テラーノベル
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「あちぃ〜〜〜」
初夏。気温が上がって汗ばむ日が多くなってきた。梅雨のある日本に比べ、雨の少ないロスサントスでは湿度が低く過ごしにくいとも言いがたいが、それでも暑いことには変わりない。
ましてやSWAT隊員は黒を基調とした服に分厚いSWATベストや銃器類などの装備で暑苦しい格好である。
大きな事件対応が終わり、本署内から外に出てきた伊藤ぺいんも例に漏れず、強い日差しとこの暑さに文句をを言っていた。ぺいんの格好は他のSWAT隊員と同じように黒の長袖、長ズボンにSWATベスト。その上、ハイネックの黒のインナーとトレードマークでもある仮面をつけていてほぼ素肌が見えない。
ぺいんと同じように対応が終わり表に出てきた猪原ローズは暑苦しいとも言えるぺいんの格好をみて率直な感想を言った。
「ぺいんちゃん、その格好暑苦しくないの?」
「あれ?ローズは服、替えたの?」
「そうよ」
見ればローズはSWATベストを着ているものの、上衣は半袖で髪の毛を縛りすっきりした髪型になっていた。
そこにボイラも会話に加わってきた。
「ローズは衣替えしたのに、ぺいんの格好は暑苦しいな」
「うーん。マスク取りたくないし、胸元が開いている服は嫌いなんですよね」
「せめて髪の毛を結んだらどうだ?お前の長さぐらいならできるだろ」
「………なんでボイラさんが知ってるんすか。ボウズなのに」
そんな話をしているとローズが予備の髪ゴムをぺいんに渡した。ぺいんはそのゴムで少し長めの髪を後ろで縛る。
「大分すっきりしたじゃないか」
「ナカバさんの髪型と似ているわね」
ついでにインナーを少し首周りが緩く薄手の服にして袖をまくる。手袋はしたままだが前腕があらわになり、髪を結んだことでうなじが見え、首回りがすっきりした。
「あら。大分涼しくなったんじゃない?」
「少しかなぁ。これ以上は脱げないし」
少しだけ髪型と服装を変えたぺいんとそれを見ていたローズの元にえびすとよわきもやってきた。
「おご先(ぺいん)、なんか腕がエロい」
「えびす、なんで?」
「この方はぺい先(ぺいん)ですか?」
そう言われたぺいんは髪をとめていたゴムをほどく。
「ああ、ぺい先ですね」
「髪型変えただけで認識できなくなるのかな?よわきは」
徐々に警官が服装を変えたぺいんを見に集まってきた。ぺいんの背後のドアから出てきたミンドリーも例に漏れず声をかける。
「ぺいん君、髪型変えたの?」
「んー。結べるらしい」
ぺいんより少し背の高いミンドリーが見下ろすといつもは髪の毛に隠れていたうなじや首元がよく見えた。
「………。涼しそうでいいね」
「そうなんだけど、首元がスースーするの慣れないから大型の時だけ結ぼうかな」
「んー。いいんじゃない?」
そういうとぺいんは再び髪ゴムをほどき、いつもの髪型にした。
「半袖にしただけでも大分ましだわ」
「擦り傷とか気をつけてね」
「そういうお前もノースリーブじゃん」
ケラケラと笑いながら服装の話が続く。署員たちの頭上では太陽が光り輝いていた。
「なんでお前はいつも僕の背後に立つの?怖いからね」
ある日の大型事件の対応終わり。署内で立ち話をしていたぺいんの背後にはミンドリーがいた。ぺいんが衣替えをした後ぐらいから、このようにぺいんの背後に立つミンドリーを見かけることが増えた。
「えー。だってドアから出たら目の前にぺいん君がいるんだもん」
「『もん』ってかわいく言うなって」
ぺいんはブツブツ言いながらも縛っていた髪ゴムをほどく。大型対応時には髪を結び、終わるとほどく。ここ最近のルーティンになっていた。髪ゴムが無いときはさぶ郎にもらっているらしく、たまにかわいらしい猫や兎が付いたゴムを使っていることもある。
「ミンドリー。さっきのパシだけどさ………」
「ああ、それはね………」
ミンドリーはいつもの髪型に戻ったぺいんを見て隣に並び、先ほどの事件のフィードバックを聞く。これもいつものことだった。
二人がフィードバックをしていると署員たちも集まってきた。その様子を夏の太陽も見守っていた。
気温が上がり暑くなる日が増えた頃、同期のぺいん君が衣替えをしていた。仮面とSWATベストはそのままだが、上衣は半袖で少しゆるめの服に代わり、髪を後ろで結んでいた。
「ぺいん君、髪型変えたの?」
「んー。結べるらしい」
少しだけ背の高い自分が見下ろすと、いつも隠れていた首回りがよく見えた。珍しいとまじまじと見ていると、うなじの下の方に傷のような跡が見えた。
─── あの傷は何だ。
これまでの付き合いでぺいん君が首回りに大きな怪我を負ったことは無かったはずだから昔の傷跡のはずだ。気にしている様子も無かったと思うから、後遺症もないのだろう。
改めてうなじの下の方をのぞくと、広い範囲で無数のひっかき傷のような跡と黒ずんでいる部分が見えた。このような傷跡は見覚えがある。
─── 入れ墨を消した?
いや、ぺいん君は入れ墨を入れない。自ら進んで傷を付けることを嫌がっていた。ピアスですら「痛そう」と言っていた。では、誰が付けたのか。
そういえば一度だけ聞いた過去の話を聞いたことがあった。研究所にいたとかなんとか。ではそのときのモノなのか。
推測に没頭していると「ミンドリー?」と当人から声をかけられた。
「………。涼しそうでいいね」
「そうなんだけど、首元がスースーするの慣れないから大型の時だけ結ぼうかな」
「んー。いいんじゃない?」
本人が気にしていないことを延々と考えても仕方が無い。
とはいえ見られて要らぬ憶測をされても困るだろうから、他の者に見られないようにしておこう。
─── 気にならない訳ではないし、傷つけた原因があれば許せないけどね。
コメント
1件
お疲れ様です!第8話、読み終わりました。 「衣替え」というタイトルから、季節感と同時に「見え方が変わる」ことへの伏線が効いててすごく好きです。ぺいんのうなじにあった傷跡をミンドリーが見つけてしまうシーン、あそこは読んでて息を呑みました。「涼しそうでいいね」という台詞の裏に、推測と警戒が走るミンドリーの心情がにじんでいて、すごくゾクゾクしました。 最後の「許せないけどね」の一文が静かな怒りと責任感を含んでいて、キャラの関係がまた一段深まった気がします。続きが気になります!
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