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その日は朝から決起集会に持ってこいの天気だった、カラッと晴れた初夏の太陽は、午後からは遠慮が無くなり
ちょうど北斗が演説する午後の2時頃には、本日の最高気温になるらしい
アリスは~淡路の風~Tシャツに白のジーンズ、同じく青のサンバイザーという出立ちで、朝8時にスタジアムに到着した、明とお福も一緒だ
お福は子供たち用のボランティアブースで綿あめを、無料で配るセクションに明と手を繋いで、いそいそと歩いて行った
蓋をあけてみれば決起集会は大盛況だった、その日一日(X)のトレンドワードは「#決起集会」とついた投稿がタイムラインに流れ、広報局の信夫達は常にそれをチェックする
食べ物やビール、ソフトドリンクを売る地元の屋台が並び、子供達にはゲームコーナーが用意されていた
大きなステージ上には日除けつきのDJ席が設けられ、北斗のスピーチの前座ミュージシャンはなんと、全員が淡路出身だという今SNSを通じて若者に有名な、5人組のHip-hopグループ(アリアリ-フォックス)が二時間単独ライブを行うそうだ
アリスは彼らをまったく知らなかったが、すぐに信夫に彼らの動画投稿サイトを教えてもらい、何曲か曲を聞いた、どれもチンプンカンプンだった
しかしスタジアムには(アリアリ-フォックス)の象徴(白の狐のお面)を、頭や腰に付けた若い彼らのファン達が男女ともに、早朝全国からゾロゾロ集まり、入場時の9時には物凄い列を作っていた
そして(アリアリ-フォックス)の前座で、地元のアマチュアバンドの演奏には、直哉とジンが率いるロックバンドも出演した
センターでギターを弾いて、オールバックにサングラスの直哉が、70年代のパンクロックを歌い、ベースのジンの背中には、ピンクのベビー服を着た百子が、男性用おんぶ紐でぶら下がっている
百子はピンクに猫耳がキラキラ点滅して光っている、ベビー用消音ヘッドホンを付けられているので、何も聞こえないのだろうがキョロキョロと、楽しそうに周りを見渡している
観客からは「あのベーシストのお父さんと赤ちゃんが可愛い」と人気者になって、大いに盛り上り、そしてその動画も次々にタイムラインに上がっていく
昼の12時にもなれば、スタジアムは大混雑を極めていた
アリスは入口のボランティア運営本部陣営テントで、常に大勢の人に囲まれて立ち
その後ろで貞子が運営本部長のネームプレートを、首からぶら下げてワイヤレスマイクに何やら、指示を飛ばして終始叫んでいる
片手にはスタンレーの水筒を持ち、アリスがあげたお茶がたっぷり入っている
授乳中の彼女はとにかく喉が渇くのだ、彼女には感謝してもしきれない、貞子が北斗の幼馴染みで本当に良かったと日々、思わずにはいられない
そのうちステージ横の隣の小さなグラウンドでは、地元の子供達とのミニソフトボール大会が始まっていた
なんと参加型一般チームのバッター打席に、「猫耳選挙ボーイズ」と北斗が駆り出されていた、思わぬ展開にカメラクルーは北斗達を追いかける
ステージの巨大モニター画面に、打席に立つ北斗が映ると、観客席から「候補!」「候補!」とコールがかかった
アリスは運営テントのモニターで貞子達と、それを笑いながら見ていた
真っ白の半袖シャツにグレースラックス、そして成宮北斗と書かれた選挙でお決まりの、タスキをかけたまま、引き締まった体をした北斗が画面に映る
無理やり駆り出された彼は、困ったなという表情をしながらも、足でホームプレートの土を掃き、いったん打席をはずれてバットを構えた
少年野球チームのピッチャーは、ぎりぎりのボール球を北斗に振らせようとした、けれど北斗はそんなものには引っかからない
そしてピッチャーが絶好球を投げるまで待ってから、北斗は思い切り強打した
ボールはレフト選手の手の届かない所へ飛んだ
会場が大きなどよめきに包まれる
その様子をみたアリスはひざの力が抜けそうになった、陽射しを浴びてビジネススーツだけど、二塁へ全力疾走する夫は、食べちゃいたいくらい素敵だ
なるほどこういう時にこの表現を使うのねと、アリスは妙に自分に納得した
彼はそのまま三塁を蹴り本塁へ駆け込んだ
運営本部テントでは、成宮候補はなかなかの負けず嫌いで、子供相手にいい大人が本気だと、モニター越しにゲラゲラみんなに笑われている
アリスも笑いながら、スマートフォンを取り出して、lineで北斗にハートの絵文字を100ほど送った
その後も嵐のような忙しさが続いた、アリスは本部の貞子と放送運営責任者の信夫に、ほとんど今日初めて会う人達を次々と紹介されていた
政策担当責任者、有権者対策責任者、調査担当、県役所との調整役、学生ボランティアのとりまとめ役
その他にもこの催し物を盛り上げようと、気合満々の人材が沢山いて、何より嬉しいのがみんな信夫がSNSで集めた、アリスと同じ歳の若者ばかりだった
全員が~淡路の風~の青いポロシャツと、青い缶バッジをつけている
そしてアリスは感謝の思いで、その全員と握手をし続けて、手が真っ赤になりジンジンしているが、そんなことまったく気にしなかった
とにかく叫んで笑って、握手とおじぎをしまくった
今日は誰がなんと言おうが私の夫、成宮北斗のためのイベントだ
そしてここいる人達は夫のために協力し、わざわざ足を運んでくれている
みんな私の夫のために動いてくれている、感謝してもし足りない、絶対に当選して恩返しをしよう!
アリスはふと感極まって涙ぐむ自分に喝をいれて、一生賢明働いた