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### ダンガンロンパ×ボボボーボ・ボーボボ
クロスオーバー二次創作小説・長編
「ここが……希望ヶ峰学園か」
苗木誠は、目の前にそびえ立つ巨大な校舎を見上げた。
希望ヶ峰学園。
各分野でトップクラスの才能を持つ高校生だけが入学を許される、まさに希望の学園。
そんな場所に、特別な才能を持たない普通の高校生である苗木誠が入学できたのは、抽選によって選ばれた「超高校級の幸運」だったからだ。
「うーん……すごい学校だな。僕なんかが本当に入学していいのかな……」
少し不安になりながらも、苗木は校門をくぐった。
その瞬間だった。
パチンッ!
突然、視界が真っ白になった。
「えっ!? な、なんだ!?」
頭がくらくらする。
足元の感覚がなくなり、苗木は思わず目を閉じた。
そして――。
ドサッ!
「いったぁ……!」
気がつくと、苗木は見知らぬ教室の床に倒れていた。
「ここ……どこだ?」
周囲を見回す。
窓には鉄板が打ちつけられ、壁には監視カメラらしきものが設置されている。
普通の学校とは明らかに違う。
「な、なんだよ、これ……」
苗木は慌てて立ち上がった。
すると、廊下の向こうから誰かの声が聞こえてきた。
「おい! 誰かいねーのか! つーか、ここどこだよ!」
「落ち着きなさい。騒いでも状況は変わらないわ」
「うっせーな! んなこと言ってられっかよ!」
複数の人間の声だった。
苗木は恐る恐る教室を出た。
そこには、見覚えのある高校生たちが集まっていた。
赤い髪の野球選手らしき少年。
青い髪の少女。
黒い髪に赤いリボンをつけた少女。
そして、金髪の御曹司のような少年。
彼らは全員、困惑した表情で周囲を見回していた。
「あっ、君もここに来たの?」
声をかけてきたのは、青い髪の少女だった。
「う、うん。僕は苗木誠。君は?」
「舞園さやかです。よろしくね、苗木君」
舞園さやか。
テレビでも有名なアイドルであり、超高校級のアイドルだ。
まさか、こんな場所で出会うことになるとは思っていなかった。
「舞園さん!? 本物!?」
「ふふっ。本物ですよ」
舞園は少しだけ笑った。
その笑顔を見て、苗木はようやく安心しかけた。
しかし。
「……ところで、あそこにいる青い物体は何なの?」
霧切響子が、教室の隅を指さした。
そこには――。
青くて四角い物体が、床に転がっていた。
いや。
よく見ると、ただの物体ではない。
目がある。
口もある。
しかも、手足まで生えていた。
「……ん?」
青い物体が、ゆっくりと起き上がった。
「おいおいおいおい! なんだここは! オレ様の美しいボディに、こんな冷たい床を味わわせやがって!」
苗木たちは、一斉に固まった。
「しゃ、しゃべった!?」
「うおっ! なんだテメーら! オレ様の顔をじろじろ見てんじゃねーぞ!」
青い物体は、胸を張った。
「よく聞け! オレ様の名前は、ところ天の助! 超高校級のところてんだ!」
「超高校級の……ところてん?」
苗木は思わず聞き返した。
「そうだ! わかったら敬え! オレ様は高級食材だぞ! しかもプルプルでツヤツヤで、食べたらおいしいんだぞ!」
「いや、そんなこと言われても……」
「なんだとぉ!?」
天の助は顔を真っ赤にした。
「このオレ様を知らないだと!? さてはテメー、ところてん界の常識を知らねーな!?」
「ところてん界って何!?」
苗木は思わず叫んだ。
その場にいた高校生たちは、全員が言葉を失っていた。
ただ一人、霧切だけは冷静に天の助を観察していた。
「あなた、どこから来たの?」
「知らん!」
「知らないの?」
「気がついたらここにいたんだよ! オレ様だって困ってんだ!」
天の助は腕を組んだ。
「そもそも、オレ様はこんな学校に来る予定なんかなかったんだ! ボーボボたちと一緒に旅をしていたはずなのに……気づいたら、変な建物に閉じ込められてやがった!」
「ボーボボ?」
苗木は聞いたことのない名前に首をかしげた。
「そうだ! ボボボーボ・ボーボボだ! 鼻毛真拳の使い手だぞ!」
「……なんか、すごい名前だね」
「すごいに決まってんだろ! オレ様の次くらいにな!」
「自分が一番なんだ……」
苗木が苦笑した、そのときだった。
校内放送が鳴り響いた。
『あー、あー。マイクテス、マイクテス』
全員が顔を上げた。
『生徒諸君! これから入学式を始めます! 体育館に集合してください!』
天の助は、放送のスピーカーを見上げた。
「なんだ? 学校のイベントか?」
苗木は、嫌な予感を覚えていた。
窓に打ちつけられた鉄板。
監視カメラ。
知らないうちに閉じ込められていた自分たち。
どう考えても、普通ではない。
「みんな……気をつけたほうがいいと思う」
苗木がそう言うと、霧切は静かにうなずいた。
「ええ。私もそう思うわ」
一方、天の助は。
「入学式だと!? つまり、オレ様が新入生代表として壇上に立つわけだな!」
「いや、そういう意味じゃないと思うよ!?」
こうして、苗木誠とところ天の助の奇妙な学園生活が始まった。
だが、彼らはまだ知らなかった。
この学園が、恐ろしい殺し合いの舞台であることを。
そして、この青いところてんが、学園の運命を大きく変えることになることを。
体育館に集められた生徒たちは、全員が不安そうな顔をしていた。
苗木誠。
舞園さやか。
霧切響子。
十神白夜。
朝日奈葵。
大神さくら。
石丸清多夏。
大和田紋土。
山田一二三。
セレスティア・ルーデンベルク。
腐川冬子。
江ノ島盾子。
そして、ところ天の助。
さらに、ほかの生徒たちも全員そろっていた。
「うわー! なんか、変なところに連れてこられちゃったね!」
朝日奈が困ったように言った。
「これは明らかに異常事態だ。学校側は何を考えているんだ!」
石丸は大声で訴えた。
「おいおい、冗談じゃねーぞ。オレはこんなところに閉じ込められるために来たんじゃねえ!」
大和田が苛立った様子で壁を叩いた。
そのとき。
体育館のステージに、小さな影が現れた。
「やあやあ、みなさん! こんにちは!」
ピョンッ!
白と黒の体をしたクマのぬいぐるみが飛び出してきた。
「ボクはモノクマ! この希望ヶ峰学園の学園長なのだ!」
「……ぬいぐるみ?」
苗木は目を丸くした。
天の助は、モノクマを見て首をかしげた。
「おい、なんだあの白黒パンダは」
「クマだよ! パンダでもねーよ!」
モノクマが即座に突っ込んだ。
「おおっ!? しゃべったぞ!」
天の助は驚いたふりをして、モノクマを指さした。
「お前、オレ様のライバルか!? 青いところてんと白黒クマ! これは世紀の食材対決だな!」
「いや、誰が食材だよ!」
モノクマの眉間にしわが寄った。
「うぷぷぷぷ……。まあいいや。そんなことより、みなさんにはこれから、この学園で一生を過ごしてもらいます!」
「……え?」
苗木の顔から笑みが消えた。
「一生って、どういうことだよ?」
「そのままの意味だよ! 外には出られません! 家族にも会えません! 社会にも戻れません!」
モノクマは楽しそうに両手を広げた。
「ただし! この学園から卒業する方法が一つだけあります!」
全員が息をのんだ。
「それは……」
モノクマは、ゆっくりと笑った。
「誰かを殺すこと!」
体育館が静まり返った。
「……は?」
苗木は、言葉の意味が理解できなかった。
「殺すって……」
舞園の顔が青ざめた。
モノクマは楽しそうに説明を続けた。
「生徒の誰かを殺して、しかも学級裁判で犯人だとバレなければ、その人だけが卒業できるんだよ!」
「ふざけるな!」
石丸が叫んだ。
「そんなことを許すわけにはいかない!」
「えー? でも校則だからね!」
モノクマは、手に持っていた小さな冊子を見せた。
「殺人が発生すると、残った生徒たちには学級裁判をしてもらいます。犯人を正しく指摘できれば犯人だけがおしおき。犯人を間違えたら、犯人以外のみんながおしおきされちゃいます!」
「……全員が、死ぬ?」
苗木は震える声でつぶやいた。
「そういうこと!」
モノクマは満面の笑みを浮かべた。
「さあ、楽しい学園生活の始まりだよ!」
「ふざけんじゃねえぞ!」
大和田がモノクマに飛びかかった。
しかし。
ガシャンッ!
突然、ステージの床が開き、モノクマは下へ落ちた。
「うぷぷぷぷ! ボクに乱暴しようなんて、百年早いよ!」
モノクマは別の場所から姿を現した。
「それじゃ、あとはご自由に! バイバーイ!」
放送が切れた。
誰も動かなかった。
目の前で告げられた、恐ろしい現実。
この学校から出るためには、誰かを殺さなければならない。
しかも、殺人が起きたあとには、仲間同士で犯人を探さなければならない。
苗木は、拳を握りしめた。
「……そんなの、絶対におかしいよ」
その隣で、天の助は震えていた。
「お、おい……。今のクマ、冗談だよな?」
「……」
「なあ、苗木! 冗談だって言えよ! オレ様、まだ食べられたくねーぞ!」
天の助は苗木の肩を揺さぶった。
「落ち着いて、天の助!」
「落ち着けるかぁ! オレ様は高級食材なんだぞ! 殺されて卒業なんて、食材としての尊厳がねえだろ!」
「そこが問題なの!?」
苗木は思わず叫んだ。
しかし、天の助の顔を見ているうちに、少しだけ緊張が和らいだ。
この異常な状況の中で、天の助の存在はあまりにも場違いだった。
だが、だからこそ。
苗木は思った。
この学園で、誰も殺さずに生き残る方法を見つけなければならない。
そして、天の助もまた、同じことを考えていた。
「……いいか、苗木」
天の助は、いつになく真剣な顔をした。
「オレ様は死にたくねえ。だから、誰も殺させねえぞ」
「天の助……」
「もちろん、オレ様自身が殺されるのもお断りだ!」
「そこは普通にそうだよね……」
こうして、二人は奇妙な協力関係を結ぶことになった。
その日の夜。
生徒たちは、それぞれに割り当てられた個室へと戻った。
学園内には食堂、図書室、購買部、トレーニングルームなどが用意されていた。
しかし、窓の外には鉄板。
玄関には厳重なシャッター。
どこを調べても、外へ出られる道はなかった。
苗木は自室のベッドに腰掛けていた。
「……これから、どうなるんだろう」
家族の顔が頭に浮かぶ。
いつもと変わらない日常。
それが、もう戻ってこないかもしれない。
そう考えると、胸が苦しくなった。
コンコン。
突然、ドアがノックされた。
「はい?」
「苗木君、私です。舞園です」
苗木は慌ててドアを開けた。
そこには、舞園さやかが立っていた。
「舞園さん? どうしたの?」
「少し……お話ししてもいいですか?」
舞園は、いつものように笑おうとしていた。
しかし、その表情には不安がにじんでいた。
「もちろんだよ」
苗木は舞園を部屋に招き入れた。
舞園はベッドの端に座り、手をぎゅっと握りしめた。
「苗木君……私、怖いです」
「……うん」
「さっきのモノクマの話、本当なんでしょうか」
「……わからない。でも、あの様子を見る限り、冗談とは思えないよ」
舞園はうつむいた。
「私、アイドルだから……いつも、ファンのみんなに笑顔を届けたいって思ってきました。でも、こんなところで殺し合いなんて……」
「大丈夫だよ、舞園さん」
苗木は、できるだけ優しい声で言った。
「僕たちで何とかしよう。絶対に、誰も殺させない」
「……苗木君」
舞園は少しだけ顔を上げた。
「ありがとうございます」
そのときだった。
ドアの外から、騒がしい声が響いた。
「おーい! 苗木! いるかー!?」
「この声……天の助?」
苗木がドアを開けると、青いところてんが立っていた。
「大変だ! 食堂で緊急会議をするぞ!」
「何かあったの?」
「食料の問題だ!」
「……食料?」
天の助は、真剣な表情で言った。
「この学園にはところてんがねえ!」
「それ、今一番大事な問題!?」
舞園は思わず笑ってしまった。
ほんの一瞬だけ、緊張がほぐれた。
天の助は、得意げに胸を張った。
「ほらな! オレ様のギャグで笑顔になっただろ! これが超高校級のところてんの実力だ!」
「ギャグだったんだ……」
苗木は苦笑した。
だが、舞園の笑顔を見て、苗木は少しだけ安心した。
この学園で、笑顔を失ってはいけない。
どんなに恐ろしい状況でも、希望を捨ててはいけない。
苗木はそう思った。
しかし、その夜。
学園のどこかで、静かに歯車が回り始めていた。
誰にも知られないまま。
最初の殺人へ向けて。
翌日。
苗木たちは食堂に集まっていた。
「とにかく、まずは学園内を調べよう」
苗木が提案すると、霧切がうなずいた。
「賛成よ。出口がないか、監視カメラの配置に不自然なところがないか、確認する必要があるわ」
「オレも行くぞ!」
天の助が勢いよく手を挙げた。
「お前は何を調べるつもりなんだ?」
十神が冷たい目を向けた。
「決まってるだろ! ところてんの販売所だ!」
「そんなものがあるわけないだろう」
「な、なんだと!? 希望ヶ峰学園ともあろうものが、ところてんの一つも置いてないのか!」
「お前の希望はそこなのか……」
十神は額に手を当てた。
その後、苗木たちはいくつかのグループに分かれて学園内を調査した。
天の助は苗木と一緒に、廊下や教室を歩き回っていた。
「なあ、苗木」
「何?」
「オレ様、ちょっと考えたんだ」
「考えた?」
天の助は腕を組んだ。
「もし誰かが殺されたら、そいつを殺した犯人を探せばいいんだろ?」
「うん……そうだけど」
「だったら簡単だ! 犯人を見つけて、ところてんにしてやればいい!」
「どうやって!?」
「こう、ぎゅーっと押し出して……」
天の助は、自分の体を押しつぶすような仕草をした。
「いやいやいや! 人をところてんにするのは無理だよ!」
「なんだと!? オレ様の必殺技を否定するのか!」
「必殺技ですらないよ!」
二人が騒いでいると、廊下の向こうから舞園がやってきた。
「あっ、苗木君!」
「舞園さん」
舞園は、少し困ったような顔をしていた。
「実は、相談したいことがあるんです」
「相談?」
「はい。少し……個人的なことなんですけど」
舞園は周囲を見回した。
「あとで、苗木君のお部屋に行ってもいいですか?」
「うん。もちろん」
天の助が二人の間に割り込んだ。
「おいおいおい! まさか、デートか!?」
「ち、違いますよ!」
舞園が慌てて否定した。
「苗木君と舞園さん、いい感じじゃねーか! オレ様が恋のキューピッドになってやろう!」
「天の助、変なこと言わないでよ!」
苗木が顔を赤くした。
舞園も恥ずかしそうに笑った。
けれど、その笑顔はどこか不安げだった。
その日の夕方。
舞園は、苗木にあることを打ち明けた。
自分が閉じ込められたことによって、アイドルとしての活動がどうなってしまうのか。
ファンはどうしているのか。
仲間たちは本当に信用できるのか。
そして、自分が生きて帰るためには何をすればいいのか。
苗木は、彼女の話を黙って聞いた。
「……私、怖いんです。誰かが突然、私を殺しに来るんじゃないかって」
「舞園さん……」
「でも、苗木君がいてくれると、少し安心します」
その言葉を聞いて、苗木は胸が熱くなった。
「僕は、舞園さんを守るよ」
「……ありがとうございます」
二人は、しばらく静かに座っていた。
その後、舞園は自分の部屋へと戻っていった。
だが、彼女の心の中には、恐ろしい考えが生まれつつあった。
もし、誰かに殺される前に。
もし、自分が先に行動しなければならないのなら。
そのとき、自分は何を選ぶのだろうか。
そして、その夜。
舞園さやかは、ある人物と接触した。
超高校級の野球選手。
桑田怜恩。
彼は、舞園に呼び出されていた。
「……なんだよ、舞園ちゃん。こんな時間に」
桑田は、戸惑ったように頭をかいた。
舞園は、静かな声で言った。
「桑田君。お願いがあるんです」
その声には、いつもの明るさがなかった。
「……お願い?」
桑田は、彼女の顔を見つめた。
そして、学園の中で、最初の殺意が形になろうとしていた。
翌朝。
苗木誠は、いつものように目を覚ました。
「……ふあぁ。今日は何をしようかな」
昨日よりは、少しだけ落ち着いていた。
天の助の騒がしさにも慣れてきた。
誰かが殺されるなんて、そんなことは起きない。
そう信じたかった。
しかし。
ピンポンパンポーン。
学園内に、無機質なチャイムが鳴り響いた。
『死体が発見されました! 死体が発見されました! 一定の捜査時間のあと、学級裁判を開きます!』
苗木の心臓が跳ね上がった。
「……え?」
死体。
その言葉を理解するまで、数秒かかった。
「う、嘘だ……」
苗木は部屋を飛び出した。
廊下には、同じように飛び出してきた生徒たちがいた。
「今の放送、聞いたか!?」
「死体って……!」
「まさか、本当に……!?」
天の助も、慌てて飛び出してきた。
「お、おい! 今の放送、なんだよ!」
「天の助、急ごう!」
苗木たちは、放送で指定された場所へ向かった。
そして。
そこにあった光景を見た瞬間、苗木は立ち尽くした。
床に倒れていたのは――。
舞園さやかだった。
「……舞園、さん?」
苗木の声が震えた。
舞園は、動かなかった。
そのそばには、赤い血が広がっていた。
「う……嘘だろ……」
苗木は、足が動かなくなった。
つい昨日まで、笑っていた。
不安を打ち明けてくれた。
「守る」と約束したばかりだった。
なのに。
「舞園さん……?」
返事はない。
「舞園さん! 起きてよ……!」
苗木は、彼女のそばに駆け寄ろうとした。
しかし、霧切が静かに腕をつかんだ。
「苗木君。触らないで」
「でも……!」
「……もう、亡くなっているわ」
その言葉を聞いた瞬間。
苗木の頭の中が、真っ白になった。
「そんな……」
天の助も、いつものふざけた表情を消していた。
「……おい」
彼は、舞園のそばにしゃがみ込んだ。
「なあ、舞園……。おい、起きろよ」
返事はない。
天の助は、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……なんでだよ」
いつもの大声ではなかった。
「昨日まで、普通に笑ってたじゃねえか……」
その場にいた全員が、言葉を失っていた。
そして、モノクマの声が響いた。
『うぷぷぷぷ! みなさん、ついに殺人が発生しました!』
「黙れぇっ!」
苗木は、思わず叫んだ。
『それでは、学級裁判の準備をしてください! 犯人を当てられなかったら、みなさん全員がおしおきですよ!』
「……絶対に許さねえ」
天の助が立ち上がった。
その目には、怒りが宿っていた。
「苗木」
「……天の助」
「オレ様、決めたぞ」
天の助は、舞園の遺体を見つめた。
「犯人を見つける。絶対にな」
苗木は、ゆっくりとうなずいた。
「……うん」
もう、逃げられない。
誰かが仲間を殺した。
その犯人を見つけなければ、全員が殺される。
苗木は、涙をこらえた。
「舞園さん……。僕、絶対に真実を見つけるから」
天の助も、静かにうなずいた。
「任せろ。オレ様の推理力を見せてやる!」
「……推理できるの?」
「もちろんだ! オレ様は超高校級のところてんだからな!」
「それ、推理力と関係ある!?」
ほんの一瞬だけ、いつもの調子が戻った。
だが、二人の顔はすぐに真剣になった。
捜査が始まった。
「よし! まずは現場検証だ!」
天の助は、腕を組んで宣言した。
「犯人は、この中にいる!」
「それは、そうだと思うけど……」
苗木は苦笑した。
しかし、天の助の表情は真剣だった。
「いいか、苗木。こういうときは、思い込みを捨てるんだ!」
「……天の助」
「まずは、現場をよく見る!」
天の助は、床に這いつくばった。
「むむむ……」
「何かわかったの?」
「床が硬い!」
「そりゃそうだよ!」
「そして……血が赤い!」
「それもそうだよ!」
天の助は、しばらく考え込んだ。
「……犯人は、赤い血を持っている!」
「人間なら、ほとんどそうだよ!」
「なんだとぉ!?」
苗木は頭を抱えた。
「天の助、本当に大丈夫かな……」
しかし、天の助は急に立ち上がった。
「いや、待てよ……!」
「何か気づいたの?」
「このオレ様、重大なことを見落としていた!」
天の助は、舞園の倒れていた場所を見つめた。
「犯人は、ここで舞園を襲った。つまり、犯人はこの現場に来ることができた人物だ!」
「……うん」
「そして、舞園はこの学園の生徒だ! ということは、犯人も生徒の可能性が高い!」
「そうだね……」
「つまり! 犯人は……」
天の助は、全員の顔を見回した。
「この中の誰かだ!」
「それは、最初からわかってるよ!」
苗木のツッコミが響いた。
だが、天の助は気にしなかった。
二人は、ほかの生徒たちと協力して捜査を進めた。
まず、霧切が現場の状況を確認した。
「遺体の状態から考えると、舞園さんは刃物で襲われたようね」
「刃物……」
苗木は、周囲を見回した。
「犯人は、刃物を持っていたってこと?」
「そう考えるのが自然ね」
一方、十神は腕を組んでいた。
「くだらん。犯人は、いずれ自分のボロを出す」
「おいおい、十神! そんな偉そうにしてる場合かよ!」
天の助が噛みついた。
「お前、ところてんのくせに生意気だぞ」
「ところてんだからってバカにするなぁ!」
天の助は十神に指を突きつけた。
「オレ様は、この学園で一番の名探偵になるんだ!」
「……なら、証拠の一つでも見つけてみろ」
十神は冷たく言い放った。
「よーし! 見てろよ!」
天の助は、勢いよく走り出した。
「おい、天の助! どこに行くんだよ!」
「証拠探しだぁ!」
苗木は慌てて追いかけた。
二人は、現場の周辺や廊下、教室を調べた。
そして、苗木はあることに気づいた。
「……あれ?」
「どうした、苗木?」
「この現場……。何か、違和感があるんだ」
苗木は、周囲を見回した。
「舞園さんが襲われたとき、抵抗した可能性があるよね」
「そりゃそうだろ。黙って殺される奴なんていねーよ」
「でも……」
苗木は、少し考えた。
「もし舞園さんが犯人を知っていたとしたら?」
天の助の目が大きくなった。
「……なるほど!」
「わかったの?」
「つまり、犯人は舞園の知り合いだったんだ!」
「可能性はあるけど、まだ決めつけちゃダメだよ」
霧切が近づいてきた。
「苗木君の言うとおりよ。知り合いだった可能性はある。でも、犯人を特定するには、もっと証拠が必要ね」
そのとき、山田が声を上げた。
「そ、それと! 被害者の部屋にも、何か手がかりがあるかもしれませんぞ!」
「そうだね!」
苗木はうなずいた。
「舞園さんの部屋を調べよう」
天の助は拳を握った。
「よし! 真実は必ず、ところてんのように押し出される!」
「……それ、どういう意味?」
「真実は押し出されるんだよ!」
「説明になってないよ!」
二人は舞園の部屋へ向かった。
そこで、重要な手がかりを発見することになる。
舞園の部屋は、静まり返っていた。
昨日まで、彼女が生活していた場所。
ベッド。
机。
クローゼット。
そして、壁にかけられたアイドルの衣装。
苗木は、それを見つめていた。
「……舞園さん」
彼女が生きていた証拠が、そこらじゅうに残っていた。
天の助も、珍しく何も言わなかった。
しばらくして、苗木は机の上に置かれたメモを見つけた。
「これは……?」
そこには、いくつかの文字が書かれていた。
しかし、内容ははっきりしない。
「何かのメモかな……」
霧切が隣からのぞき込んだ。
「大切な情報かもしれないわ。なくさないようにしましょう」
さらに調べると、苗木はドアの近くに小さな傷があることに気づいた。
「……この傷」
「どうした、苗木?」
天の助がのぞき込んだ。
「ドアのところに、何かがぶつかった跡がある」
「ふむ……」
天の助は、腕を組んだ。
「つまり、犯人がドアを破壊したんだな!」
「まだ、そうとは限らないよ」
「じゃあ、舞園が自分でぶつかったのか!?」
「それもわからないよ!」
霧切がため息をついた。
「二人とも、推理は証拠を積み重ねてからにして」
「は、はい……」
苗木と天の助は、同時にうなずいた。
その後、苗木たちは自分たちの部屋も確認した。
すると、苗木の部屋にも不自然な痕跡が見つかった。
「……あれ?」
苗木は、ドアを見つめた。
そこには、何かがこすれたような跡があった。
「これ、昨日はなかった気がする……」
天の助が顔を近づけた。
「なにぃ!? お前の部屋にも何かあったのか!」
「うん……」
苗木は不安になった。
「いったい、何が起きているんだろう……」
霧切は、二つの部屋を交互に見た。
「……苗木君。舞園さんの部屋と、あなたの部屋には、何か関係があるのかもしれないわね」
「関係……?」
「まだ断言はできない。でも、覚えておいて」
そのとき、天の助が突然叫んだ。
「わかったぞぉぉぉ!」
全員が振り返った。
「犯人は……!」
天の助は、ゆっくりと指を伸ばした。
「……モノクマだ!」
「違うと思うよ!」
苗木のツッコミが廊下に響いた。
しかし、天の助は真剣だった。
「だって、こんなデスゲームを始めたのはあのクマだろ! 犯人は、あいつの仲間に違いねえ!」
「……それは、別の問題よ」
霧切が静かに言った。
「モノクマがこの事件に関わっている可能性はある。でも、学級裁判では、実際に舞園さんを殺した人物を特定しなければならない」
天の助は、悔しそうに唇をかんだ。
「……くそっ」
苗木は、天の助の肩に手を置いた。
「大丈夫。まだ時間はあるよ」
「……ああ」
天の助は、うなずいた。
そして、捜査はさらに進んだ。
やがて、二人は決定的な情報にたどり着くことになる。
舞園さやかが、事件の前に桑田怜恩と接触していたこと。
そして、桑田の部屋にも、事件と関係する不自然な痕跡が残されていたこと。
だが、その時点では、まだ誰も確信を持てなかった。
なぜなら。
舞園さやかが殺された理由は、単純な恨みだけでは説明できなかったからだ。
彼女は、何かに追い詰められていた。
そして、桑田もまた、何かを恐れていた。
学級裁判が始まれば、そのすべてが明らかになる。
「さあさあ、みなさん! お待ちかねの学級裁判のお時間ですよー!」
モノクマの声が響いた。
生徒たちは、裁判場へと集められた。
中央には巨大な円形の台。
周囲には、それぞれの生徒の名前が記された席が並んでいる。
苗木は、緊張で手が震えていた。
舞園はもう戻ってこない。
この裁判で犯人を間違えれば、全員が殺される。
「……大丈夫だ」
苗木は、自分に言い聞かせた。
「絶対に、真実を見つける」
隣では、天の助が腕を組んでいた。
「よし! オレ様の名推理を見せてやるぜ!」
「頼りにしてるよ、天の助」
「任せろ! 犯人を見つけたら、ところてんの刑にしてやる!」
「だから、ところてんの刑って何!?」
モノクマが、楽しそうに笑った。
「うぷぷぷぷ! それじゃあ、学級裁判を始めましょう!」
裁判場の空気が、一気に張り詰めた。
「まずは、被害者について確認しよう」
霧切が口を開いた。
「被害者は舞園さやか。彼女は学園内で殺害された。犯人は、この中にいる可能性が高い」
「可能性が高いって、どういう意味だよ?」
大和田が尋ねた。
「現時点では、モノクマの関与も含め、すべての可能性を排除するべきではないということよ」
十神が鼻で笑った。
「くだらん。犯人は人間だ。そうでなければ、この裁判に意味はない」
「ちょっと待って!」
苗木が声を上げた。
「まずは、舞園さんがどうやって殺されたのかを整理しよう」
苗木は、捜査でわかった情報を説明した。
舞園は刃物で襲われた可能性があること。
現場には争った形跡があったこと。
そして、事件前に彼女が誰かと接触していたこと。
「……つまり、犯人は舞園と接触できる人物だったってことか」
大和田がうなずいた。
「そう考えるのが自然ね」
霧切が答えた。
そのとき、天の助が勢いよく手を挙げた。
「はい! ここで、超高校級のところてんによる推理を発表します!」
「そんな肩書き、初めて聞いたぞ……」
十神が呆れた声を出した。
天の助は気にせず、胸を張った。
「まず、犯人は現場にいた!」
「うん……」
「そして、犯人は舞園を知っていた!」
「可能性はあるわね」
「さらに、犯人は人間だ!」
「……それは、そうだと思うけど」
苗木は、少し不安になった。
天の助は、得意げに笑った。
「つまり、犯人は……」
彼は、裁判場をぐるりと見回した。
「この中にいる、人間の誰かだ!」
「最初の推理に戻ってるよ!?」
苗木の叫びが響いた。
しかし、意外にも、その言葉が場の緊張を少しだけほぐした。
朝日奈が苦笑し、石丸が咳払いをした。
けれど、すぐに現実が戻ってくる。
舞園は死んだ。
犯人を見つけなければならない。
霧切が、静かに言った。
「苗木君。天の助君。ここからは、具体的な証拠を使って考えましょう」
「……わかった」
苗木は、深く息を吸った。
そして、最初の疑問を口にした。
「舞園さんは、どうして殺されたんだろう?」
その問いに、誰もすぐには答えられなかった。
なぜなら。
舞園さやかは、誰かを殺すような人間には見えなかったからだ。
そして、誰かに殺される理由も、簡単には見つからなかった。
だが、裁判は待ってくれない。
モノクマは、楽しそうに手を叩いた。
「さあさあ! どんどん議論してください! 犯人が見つからなかったら、みんな仲良くおしおきだよ!」
議論は、少しずつ進んでいった。
まず、苗木は事件前の行動について確認した。
「舞園さんは、昨日の夜、誰かと会っていたんだよね?」
「……そうだな」
桑田怜恩が、腕を組んだまま答えた。
「オレも、何人かと話したぜ。別に、普通だろ?」
「桑田君……」
苗木は、彼を見つめた。
「舞園さんと話した?」
「……は?」
桑田の表情が、一瞬だけ変わった。
「いや、そりゃ……同じ学園にいるんだから、話すことくらいあるだろ」
「そうだね。でも、昨日の夜は?」
桑田は視線をそらした。
「……覚えてねえよ」
天の助が、すかさず叫んだ。
「怪しい! 今の反応、めちゃくちゃ怪しいぞ!」
「うるせえ! ところてんは黙ってろ!」
「なんだとぉ! オレ様は名探偵だぞ!」
「名探偵なら証拠を出せよ!」
桑田の言葉に、天の助は一瞬黙った。
「……ぐっ」
苗木は、冷静に考えた。
桑田の反応は不自然だった。
しかし、それだけで犯人だと決めつけることはできない。
「……天の助。もう少し、証拠を整理しよう」
「わ、わかってるよ!」
苗木は、霧切と目を合わせた。
彼女は小さくうなずいた。
「桑田君。あなたの部屋についても確認したいことがあるわ」
「……オレの部屋?」
「ええ。事件と関係する可能性があるものが見つかっているの」
桑田の顔がこわばった。
「な、何だよ、それ……」
十神が、冷たい声で言った。
「自分の部屋に関する話なのに、ずいぶん動揺しているな」
「うるせえ! 誰だって、いきなり疑われたら動揺するだろ!」
桑田は声を荒らげた。
その瞬間、苗木の頭に一つの考えが浮かんだ。
「……待って」
全員が苗木を見た。
「もし、犯人が舞園さんの部屋に侵入したのではなく、舞園さん自身が犯人の部屋に行ったのだとしたら?」
裁判場が静まり返った。
霧切が、ゆっくりと目を細めた。
「……続けて」
苗木は、言葉を選びながら話した。
「舞園さんは、僕に相談してくれた。すごく不安そうだったんだ。だから、誰かに助けを求めようとしていた可能性がある」
「……それで?」
大和田が尋ねた。
「その相手が、桑田君だったとしたら?」
「ふざけんな!」
桑田が叫んだ。
「なんでオレなんだよ! 証拠もねえくせに!」
天の助が、勢いよく前に出た。
「あるぞ!」
「……何?」
「お前、さっき舞園と会ったことを否定しなかったな!」
「それが証拠になるかよ!」
「ぐっ……!」
天の助は押し黙った。
しかし、苗木は気づいていた。
桑田の反応は、ただ疑われていることへの怒りだけではない。
何かを隠している。
何かを、恐れている。
「桑田君……」
苗木は、まっすぐ彼を見つめた。
「本当のことを話してほしい」
「……」
「舞園さんに、何があったの?」
桑田は、唇をかみしめた。
そして、低い声でつぶやいた。
「……知らねえよ」
その声は、震えていた。
「オレは……何も知らねえんだよ!」
だが、その言葉を聞いた瞬間、苗木は確信に近い感覚を覚えた。
桑田は、何かを知っている。
そして、その秘密こそが、舞園さやかの死につながっている。
「……もう一度、整理しよう」
苗木は、震える手を握りしめた。
「舞園さんは事件の前、誰かに助けを求めていた可能性がある」
「それが桑田だったというのか?」
十神が尋ねた。
「まだ断定はできない。でも、桑田君の反応には不自然なところがある」
霧切がうなずいた。
「それに、事件の現場だけでは説明できない点もあるわ」
「……説明できない点?」
苗木は彼女を見た。
「ええ。舞園さんが襲われた場所、そして犯人がそこへ至るまでの行動。すべてをつなげて考える必要があるの」
天の助が腕を組んだ。
「つまり、パズルってことだな!」
「……そうね」
「よーし! オレ様、パズルは得意だぞ!」
「本当?」
「もちろん! 前に、ボーボボの鼻毛で作った迷路を攻略したことがある!」
「それ、パズルなの!?」
苗木は思わず突っ込んだ。
しかし、天の助は真剣だった。
「苗木。考えてみろ。犯人は、何かを隠そうとしているんだ」
「……うん」
「だったら、隠したいことを一つずつ暴けばいい。そうすれば、最後に残ったものが真実だ!」
苗木は、天の助を見つめた。
普段はふざけてばかりいる。
自分勝手で、騒がしくて、ところてんのことしか考えていないように見える。
それでも。
今は、真剣に舞園の死と向き合っている。
「……ありがとう、天の助」
「な、なんだよ、急に!」
「君がいてくれて、よかった」
天の助は、少しだけ顔を赤くした。
「……ふ、ふん! 当然だろ! オレ様は超高校級のところてんだからな!」
そして、二人は再び議論に向き合った。
苗木は、事件前の行動について質問を重ねた。
舞園が誰と会っていたのか。
桑田がどこにいたのか。
それぞれの部屋に何が残されていたのか。
少しずつ、証言の矛盾が浮かび上がっていった。
桑田は、何も知らないと言った。
だが、事件に関する質問を受けるたびに、彼の態度は不自然になっていった。
「……もう、やめろよ」
桑田がつぶやいた。
「桑田君……?」
「もう、いいだろ……。オレが疑われてんのはわかったよ。でも、オレは……」
言葉が続かなかった。
天の助が、静かに言った。
「……桑田」
桑田は顔を上げた。
「オレ様、バカだから難しいことはわかんねえ。でもな」
天の助は、まっすぐ桑田を見つめた。
「舞園が死んだんだ。もう、二度と笑えねえんだよ」
「……っ」
「お前が犯人じゃないなら、ちゃんと説明しろよ。そうすれば、オレ様だって、お前を疑いたくねえ」
桑田は、拳を握りしめた。
「……うるせえ」
「桑田君……」
苗木が呼びかける。
しかし、桑田は顔を伏せたままだった。
「……うるせえんだよ!」
その叫びが、裁判場に響いた。
そして、桑田の中で張り詰めていたものが、ついに切れた。
「……わかったよ」
桑田は、震える声で言った。
「もう、隠せねえんだろ……」
苗木は、息をのんだ。
「桑田君……」
桑田は、ゆっくりと顔を上げた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「……オレが、舞園を殺した」
裁判場が、凍りついた。
「……え?」
苗木の声が、かすれた。
桑田は、両手で顔を覆った。
「……オレが、やったんだよ」
誰も言葉を発せなかった。
舞園さやかを殺した犯人。
それは、桑田怜恩だった。
天の助は、しばらく黙っていた。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「……お前だったのかよ」
桑田は、顔を上げられなかった。
「……悪い」
その一言は、あまりにも小さかった。
「悪い……。オレ、こんなことになるなんて……」
苗木は、拳を握りしめた。
「どうして……?」
その声は、怒りと悲しみに震えていた。
「どうして、舞園さんを殺したんだよ……!」
桑田は、涙をこぼした。
「……舞園に、呼び出されたんだ」
彼は、事件の前に起きたことを語り始めた。
舞園は、自分が学園から脱出するために必死だった。
そして、桑田に助けを求めた。
だが、二人の間では話がこじれた。
桑田は、彼女の言葉に追い詰められた。
そして、恐怖と混乱の中で、取り返しのつかない行動を取ってしまった。
「……オレ、怖かったんだ」
桑田は、声を震わせた。
「自分が死ぬのも、ここから出られないのも……。全部、怖かったんだよ……」
苗木は、何も言えなかった。
桑田は、さらに続けた。
「舞園は……オレを頼ってくれたのに……。オレは……」
言葉が途切れた。
天の助は、唇をかみしめた。
「……バカ野郎」
その声には、怒りが込められていた。
「怖かったからって、殺していいわけねえだろ……!」
桑田は、うつむいた。
「……わかってる」
「舞園は、もう帰ってこねえんだぞ!」
「……わかってるよ!」
桑田は叫んだ。
「そんなこと、オレが一番わかってんだよ!」
裁判場に、重い沈黙が落ちた。
苗木は、目を閉じた。
舞園を守ると約束した。
けれど、守れなかった。
彼女は死んでしまった。
そして、その犯人は、目の前にいる。
「……桑田君」
苗木は、ゆっくりと目を開いた。
「君が何を考えていたのか、僕には全部はわからない。でも……」
彼は、桑田を見つめた。
「どんな理由があっても、人を殺してしまった事実は変わらない」
桑田は、何も言わなかった。
「僕たちは、真実を見つけなければならなかった。だから、君が犯人だとわかった以上……」
苗木は、声を震わせながら続けた。
「君に投票する」
天の助も、ゆっくりとうなずいた。
「……オレ様もだ」
桑田は、目を閉じた。
「……ああ」
そして、学級裁判は最終投票へと進んだ。
「それでは、投票タイム!」
モノクマが、楽しそうに叫んだ。
「みなさん、犯人だと思う人物に投票してください!」
裁判場の中央に、投票装置が現れた。
生徒たちは、一人ずつ投票していった。
苗木は、震える手で投票ボタンを押した。
画面に表示された名前。
桑田怜恩。
天の助も、投票を終えた。
「……これで、いいんだよな」
苗木が小さくつぶやいた。
霧切が答えた。
「ええ。私たちは、証拠に基づいて判断したのよ」
やがて、全員の投票が終わった。
モノクマが、結果を発表した。
『投票の結果、クロに選ばれたのは……』
一瞬の沈黙。
『桑田怜恩くんでーす!』
裁判場に、重苦しい空気が流れた。
「……やっぱり、か」
大和田が、拳を握りしめた。
朝日奈は、口元を押さえていた。
石丸は、目を伏せた。
苗木は、ただ桑田を見つめていた。
桑田は、何も言わなかった。
モノクマは、満足そうに手を叩いた。
「大正解! というわけで、桑田くんには、おしおきが決定しましたー!」
「……待ってくれ」
桑田が、かすれた声で言った。
「……せめて、最後に……」
モノクマは首をかしげた。
「ん? 何かな?」
桑田は、苗木を見た。
「……苗木」
「……桑田君」
「舞園に……」
桑田は、唇をかみしめた。
「……悪かったって、伝えてくれ」
苗木は、答えられなかった。
桑田は、少しだけ笑った。
「……無理か。死んでんだもんな」
その笑顔は、あまりにも悲しかった。
天の助は、顔をそむけた。
「……バカ野郎」
小さく、そうつぶやいた。
そして、モノクマが叫んだ。
「それじゃあ、桑田くん! 楽しいおしおきの時間だよー!」
桑田怜恩は、裁判場の中央へと連れていかれた。
そこには、大きな野球場のような空間が広がっていた。
「……なんだよ、これ」
桑田は、呆然と周囲を見回した。
モノクマが、マイクを手にしていた。
「桑田くんは超高校級の野球選手! だったら、おしおきも野球で決まりだよね!」
「……ふざけんな」
桑田は、歯を食いしばった。
「オレは……もう、野球なんか……」
「さあ、始めよう!」
モノクマが手を振った。
桑田は、装置に固定された。
目の前には、野球ボールを投げる機械が並んでいた。
「……おい、やめろ」
桑田の声が震えた。
「やめろよ……!」
しかし、機械は止まらなかった。
第一球。
ボールが飛んだ。
第二球。
第三球。
桑田は、必死に身をよじった。
だが、逃げることはできなかった。
「うわああああああっ!」
次々とボールが放たれる。
それは、野球の練習などではなかった。
ただ一人の人間を追い詰めるためだけの、残酷なおしおきだった。
裁判場のモニターには、その光景が映し出されていた。
苗木は、目を見開いたまま動けなかった。
「……やめてよ」
彼の声は、小さかった。
「もう……やめてくれよ……」
天の助は、拳を強く握りしめていた。
「……くそっ」
桑田は、最後まで叫び続けた。
やがて、ボールの音が止まった。
モニターの映像が暗くなった。
そして。
桑田怜恩は、死亡した。
誰も、何も言えなかった。
モノクマだけが、楽しそうに笑っていた。
「うぷぷぷぷ! これにて第一回学級裁判、終了でーす!」
「……ふざけるな」
苗木が、低い声でつぶやいた。
「……こんなの、絶対に間違ってる」
モノクマは、首をかしげた。
「えー? でも、ルールはルールだよ?」
「ルールだからって、何をしてもいいわけじゃない!」
苗木は叫んだ。
「舞園さんも、桑田君も……! こんなことになるために、生きてきたんじゃないんだ!」
モノクマは、一瞬だけ黙った。
しかし、すぐに笑顔を取り戻した。
「うぷぷぷぷ! それじゃあ、みなさん! 次の殺人も楽しみにしていてね!」
放送が切れた。
裁判場には、重い沈黙だけが残った。
裁判が終わったあと。
苗木は、一人で廊下を歩いていた。
舞園さやか。
桑田怜恩。
二人の顔が、頭から離れなかった。
舞園は、助けを求めていた。
桑田は、恐怖に追い詰められていた。
そして、二人とも、もういない。
「……僕は、何もできなかった」
苗木は、立ち止まった。
「舞園さんを守るって約束したのに……」
目の奥が熱くなった。
涙が、こぼれそうになった。
そのとき。
「……おい、苗木」
後ろから声がした。
振り返ると、天の助が立っていた。
いつものように騒がしくはなかった。
ただ、静かに苗木を見つめていた。
「……天の助」
「ここにいたのか」
天の助は、苗木の隣に座った。
二人は、しばらく黙っていた。
やがて、天の助が口を開いた。
「……オレ様、最初はさ」
「……うん」
「こんなところ、すぐに脱出できると思ってたんだよ」
天の助は、自分の青い体を見下ろした。
「オレ様は、ボーボボたちといろんな敵と戦ってきた。変な奴にも、怖い奴にも、何度も会った」
「……うん」
「だから、こんなクマなんか、どうにでもなると思ってた」
天の助は、拳を握った。
「でも……人が死ぬところを見るのは、やっぱり嫌だな」
苗木は、天の助を見つめた。
天の助は、いつものふざけた表情ではなかった。
「舞園は、もう笑わねえ。桑田も、もう戻ってこねえ」
「……うん」
「……オレ様、腹が立つよ」
天の助の声が震えた。
「誰かが怖い思いをして、誰かが死んで、それをあのクマが笑って見てるなんて……」
彼は、顔を上げた。
「絶対に許せねえ」
苗木は、静かにうなずいた。
「……僕もだよ」
二人は、同じ方向を見つめた。
廊下の先には、鉄板でふさがれた窓があった。
外の景色は、見えない。
それでも。
苗木は、心の中で決めた。
この学園から必ず脱出する。
モノクマの計画を止める。
そして、これ以上、誰も死なせない。
「……天の助」
「なんだ?」
「僕たちで、この学園の秘密を暴こう」
天の助は、顔を上げた。
「……ああ!」
彼は、いつもの調子で胸を張った。
「任せろ! オレ様の推理力と、苗木の幸運があれば、どんな謎だって解けるはずだ!」
「うん……!」
「そして、脱出したら、ところてんパーティーだ!」
「……そこは普通に喜んでいいのかな」
苗木は、少しだけ笑った。
天の助も、笑った。
ほんの一瞬だけ。
二人の心に、希望が戻った。
しかし。
その様子を、監視カメラが見つめていた。
そして、学園のどこかで。
モノクマが、にやりと笑った。
「うぷぷぷぷ……。なかなか面白いことになってきたねえ」
その背後には、誰も知らない秘密が隠されていた。
希望ヶ峰学園。
ここは、ただの学校ではない。
生徒たちの希望を奪い、絶望を植えつけるための、巨大な檻だった。
そして、ところ天の助という異物が入り込んだことで、その計画には予測できない変化が生じ始めていた。
モノクマは、モニターに映る天の助を見つめた。
「……ところてんかあ」
少し考えたあと、モノクマは笑った。
「まあ、いいや! 次はどんな事件が起きるのかな?」
学園に、不気味な笑い声が響いた。
その夜。
苗木と天の助は、食堂で向かい合っていた。
机の上には、学園の食堂で用意された夕食が並んでいた。
しかし、二人とも、ほとんど手をつけていなかった。
「……苗木」
天の助が口を開いた。
「ん?」
「オレ様、決めたぞ」
「何を?」
天の助は、胸を張った。
「この学園を脱出したら、ボーボボたちを連れて戻ってくる!」
「……え?」
「そして、あの白黒クマを、ところてんにしてやる!」
「だから、人をところてんにはできないって!」
「うるせえ! 気合いの問題だ!」
天の助は、机をバンッと叩いた。
「オレ様は、もう誰も死なせねえ! 舞園も、桑田も、助けられなかった……。だから、次は絶対に守る!」
苗木は、天の助の言葉を聞いて、ゆっくりとうなずいた。
「……うん。僕も、そう思う」
二人は、立ち上がった。
「絶対に脱出しよう」
苗木が言った。
「おう!」
天の助が答えた。
そして、二人は拳を合わせた。
人間の手と、青いところてんの手。
奇妙な組み合わせだった。
けれど、その瞬間。
二人の間には、確かな絆が生まれていた。
この先、どんな絶望が待ち受けていようとも。
二人は、真実を追い続ける。
そして、いつか必ず、この学園から脱出する。
そのために。
苗木誠は、希望を捨てない。
ところ天の助は、ところてんとしての誇りを捨てない。
……いや、ところてんとしての誇りが何なのかは、本人にしかわからないのだが。
ともかく。
こうして、「天の助のデスゲーム」第一話は幕を閉じた。
しかし、物語はまだ終わらない。
学園には、まだ多くの秘密が隠されている。
残された生徒たちの間にも、不信と疑念が広がり始めている。
次に誰が疑われるのか。
次に誰が犠牲になるのか。
そして、天の助の存在は、希望ヶ峰学園の運命をどう変えるのか。
答えは、まだ誰にもわからない。
ただ一つ確かなことがある。
モノクマのデスゲームは、始まったばかりなのだ
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みぅだよ🥀 第1話、読んだよ。ドキドキした。 ダンゴンロンパの世界に天の助が入ることで、あの重くて切ない空気がちょっとだけ軽くなる感じ、すごく好き。でも舞園さんの死はやっぱり辛かったな……。 苗木と天の助の掛け合いが絶妙で、笑えるところと泣きそうなところのギャップが心に残った。 続きが気になる。 この夏は一緒にデスゲームを追いかけるね🌙