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「嘘だっ! あれは現実なんかじゃない」
「嘘じゃないよ。昨日私はあの場所で消えてなくなったの。もう、この世界の何処にも私はいないの」
「そんなの信じられる訳ないだろっ!」
「信じたくないのはわかるけど…どうしようもないんだよ」
こうして話している現実が余りにリアル過ぎて、まるでテレビの中の葵と会話をしているような錯覚に陥った。
まだ、この世界の何処かにいるような気がした。
「葵、今何処にいるんだよ?」
「瑛太のいる世界に私はいない。今瑛太と話している私は、2年前の私…。ちょっとだけ若いでしょ?」
確かに昨日まで一緒にいた葵よりも、幼さが残っていた。
待てよ…‥
2年前の葵という事は、まだ間に合うかもしれない。
「葵…お願いがあるんだ」
「やだっ!」
「まだ何も言ってないんだけど…」
「瑛太の言いたい事ぐらいわかるよ…」
「だったら…」
「私は、未来を変えるつもりはないから」
「お願いだよ。僕の言う事を聞いてくれって。僕と結婚しなっ‥」
「私は瑛太と結婚して、娘の遥香を産んで…僅かな時間だけど家族3人で幸せに暮らすの。そして、瑛太と遥香の1才の誕生日の10月13日に私は消えてなくなる。この未来を変えるつもりは絶対ないから」
「葵っ…」
「瑛太…ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
「わかった…」
「よしよしっ。偉いぞ瑛太っ!」
「葵…もう、会えないの?」
「会えるよ。また、こうして…」
「よかった…」
「じゃあね、バイバイ」
「うん…」
そこで映像は終了した。
僕はテーブルの上にある布巾を目に押しあて、涙を拭いさった。
それから僕は直ぐに玄関で靴に履き替えて、家の外に出た。
しばらくの間、アパートの回りを探していたが遠藤さんの姿は見当たらなかった。
この辺りで行きそうな所といえば…富士見公園…。
富士見公園は、滑り台とベンチしかない小さな公園だ。
とりあえず富士見公園に行ってみる事にした。
すると公園には、遥香をあやしながら歌を歌っている遠藤さんの姿があった。
決して上手いとは言えないけど、何処か懐かしさを感じる歌声だった。
「遠藤さん…」
「あれっ? 紺野くん、どうしたの?」
「さっきは、すいませんでした。せっかく頑張って作ってくれた料理を食べたくないだなんて…」
「別に気にしなくていいよ。何とも思ってないから」
遠藤さんは、さっきの事など無かったかのように笑顔で答えてくれた。