったのだと。自覚したのがパラレルワールドだっただけで。
「おめーさえいれば、きっとどこに行っても幸せでいられる。」
これが最後でもいい。これからは友人の枠に納まって、それ以上でもなくていい。だから、今だけは。精一杯の愛を込めて伝えさせて欲しい。
「おめーが好きだ。この世の誰よりも。お前が何者でも。どこの世界の俺だって、絶てぇおめーが世界の中心なんだ。」
ハグをするのだって最後かもしれない制服に染み込んだ白馬の匂いを、肺いっぱいに吸い込んだ。
「黒羽くん。顔を上げて。」
おもむろに顔を上げ、白馬と目を合わせる。
「僕の、僕の好きな人はね、君だよ。」
驚きで涙が止まった気がする。
「君の全てを、僕に暴かせてくれるかい?」
「汚れちまった俺でもいいのかよ?」
「だが、それは僕の色だろう?これから濃くさせてもらうよ。」
示し合わせたかのようにゆっくりと顔が近づいて触れるだけのキスをした瞼を閉じた拍子にこぼれ落ちた涙は、制服にではなく、白馬の唇の中へ消えていった。
「今夜、僕の部屋に来てくれるかい?」
「行ってやろうじゃん!」
いつもの調子を取り戻した快斗は満開の笑顔でからりと笑った
コメント
2件
最高でした、、、( ´ཫ` )