テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
舞台の乙女
irxs
桃さん(♀)メインです。
青さん(♀)出てきます。
桃さん→「」
青さん→『』
幸せにならない…かも。
これはとある演劇が有名な国の乙女のお話。
その少女は貧しい子でした。
今日も、お腹が鳴ります。
「お腹減ったなあ」
当然ご飯を買えるほどのお金は持っていません。
そんな少女がお金を手に入れるためにどうするか。
当然、
「…今日も盗みにいくしかないかぁ、」
盗みにいくのです。
「チッ」
どうやら今日は大した稼ぎではなかったよう。
盗んだお財布に入っていたのは少しの硬貨と、一枚の舞台のチケット。
どうやら有名な女優が主演の舞台のようです。
当然彼女には必要ない物。
なのですが、
「もしかしたらタダでご飯が食べれるかも…」
と、少しの希望に、賭けてみることにしたようです。
『__________。』
「わぁっ…!」
少女は空腹も忘れて、舞台に夢中になりました。
演者という存在に、一目惚れしたのです。
ここが、彼女の始まりでした。
少女は、舞台の上で演じることに憧れました。
ですが、演劇の練習に通うためのお金なんて少女は持っていません。
だから少女は、お金を盗むときに一手間加えてみることにしたのです。
それは、演じること。
「____…。」
ある時は迷子になった可哀そうな少女、またある時は物乞いをする哀れな少女、両親を亡くして途方に暮れている少女。
過去に見た人間たちの様子、過去の自分の様子を演じることにしたのです。
少女はどんどん、嘘をつくのが上手くなっていきました。
それは即ち、演じるのが上手いということ。演者には最適な能力なのです。
いつものように演技を交えてお金を盗んでいたある日、少女に好機が訪れました。
とある演劇の脚本家が、少女に声を掛けたのです。
[君、演劇に興味はないかい?]
どうやらこの脚本家は隠れた才能を見つけるために、家がない子であろうと手当たり次第に声を掛けていたようです。
少女の夢は女優になること。
そんな少女はもちろん、頷きます。
「あり、ます…。」
数年後、少女がもう【少女】と呼べる年齢ではなくなった頃。
彼女はどんどん上達していき、アマチュアの世界” では “、名の知れた女優になっていきました。
そしてそんな彼女に、一つの話が持ち掛けられたのです。
その内容は、〔 プロの舞台に、端役ではあるが出てみないか。〕というもの。
かつてない好機。憧れのプロの舞台に出ることが出来るのです。
勿論迷うこともなく、二つ返事で彼女は引き受けました。
プロの舞台に出演した彼女。
そんな彼女は、こう思いました。
「何か、足りない…。」
そう、自分の実力ではまだ何か足りない、と。
その後彼女は、沢山の舞台に出たり、時間があれば稽古をするなど、傍から見たら倒れてしまいそうなほどの努力をしました。
ですが現実は残酷で、あまり上達はしなかったのです。
彼女は途方に暮れました。
「あたしこれから、どうしていけばいいんだろう…?」
演技に全てを賭けてきた彼女は、他にできることなどないのです。
路頭に迷った彼女に、怪しくも魅力的な話が持ち掛けられました。
その話を持ち掛けたのは、とある老婆の魔女。
〈お嬢さん、心に迷いが見えるね。〉
「え…。」
〈ふーん…舞台のことかい。うまく演じられない…か…。〉
「何で…?」
魔女は、彼女の悩みを次々に当てていきます。
〈お嬢さん、これをあげようか。〉
「これは…?」
〈魔法のペンダントさ。これを付けて舞台に上がってみな。役が憑依したように演じることができる。〉
「そんなものが、本当にあるの?」
〈あるさ。だってあたしは、魔女なんだからね。〉
〈どうだい?使ってみないかい?〉
どうしても上手くなりたい彼女は、この話を呑みました。
それからの彼女は役が憑依したように演技する、と、とても評判になりました。
その人気は凄いもので、他国からも人が彼女を見に来る程、彼女が少女だった頃、
一目惚れした女優と関われるようになる程に。
『ないこは凄いなぁ。もうここの舞台か。』
「ありがとうございます、いふさん。」
そう、彼女は、その国で一番大きいと言われる程の舞台に立てるようになりました。
その舞台は彼女の夢なのでした。
ついに当日。
今回彼女が演じるのは、【舞台の乙女】という題名の童話の主人公。
彼女と同じ様に、舞台に立ちたいという気持ちを抱いている少女のお話。
何から何まで、全てが彼女とそっくりな少女のお話。
『ついに本番やね、きっとないこなら出来るから、大丈夫。頑張ってきいや。』
「ありがとうございます!頑張ります!!」
憧れの先輩に応援されて、俄然やる気が湧いてきたようです。
舞台も終盤。
「____最高の舞台だわ!!」
彼女は頬を紅潮させ、興奮したように演じています。
それもそのはず、
実はこの舞台、最後に主人公がナイフで喉を刺して自殺する、というシーンがあるのです。
勿論これは舞台なので、ナイフは偽物なのですが。
「この舞台で演じることができた。もう私に悔いはないわ。」
乙女は微笑んでこう言いました。
「ああ、楽しかった!」
そして、喉を刺しました。
<ひッ>
<きゃああああああっっ!!!!>
____本物のナイフで。
鮮血が舞台を汚していきます。
観客の悲鳴が飛び交います。
『は…ないこ…ッッ??!!』
『なんで…なんでッ?!!!!』
身体を揺さぶる彼女。
しかし乙女は目を覚ましません。
彼女は絶望します。
そんな悲劇で、【舞台の乙女】という劇、【ないこ】という少女の人生は、幕を閉じました。
end
《あとがき》
彼女がもらったのは、【その役が憑依したように演じることができる】ペンダントです。
それを彼女はずっと使い続けていたのです。
きっと彼女には役が憑依しすぎたのでしょうね。
全てを真似するほどに。自分の身を亡ぼすほどに。
最後の一連の台詞も、彼女の本心、かもしれません。
彼女の人生は幕を閉じましたが、案外幸せだったのかもしれません。
憧れだった人、憧れだった舞台の上で、人生を終えることが出来たのですから。
きっと大衆の記憶に残る、悪夢になったことでしょう。