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「ねぇつぼ浦、」
「なんスか?」
「俺らさぁ、付き合わない?」
深夜12時の車内。1日の仕事をほとんど終え、パトロールの帰路についていた時のことだ。つぼ浦は自分の耳を疑った。
「え?スイマセン、もっかい言ってください」
「だからぁ、付き合わないかって」
聞き間違いではなかった。つぼ浦は混乱する。青井の顔をミラー越しに覗くが鬼がみえるばかりで表情は読めない。雑談をしていた時と全く同じ雰囲気でハンドルを握っており、わけがわからなかった。
告白を、されたのか?
つぼ浦は一度だけされたことのある告白を思い出した。
高校生か中学生のころだ。正面には話したこともない女子生徒が立っていた。自分が呼びつけたというのになかなか話し出さない彼女を不審に思った。長く伸びた髪をいじり、頬を染めた彼女は突然「付き合ってください」と言ってきた。
改めて考えてみればきっと彼女は照れていたのだろう。告白とはそういうものなのだと知った。
しかし、青井の声には恥じらいのハの字すらのっていなかった。いつもののんびりとしていて間延びした、柔らかい声だ。
名前も思い出せなかった彼女の告白は当然断った。好きでもないのにokを出すのは不誠実だと思ったからだ。
そこそこ仲の良い先輩、というのがつぼ浦の中での青井の位置づけだ。恋愛対象としてなんて考えたこともなかった。なんて返答するべきか全く思いつかない。
視線をキョロキョロと動かす。言葉を探すつぼ浦の目にとまったのは、時計に表示された日付だった。気づけば今日は終わっており、4月1日になっていた。
そうか!と心の中で声をあげる。今日はエイプリルフールだ。きっと青井は自分をからかおうとしているのだろう。告白をされた反応をみて面白がっているに違いない。
よくよく考えてみれば、青井が自分を、しかも恋愛的に好いているわけがない。
だっていくら迷惑をかけていると思っているのか。今助手席座っているのも楽をするためで、半ば無理やりだ。自分が生意気な後輩である自覚もある。嫌われてはいないだろうと思ってはいたが好きになられる理由がない。
いや、こんな意地の悪いドッキリを仕掛けてくるくらいだ。思い違いだったのかもしれない。つぼ浦はちょっと落ち込んだ。
「ねぇ返事は?」
長い間考えているつぼ浦を待ちくたびれたのか青井が急かしてきた。
少し悩み、答える。
「イイっすよ」
こうなったら思い通りには動いてやらないぞ!という反骨心からそう言った。
こっちが乗り気だと思ったら焦ってすぐに撤回してくるだろう。そしたら、気づいていたことをバラして、こっちがいじってやろうと企んだ。
だがしかし、そうはならなかった。
「……ホントに?」
「あぁ。一度言ったことは撤回しないぜ!」
「お前、俺にキスされてもいいの?」
「え、」
想定外の質問に一瞬固まるが慌てて肯定する。
「も、もちろんだ」
危ない危ない。ボロ出るところだった。青井はこちらの発言が嘘か疑っているのだろう。キスという言葉に顔に血が集まってくるのをを感じる。
つぼ浦は恋愛にとてもウブな男だった。もちろんキスをしたこともない。お互いに好きあって初めてお付き合いが成立し、そこから交際期間を積んでからだと心の底から思っているので。
熱を冷ますために窓の外を見やる。ロスサントスの夜景はいつものようにギラギラと光っていた。
「今すぐでも?セックスしてもいいの?」
「セッ、!?あ、あぁ。い、イイぜ……」
そこまで言われるとは思わず驚愕する。もうヤケクソで答えるしかなかった。今さらウソでした、などとは言えなくなってしまっているのだ。赤い顔をみられないため、必死で顔を逸らす。
頼むから早くネタバラシしてくれ……!!と強く願った。
「ふーん……」
青井はなにも変わらず運転を続ける。ついさっき、夜食におにぎりが食べたいと言ったのと同じ声色だ。
つぼ浦は青井がもう怖くなってしまった。沈黙が恐ろしい。この空気を壊すために車から飛び降りてやろうかとすら思う。
シートベルトに手をかけたその時、車がゆっくりと減速した。
やっと本署に着いたのかと思い外をみるが、そこは暗い森の中だった。
つぼ浦は動揺と焦りでなにも気づいていなかったが、青井は途中から本署とは違う方向に舵をきっていた。
「え……?アオセン、?」
振り向くと、ヘルメットを外した青井の整った顔が目の前にあった。思わず身を引こうとするが青井によって止められる。
そしてそのまま唇を押し付けられた。邪魔だという風にサングラスが取られる。つぼ浦のファーストキスが儚く散った。
つぼ浦の頭の中は疑問符でいっぱいだった。状況がイマイチ理解できない。縋るように青井をみる。
なにも変化していないと思っていた青井は喜びにあふれた顔で笑っていた。
「嬉しい。つぼ浦が俺を受け入れてくれて、」
青井の頬は記憶の彼女よりも濃い赤に染まっていた。そこでようやくつぼ浦は青井の思いが本気であったことに気付いた。
「ア、アオセン、俺!違くて、
「なにも違うくなんかないよ。つぼ浦、好きだよ。愛してる」
つぼ浦の言葉を遮った青井がまた顔を寄せてくる。思わず目を瞑ったつぼ浦に矢継ぎ早に口付けをしてくる。
つぼ浦はやっと青井にキスをされている状況を理解した。挨拶の類ではない、情欲がこもったキスだ。
青井から本当に想われていることに衝撃を受ける。
あの青井が、多くの人に愛されて多くの人を平等に愛する青井が、愛しいものを見つめる目を自分だけに向けている。好きだと、全てで表現しているのだ。
体が一気に熱くなる。心臓が爆発しそうだった。
青井が異常に格好よくみえる。
背中を撫でる手に体がビクッと震える。顔に当たる少しカサついた柔らかい感触が心地よい。
青井が触れる場所全てが燃える様だった。
簡単なバードキスだけでつぼ浦はくたりと体の力が抜けてしまい、否定も拒否もできなくなってしまった。
「つぼ浦って、すぐそんなになっちゃうんだね。かわいいねぇ」
「もっと激しいの、やってみよっか……♡」
「は、はげしいの……?」
明るいオレンジをした唇を奪う。つぼ浦もおずおずと背中に手を回した。
閉じられた唇に舌をゆっくり差し込む。つぼ浦は口に入ってきた異物に目を見開いた。
それでも青井が「大丈夫」と優しく言うので目を閉じ、身を任せることにした。
青井はつぼ浦の舌と自分のとをねっとりと絡ませた。舌と舌の温度がだんだん同じになっていく。
目を開けると赤面し、いっぱいいっぱいになりながらも懸命に青井の舌を追うつぼ浦がいた。
あまりの多幸感に顔がほころぶ。先輩後輩なんかでは絶対に見ることのできない顔だった。
嬉しくなって舌の動きを大きくする。つぼ浦のきれいな歯並びを一つ一つ確認していく。人に触られたことのない部分を丁寧に舐められる快感につぼ浦は目に涙を浮かべた。
たまに挟まるハァハァという2人の息継ぎと舌と舌、体液が混ざるピチャピチャという音が耳を犯した。
どれだけそうしていただろうか。2人の境目がわからなくなるころ、ようやく青井はつぼ浦を離した。
つぼ浦は激しい運動をした後かというように汗をかき、全身を赤くしていた。耳を撫でてやると「っぁう」という小さい喘ぎ声が漏れた。
性欲などないかの様なつぼ浦を、自分がこうしたのだという事実が青井を欲情させていた。
これ以上のことをしてやりたいと強く思う。
無線のボタンを押した。
「あー、あー『青井とつぼ浦、退勤しまーす』
『『お疲れ様でーす』』
退勤の理由も知らない同僚達が元気に返事を返した。
「あ、あおせん、?」
もう息もたえたえのつぼ浦に有無を言わせず宣言する。
「つぼうらぁ、俺の家いこっか♡」
シートベルトを締めた青井はアクセルを踏みこんだ。
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