スタジアムを囲む広告塔にはポスターが、何千枚も貼ってあり、琴子の紹介したスポンサーが作ったうちわなど、そのどれも北斗の顔が印刷されている
(アリアリ-フォックス)のライブは、最高潮に盛り上がった
スタジアムを二周に取り囲む群集が、大人も子供も一緒になって、北斗のウチワを音楽に合わせ縦に振る、スタジアムの熱気は今や最高潮だ
本部テントでモニター越しに、アリスも貞子とライブを観戦する、やっぱり何回聞いても彼らの歌はチンプンカンプンだ
「メンバーが全員狐のお面をかぶってるから誰が誰だかわからなくない?」
アリスが彼らを見て不思議そうに首を捻る、貞子が首にタオルをかけて、お茶をグビグビ飲みながら言う、あまりの忙しさにメイクもハゲかけている
「それがミステリアスで良いって、売れてる理由なんだって、そのうちバーチャルだけになって行くんじゃない?」
ここまでは決起集会は誰もが見ても成功している、アリスはニッコリ微笑んだ
..:。:.::.*゜:.
「アリス!アリス!」
北斗がステージ裏の積み上げられたスピーカーや、ステージ上のいろんなガラクタの陰から、こっちへ走って来る
「ここよ!北斗さん!」
今は貞子も誰もいなくなったステージ本部スタッフ休憩テントから、アリスが北斗を見つけ大きく手を振る
彼はとても素敵だった、運動したせいで少し髪は乱れているけど、あちこち走り回っているおかげで、頬と唇が赤くなっている、少し日焼けしたみたいだ
アリスは今すぐ彼を、パーテーションの裏に引きずって行って、彼がどれほど素敵か身をもって示してあげたくなった
ハァハァ・・・
「探したよ・・・こんな所にいたんだな」
「お疲れ様!北斗さん!さぁ一息して! 」
アリスがジャグジー式のピッチャーから、冷えた麦茶を注ぎ北斗に渡す
「アキとお福さんの綿あめブースに、レオとアッキーズが来てたよ、みんな手伝ってくれている綿あめブースは長蛇の列だ」
そう言って一気に麦茶を飲み干す
プハッ
「永原さんは信夫と放送テントにいる」
「心強いわ!」
彼は多分アリスを探してあちこち回っていたのだろう、そして不安そうに四つ折りにしたA5サイズの、スピーチ原案を胸ポケットから取り出してアリスに見せる
いよいよ本日のメイン、北斗の公演まであと30分だ、北斗同様アリスも実はとても緊張している
「ここの所なんだけど・・・やっぱり“ 不屈の精神”って耳聞こえがちょっと難しいと思うんだけど・・・ 」
アリスが「ウンウン」と顎を抑えて聞く
さんざん二人で考えた原稿に、さらに北斗が手書きで色々書き込んでいるので、真っ黒だ
「ここのワード“根性 ”の方がよくないかな?、この発案だとちょうどよい区切りの所が、わからなくなって・・・」
「そうね・・・そっちの方がわかりやすくていいかも、あなたの好きにして」
そうアリスに言われると安心したように、北斗は原稿に何やら書き込む
そして北斗がキョロキョロとあたりを見渡して、アリスの手を引いて、誰にも見つからないパーテーションの裏に連れて行く
二人っきりになると、愛しさが込み上げる、彼も同じ気持ちでいてくれている
ハァ・・・・・「緊張してる・・・・ 」
「私も・・・・・ 」
ギュっと二人は抱き合った、途端に二人の体中に甘い感覚が解き放たれ、束の間の愛の充電をする
「これが終わったら・・・・何か美味しいものでも食べましょうね・・・」
「うん・・・・ 」
「北斗さん何がいいか考えていて・・・って言っても何も考えられないでしょうけど・・・」
「うん・・・・ 」
「ずっと横で見てるからね・・・」
「うん・・・・・ 」
ああ・・・私の愛しい人・・・どうか頑張って・・・・
終わったら今夜は沢山彼を労わってあげよう、なんなら彼が試したがっていた、あの体位を許してあげてもいい
ずっと気を張って来た所だけに、ホッと安心して一息ついた、彼の背中は汗びっしょりだった
「このスピーチ原稿・・・・きみが持っててくれ、無くしたら大変だ!俺の人生が終わる 」
「その方がいいわね!私はずっとあなたの講演が始まるまで、ステージ裏のここにいるから、預かっておくわ、北斗さん消防団の所に行かないとだめでしょ」
そう言って微笑みながらアリスのお決まりの、紫の「虎の巻バインダー」に北斗のスピーチ原稿を挟む
「助かるよ!それじゃ!」
忙しそうに北斗が手を振って、また誰かに呼ばれて走って行った
ああ・・・・後ろ姿までもが愛らしい
アリスもアリスで死ぬほど緊張してる中でも、わずかに残った冷静な部分で必死に、この後の段取りスケジュールを確認する
講演が終わった後のボランティアへの挨拶・・・打ち上げ会場の誘導・・・
パーテーション裏の会議用テーブルに座って、ノートパソコンを開いて腰を落ち着ける、そして(X)を広げリアルタイムの投稿を追う
そこには報道関係者も、彼の姿を多数画像に収めた動画が、もうすでに沢山あがっていた
北斗の野球姿(アリアリ-フォックス)ファンの、狐のお面を被った様々なライブ参戦ファッション
ブースの食べ物とスタジアムを、バックに撮った一般人の投稿、北斗の政策案チラシ、タイムラインはお祭り騒ぎだ
フフフとアリスはそれを見て温かい気持ちになる
そして思いついた事をアリスがサラサラと、「虎の巻バインダー」に書いていく
「・・・奥さん・・・・奥さん・・・ 」
ふと後ろから声がしたが、あまりに真剣に集中していたので、アリスは自分が呼ばれていることにしばらく、気が付かなかった
「奥さん!・・北斗の奥さん!」
自分のことだ!
「はっ・・・はい!!」
アリスは飛び上がって振り向いた
私を呼ぶのは誰?
そこには見覚えのある男が立っていた、アリスはぎょっとしたようにその人物を見つめた、だがその瞬間口元がこわばり、苦い思い出がよみがえった
アリスは大声で叫んだ
「正!!!」
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