テラーノベル
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暑くもない
寒くもない
でもどっちかと言えば寒い
10月5日
元気に泣く男の子が
ある夫婦の間に生まれた
その赤ん坊には3歳差の兄が1人
性格は2人とも全然似ておらず
兄は理想の子供と言っても過言ではない
愛嬌ある顔と優しい性格
食べることが本当に好きだ
一方、弟である彼は
いつも無愛想で
野生児にいちばん近く
またこちらも食べるのが好き
でも、そんな彼等は成長と共に
大きな分かれ道に出た
幼い頃から母の異常な量の勉強をさせられる兄
それには向かった弟
母は彼が兄と違って
どれだけやらせようとしても
弟である彼は興味もやる気も出さない
でも、母は弟を責めなかった
何故なら彼は片目がないからだ
生まれつきの病気で
片目を失った
それを理由に母は
この先困らないようにはなって欲しいけど
この子が病気に打ち勝ったことは奇跡だから
健やかに自由に過ごして欲しい
そう願った
だが、もちろん
それを境目に兄は彼を嫌悪した
いや、もともと
弟ができてから
自分に向いていた寵愛が少し弟に傾いてから
僕を嫌っていたんだろう
兄は母も父も大好きだったから
本当に僕は申し訳ないと
今は思っている
そして、ある幼稚園年長に弟がなってから
兄は弟への対応を急変した
はじめは些細なことだった
でも、徐々にそれは嫌がらせ程度では
なくなり始めた
弟である彼は察していた
でもエスカレートするうちに
助けを求めることの出来ない
少年へと変わった
親の前では極力泣かずに
本当は
誰かにこの操り人形みたいな
繋がれた糸を切って欲しいという願望も
迷惑になる事なんてわかっていたから
1人で我慢して泣いた
でも、それを続けることにより
周りから
家族から
仲の良い兄妹と言われるのが
何よりもの負担となった
違う、本当は違うよ
そう言いたくても
唇を噛んで言わなかった
兄はある日こう言った
僕は奴隷だと
兄の道具だと
それを初めて言われたのは
弟が小学3年生の頃だ
言葉はさらにキツくなり
殴る拳の強さも増した
痛くて痛くて
仕方がなかった時
彼女に出会った
髪を一つに束ねて
少し茶色がかった綺麗な瞳
僕よりも背が低めで
冷え性な小さな手
でも、小学生にしては大人びていた
幼馴染の紹介で
会ったその少女は
いつも何処か苦しそうな顔をしていた
彼女の瞳はいつだって暗かった
そんな瞳は
失礼かもしれないけど
いつも鏡映る僕の瞳と
おんなじだった
そうやって学校生活を送りながら
兄のストレス発散は止まらなかった
そして、ノートに思うことを書いた時
そこに
死にたい
と書いていた
見えないほどに死にたいという言葉を
書き連ねていた
それを見た兄は
なら死ねば良い
笑ってそう言った
それを言われ
2階のベランダに足を伸ばした
でも、足が震えて死ねなかった
頭ではもう楽になりたい
そう思っているのに
本能的に体がそれを拒んだ
結果的には
死ぬこともできない半端者だ
泣くことしかできない
元々、自分が嫌いな少年は
尚更のことそんな自分に嫌悪を抱く以外なかった
神様は、不平等が好きじゃないらしい
なら神様は何故こんな世界を作ったのだろうか
世界は公平を嫌っている
皆公平が好きだったら?
変わってたかもしれない
そんな馬鹿げたことを考えながら
足枷がついたかのように重い足を
動かした
僕の唯一の安全地帯の学校へと
優しい先生
些細なことに気づいてくれる
親よりも親的な存在
クラスメイトは良い人ばかり
まるで家族みたいに暖かい
そんな学校が好きだ
そんな事を帰り道に言われた
僕の隣で歩く少女は
夕陽に照らされ儚げな女の子になっていた
「どうしてそう見えるの?」
そう聞き返したら
何となくと答えた
でも僕は何故か嬉しかった
彼女がそう気づいてくれたことに
何の変わりはなかった
その日から
僕は彼女に惹かれていった
欲しいという欲望が
今までに無いくらいに
最大限に達した
知りたい
知って彼女をもっともっと
笑わせたい
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