コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
目が覚めた次の日は、村の様子を見てまわることにした。
穏やかな空に、静かな村の光景。
2週間ほど前、突然の疫病に襲われた村はようやく平穏を取り戻そうとしていた。
しかし、残された傷跡はとても大きいわけで――。
「……この村、どうなっていくのかな」
私の言葉に、ルークが答える。
「人の数が半分になりましたから、今まで通りとはいかないでしょう。
この村には名産品などはありませんし、ごく普通の農作物を作っていくしか――」
「……農産物って、周りの街に売る感じかな?」
「はい。鉱山都市ミラエルツが一番近いので、そこで売るのが主になるでしょう。
ただ……収穫量は減るでしょうし、風評被害が出るかもしれません」
……なるほど。
疫病の流行った村で作られた農作物……か。
たくさん買ってあげたい人もいるだろうけど、実際に口にするとなれば、消費者としては避けてしまうのが心情だ。
仮に健康被害が無いと断定できたとしても、そうそう上手くはいかないだろう。
「もしも、農業で上手くいかないとしたら――」
「生活していけないのではどうしようもありません。
この村から他の街に移り住む……この村が廃村になることも有り得るでしょうね」
せっかく繋がった村の歴史が、やっぱり途切れてしまうというのは悲しいものだ。
とはいえ、私たちが村を救えるなんて思っていないし、ずっと滞在しているわけにもいかないし――。
「……割り切らなきゃ、仕方が無い……の、かな……?」
「……そうですね……」
何ともやるせない思いが、二人の間に広がっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おねーちゃん! こっち!」
ジョージ君が、元気な声で私を呼んだ。
お見舞いに来てくれたジョージ君が、お友達のセシリアちゃんのところに私を誘ってくれたのだ。
「アイナ様、いらっしゃいませ!
ルークお兄ちゃんもいらっしゃい!」
「こんにちは、セシリアちゃん」
私を差し置いて、ルークがセシリアちゃんに挨拶をする。
……む、いつの間に?
「こんにちは、セシリアちゃん。
それにしても、何で『様付け』に……?」
「アイナ様はこの村を助けてくれた恩人だから、お母さんがそうお呼びするようにって!」
……それはそうなんだけど、さすがに子供から『様付け』というのはちょっと……。
「え……?
じゃぁボクもそう呼ぶ! アイナ様ー!」
あああ、ジョージ君にも伝播してしまった……。
「アイナ様、この呼び方は村人からの敬愛の証です。
そのまま呼ばせてあげるのも、お優しさですよ」
こそっとルークが囁く。
まぁそうなんだけど……うーん、もうそれでいいや。
「アイナ様、今日は何をして遊びますか!?」
セシリアちゃんが改めて尋ねてくる。
遊ぶというか、今回は見せてもらいたいものがあるんだよね。
「ジョージ君から聞いたんだけど、セシリアちゃんは木彫りが上手いんだって?」
「え? そこまででは無いですけど……。
いくつかあるので、見てみますか?」
そう言うと、セシリアちゃんは奥の部屋からカゴを持ってきた。
中を見ると、木彫りの置物がいくつも入っている。
「へー、すごく上手いじゃない!
クマとかウマとか――……うん? 何、これ?」
動物を彫ったものの中に、存在感の異なるものを見つけた。
「あ、これです、アイナ様。私がクレントスの露店で見たものです。
動物の木彫りの中に混ざっていたのですが……これだけ、やたらと記憶に残ってしまって」
ルークの懐かしそうな、嬉しそうな言葉に私も続ける。
「これ……キモカワイイねぇ」
全体的に四角いフォルム。そこに、おマヌケな顔。
元の世界で言うところの『ゆるキャラ』である。
うわー、何だか本当に好きだなぁ、これ。
「キモカワイイ……って言うんですか?
なるほど……。初めて耳にする言葉ですが、確かにそんな感じがしますね」
話を合わせているだけなのか、順応性が高いだけなのか……。
ルークの反応も、なかなか愉快に思えてしまう。
……それにしてもこれ、元の世界だったらグッズとかになっていそうなレベルだよなぁ。
私だったら、こんなクッションが売ってたら即買っちゃうよ?
うん……? 即買う……?
……もしかしてこれ、売れる?
「ルークって、クレントスでこれが売ってたときは買ったの?」
そういえば、という感じでルークに聞いてみる。
「いえ、物珍しさで記憶には残りましたが……。
家に飾るイメージが湧かなかったので、買いはしませんでした」
「私、これすっごくカワイイと思うんだけど、おねだりしたら家に飾ってくれる?」
「もちろんですとも!!」
ルークは迷わず、語気を強めてそう言った。
なるほどなるほど、そういう感じなんだね。
「セシリアちゃん、これ売ってくれないかな?」
「え? それでしたら差し上げますよ。
私もアイナ様に治してもらったので、そのお礼です!」
……むう、そう言われるとお金は払いにくいな。
「それじゃ、ありがたくもらうね。
ふふふ、セシリアちゃんがこの村の救世主になるかもしれないよー?」
「え?」
どう転ぶかは分からないけど、私はひとつの計画を思い付いた。
少しでも良いから、この村の助けになるように――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エミリアさん、ただいま!」
「お帰りなさい、アイナさん」
宿屋に戻ると、エミリアさんが迎えてくれた。
「ねぇねぇ、これを見てください」
先ほどもらった木彫りの置物を、エミリアさんにも見せてみる。
「これは……何でしょう? 何かの動物ですか?」
エミリアさんは置物を触りながら、不思議そうに眺めている。
「これ、王都で人気沸騰中のキャラクターなんですよ!
新鋭デザイナーのセシリアが作ったものなんです!」
「え、そうなんですか?
キャラクターもデザイナーさんも初耳ですけど……なるほど、言われてみれば……可愛いですもんね?」
エミリアさんは、感心しながらそう言った。
「村の人に売ってもらったんですけど、エミリアさんもいかがですか?
いやー、私はすごく好きだなー」
「そうなんですか……?
ど、どうしようかな、ちょっと欲しいかも……?」
……うん、何となく分かった。
この木彫りのデザインは、この世界の『可愛い』の当落線上にはあるっぽい。
少しアピールすれば……結構売れるんじゃないかな?
「というわけですいません、実は嘘です。
これはこの村の子供が作った木彫りです」
「えぇっ! アイナさん、騙したんですか!?」
「そんな人聞きの悪い!
今のやり取りに、この村を救うヒントがあるんですよ!!」
悪気は無かったんだ……と思いつつ、強気に出る私。
「そ、そうなんですか?
……よく分かりませんが、それでしたら……はい」
「疫病を終わらせるだけでは済ませません。
まだまだやることはたくさんありますからね!」
不敵に笑う私を、エミリアさんは不思議そうに眺めるのだった。