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『ずっと探してた』
Li視点
ロゼと話した日から、俺はおかしくなった。
廊下ですれ違うだけで、
教室の前を通るだけで、
心臓が一拍、余計に跳ねる。
(……なんなんだよ)
名前も知ってる。
同じ学年で、同じ校舎にいる。
それだけなのに――ロゼは、俺の中で“特別”だった。
昼休み。
いつもの席で弁当を食べていると、背後から声がした。
「……ここ、空いてる?」
振り返ると、ロゼが立っていた。
「え、あ……うん」
俺が少しずれると、ロゼは隣に腰を下ろす。
距離が近い。
近すぎて、肩が触れそうだった。
(近……っ)
ロゼは何も気にしていないみたいで、静かに弁当を開く。
沈黙。
でも、気まずさはない。
それより――
(……匂い)
柔らかい、落ち着く匂い。
なぜか胸の奥が、すっと軽くなる。
(……知ってる気がする)
「……ロゼ」
「ん?」
「さっきさ、俺の前……人多かったろ」
「あぁ」
「なのに、なんでわざわざ俺の隣」
ロゼは箸を止めて、少し考える。
「……ここ、落ち着くから」
その言い方が、あまりにも自然で。
心臓がまた跳ねた。
その時、向かいの席から声が飛んできた。
「らいと、その髪やっぱ目立つなー!」
空気が一瞬、固まる。
俺は笑って返そうとした。
慣れてる。
そう思ってた。
――でも。
「やめとけよ」
低い声が、割って入った。
「……は?」
「本人、嫌そうだろ」
ロゼだった。
目は逸らさない。
幼稚園の時みたいに、真っ直ぐ前を見ている。
「別に悪口じゃねーし」
「だったら言う必要ない」
ぴしゃり、と。
相手は舌打ちして、目を逸らした。
「……ちっ」
去っていく背中を見送ってから、ロゼは俺を見た。
「……大丈夫か?」
その一言で、胸が熱くなる。
「……ありがと」
小さく言うと、ロゼは少し困ったように笑った。
「当たり前だろ」
(当たり前……?)
胸の奥で、何かが確かに重なった。
――夕方。
昇降口で靴を履いていると、突然声をかけられる。
「らいと」
ロゼだった。
「一緒に帰るか」
「……いいの?」
「嫌ならやめる」
即答だった。
「……嫌じゃない」
並んで歩く帰り道。
沈黙が心地いい。
途中、横断歩道で車が来た瞬間――
ロゼが俺の腕を引いた。
「危ねぇ」
その手の力と温度に、全身が震えた。
(……この感じ……)
幼稚園。
夕陽。
小さな手。
――重なる。
「……ロゼ」
「ん?」
「……お前さ」
言いかけて、言葉を飲み込む。
(怖い)
もし違ったら。
もし、勘違いだったら。
ロゼは、俺の横顔をじっと見ていた。
「……なに?」
「……なんでもない」
でもロゼは、少しだけ声を落として言った。
「……らいと」
「俺、昔から……
お前みたいなやつ、放っとけねぇんだ」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
(それ……俺だけに言ってる?)
家の前で立ち止まる。
「じゃあな」
「……うん」
背中を向けたロゼが、一瞬だけ振り返る。
「……また、明日」
その声を聞いた瞬間、確信した。
(俺……)
この声を、ずっと探してた。