TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

なぜ、こうなったのだろう。

 

婚約式の会場である、庭園から連れ出された私は今、自室にいた。それも、エリアスと一緒に。

 

うん。それは百歩譲るとしよう。でも、なんでこの体勢?

 

「エリアス。主役の私たちが会場にいないのはマズいと思うんだけど……」

 

斜め横にいるエリアスに尋ねた。

右腕は私の腰をしっかり掴み、左腕はスカートの上。そう、エリアスの膝の上にいるのだ。

 

久しぶりのこの体勢。しかも、今のエリアスは髪をセットしていて、普段の何倍も格好良かった。

ここ最近は婚約式とデビュタントの準備で忙しくて、なかなか二人だけの時間が取れなかったから、余計にそう思うのかもしれない。

 

「挨拶は終えたんだ。もう誰も気にしない」

「でも、お父様は……」

 

主役の私たちがいなくなれば、招待客の相手を一手に引き受けることになる。すると当然、私たちがいないことに気づくはずだ。

 

「それも問題ない。レリアに任せてきたから」

「どういうこと?」

「俺たちが屋敷に入る時、フィルマンが旦那様の相手をしていただろ」

 

確認はしていないけど、レリアはそう言っていた。

 

「あいつに借りを作るのは嫌だったんだが、もう少しだけ引き延ばしてもらえるように頼んだんだ。今頃、フィルマンのところに戻っていると思う」

「い、いつの間に!?」

「……屋敷に入る前」

 

合図したってこと!?

 

「私もレリアと話がしたかったのに」

「手紙で十分しているだろう。それにあいつらとだって話をしていたじゃないか」

「招待したお客様と話をするのは当たり前でしょう。なんでそんなことを言うの?」

 

まるで私が悪いことをしていたかのような言い方に、ムッとした。

 

「それはあいつらが、乙女ゲームとやらの“攻略対象者”だからだ」

「今日は私とエリアスの婚約式なのに、取られると思ったの?」

「ケヴィンとユーグはともかく、リュカは……」

 

まだ私に気があると思ったのね。

 

そっとエリアスの髪に手を伸ばし、クスリと笑って見せた。

 

「安心して。リュカにそんな気はないわ」

「……その根拠は?」

「しばらく前からオレリアと良い感じなんだって」

「……出所は?」

「ユーグからの手紙。エリアスは聞いていないの?」

 

考え込んでいるのか、面白くないのか、顔を顰めるエリアス。

それがおかしくて、私は髪を撫でるようにすいた。

 

「重要な案件はケヴィンを通しているから、最近はやり取りをしていない。というよりも、マリアンヌは一体何人と手紙のやり取りをしているんだ。多すぎないか?」

「そうねぇ。ユーグにキトリーさん、レリア。あとオレリアとも最近やり取りをしているわ」

 

指折り数えてみると、四人だ。そんなに多い方じゃない。

 

ユーグは、リュカのことや領地のことなど、たまにやり取りをしている。

キトリーさんは、ケヴィンを通して私の話を聞くのか、心配する手紙が多いのだ。

 

レリアとは文通友達。メールがない世界だから、やり取りも自然と頻繁になってしまう。楽しくてつい、私も返事を早めに送ってしまうのだ。

 

最後、オレリアにはロザンナの様子を密かに教えてもらっていた。というよりも、ロザンナへの愚痴が大半を占めているため、今では聞かなくても教えてくれる。

同じ貴族出身ということもあって、頻繫に組まされているそうだ。所謂、腫れ物扱いをされているのだろう。どう扱って良いか分からないから。

 

「……オレリアともやり取りをしているのに、出所はユーグなのか?」

「言ったでしょう。良い感じだって」

「つまり、恋人同士ではない、ということか?」

「うん。直接会っているわけじゃないらしいから」

 

きっかけは、オレリアがリュカに送った手紙だという。

ハイルレラ修道院での生活が落ち着いた頃、オレリアは謝罪の手紙を各所に送っていた。修道院が指導したものかどうかは分からないが、同じものが私のところにも来た。

 

一応、返事は出したけど、それっきりだった。リュカに対しては違ったらしい。

だから、このことをユーグから聞いた時はとても驚いた。

 

「思い過ごしなんじゃないか?」

「まぁ、まだ恋人同士じゃないから、疑うのは無理もないかもね。でも、ユーグが言うには、オレリアからの手紙を受け取った時のリュカを見て、そんな印象を抱いたらしいわ」

 

五年前、私の手紙をリュカに届けていたエリアスなら、その意味は分かるはずだ。

 

「あのリュカが……オレリアと?」

「まぁ、エリアスの気持ちも分かるけど、これで少しは安心したんじゃない? フィルマンにはすでにレリアという婚約者がいるわけだし。ケヴィンは、とりあえずネリーに頑張ってもらって。ユーグに至っては、わざわざ波風を立てるようなことはしないと思うの」

 

平和主義者だからね。悪く言えば事なかれ主義。

『アルメリアに囲まれて』でオレリアに虐められるマリアンヌを傍観していたのは、そういった性格だったからだ。

 

「まぁ、そうだな」

「だから、もう“攻略対象者”に拘らないで」

「俺もその内の一人なのに?」

 

その言い方がまるで、ゲームの補正で結ばれたように感じて、嫌な気持ちになった。

 

「エリアスは私が“ヒロイン”だから好きになってくれたの?」

「そんなわけがないだろう。そもそも、乙女ゲームというものを知らないんだから」

「だったら、そういう言い方は止めて。きっかけはそうだったとしても、私は“攻略対象者”だからエリアスを好きになったわけじゃないんだから」

 

助けてほしいから選んだ。でも、それと好きは関係ない。

 

「ごめん。悪かった」

「ううん」

 

私はエリアスに向けて再び手を伸ばした。顔を引き寄せて、唇をそっと重ねる。

 

時間にして数秒。

 

「エリアスのことが好きって分かってくれれば、それでいいの」

 

少しだけ驚くエリアスに向かって微笑んだ。

 

「それだけでいいのか?」

「え!?」

 

声を発した瞬間、腰にあったエリアスの右腕が背中に回り、強く引き寄せられた。

その勢いのまま、私の唇を奪う。驚いた拍子に飲み込もうとした息ごと。

 

初めて味わう、その荒々しいキスに頭の中が麻痺してしまいそうだった。

マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

11

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚