本編の前に attention
このお話には、キャラクターの「ツイステッド化」に伴う不気味な描写や多少のホラー要素が含まれています。
ただし、過度にグロテスクな表現や過激な暴力描写はございません。
大丈夫な方はそのままどうぞ。
あの日、私達はケンカをしました。
そのせいで私の友達は。
「…Vee、?」
私がそう彼女に呼び掛けても反応はありません。壁にもたれかかってグッタリとしているだけです。それを見て私は混乱してしまいました。頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか。誰かに助けを求めるべきなのに、足が全く動かないのです。そうこうしている内に背中の方から聞き馴染みのある2人の声と足音が聞こえました。
「…それで、その後…あれ、Shelly?一体そこで何を……」
「…ねぇ、壁にもたれかかっているのは…?」
それはDandyとAstroの声でした。たまたまどこかで遭遇し話しながら歩いてきたのでしょう、楽しそうに話していた彼らの視線は私の方へと向けられました。そして私と彼女の姿を確認すると急いでこちらへと走り出してきました。そしてDandyが彼女の側にしゃがみこんで容態を確認しました。
「…! 意識がない、すぐに皆の所へ行かないと!!」
と急いで彼女を持ち上げようとするのをAstroが引き止めた。
「待って…下手に動かしてVeeに負担をかけてしまったら更に悪化してしまうかもしれない…」
「だからといってそのままにするのも危険だよ…」
「うーん…分かった、Shellyと僕はここにいるからDandyは皆の元へ行って知らせて。」
「…分かった。すぐに知らせてくるから!!」
その間、私はまるで体が石になってしまったかのように全く動けなくて、皆が集まって彼女を医療室に運ぶその時までそれを見つめるしか出来なかったのです。
「…色々見てみたけど、強く頭を打ったせいで意識が無くなっただけじゃないかな。暫くすれば意識も戻るはず。包帯も巻いておいたからね!」
ベットに横たわるVeeを見た後、sproutがこちらを振り向いてそう言った。それを聞いた瞬間、辺りの空気が軽くなった。私もそれを聞いて安堵のため息を吐いた。
「はあ〜よかった…このまま意識が戻らなかったらどうしようかと……」
「取り敢えず無事でよかった!!」
「Veeがそんな簡単に壊れる訳無いもんねぇ」
もうすっかり明るいムードとなったその場で私も喜ぶべきだったのに、心のどこかでVeeは皆から好かれていて羨ましくて、もし私がそのような状態になっても皆は心配してくれるのか…と考えてしまうのです。ぼんやりとしていると
「ん…痛ッ…い……」
と、小さな声が聞こえ、急いで振り返ると包帯の巻かれた所を軽くさすりながら上半身を起こした彼女がいました。
「Vee!!」
私は本能的に彼女の名を呼びました。彼女の目がこちらを見ている事にとても安心しました。暫く私を見つめると、彼女は口を開きました。しかし、それは私の期待していた言葉とは違いました。
「……誰?」
「……つまり、ある事で2人は喧嘩になり、Shellyは思わずVeeを押してしまった。その時
壁に頭を勢いよく打った衝撃でこうなった、という事だね?」
「…うん。」
「なるほど…それで、Veeはその事を覚えてる?」
「…覚えていない、というかそもそもShelly…だったっけ、彼女の事も全く。」
「そうか…これは記憶喪失…いや、Veeの場合、データの損傷とも言うのか…?」
1つのテーブルに3つの椅子。Sproutは2人の話を聞き、考えるように腕を組んだ。
「記憶喪失かデータの損傷…どっちだろう…って話は置いといて、少し気になる点があるんだ。Vee、他の皆の名前と顔は思い出せる?」
「もちろん。」
veeはそう言って皆の名前を順番に述べる。
「うーん、Shelly以外は覚えているね。なんでShellyだけ覚えていないんだろう…」
眉をひそめ、考え込んだ。普通、記憶喪失ならばShelly以外の人も忘れてしまう筈だ。しかし、Veeの話を聞くとShellyの事は思い出せないが他の皆は覚えているらしい。
「……ごめん、Sprout. 私そろそろやる事があるから。」
「え、ああ…うん。」
そう言ってShellyは椅子から立ち上がり、部屋の方へと歩いていってしまった。歩いていく彼女の表情は暗くて重く、背中はどこか寂しそうだった。残されたのはVeeと自分のみ。Shellyの姿が壁に隠れて見えなくなるまで見つめた後、Veeに視線を移す。こうして見ると、あまり様子は変わっていない様に思える。…Shellyを忘れてしまっている事以外。このままずっとこうしている訳にもいかない、そう思って口を開いた。
「…よし!今日はここまでにしよう、Veeは一応怪我人だし無理させる訳にも行かないからね。さあ、もう部屋に戻って休んで!!」
「…… I got it .」
時計を見ればもう10時を優に越していた。
部屋に戻ろうと自身も椅子から立ち上がり、軽くVeeに手を振って部屋に向かい出す。Veeはバツの悪そうな表情で腕を組み、手は振り返さなかったがしっぽのように自由に動くマイクのコードを小さく振った。
……目を覚ますと見慣れた天井が視界に入る。数秒間天井を見つめた後、上半身を起こした。そして自身の手に視界を移し、その手をグーパーと閉じたり開いたりを繰り返す。……異常はない。ワタシが壁に頭をぶつけて意識を失った(らしい)のは昨日。そのあとちゃんと意識も取り戻したし、体にも特に別状は無かった。しかし、どうもワタシは何故かとある貝殻頭の少女の名前だけでなく彼女に関する事全てを忘れ去ってしまっているようだ。ワタシが〝誰?〟と問いかけた時。彼女は絶望に打ちひしがれている表情になっていた。…彼女に悪い事をしてしまった。彼女と一緒に居ればワタシの記憶も徐々に戻るだろうか。謝る事も兼ねて彼女を探しに行こう、と考えベットから起き上がった。その時、頭がズキリと痛んだ。痛む所を手で触れると包帯の感触。ああ、視界の半分が暗くて見えなかったのはこの包帯のせい、ワタシとした事が…すっかり忘れていた。
…取り敢えず、今はとにかく彼女の元へ行こう。
「ねえ、Shellyが今何処に居るか知っているかい?」
「えっ?うーん…私は見ていないけれど?」
「あ、ねえ。Shellyが今何処にいるか知っているかい?」
「Shelly?確かエレベーターの方に…」
「ねえ、Shellyはこのエレベーターに乗った?」
「ん?ああ、乗っていたよ!!下に降りていった気がする!!」
「浮かない顔をしていたけれど…何かあったのかな。」
何人かに彼女の場所を聞いたお陰で漸く彼女が今何処にいるのかが分かった。ワタシは〝エレベーターで下に降りた〟という話を聞いて下に降りてみる事にした。エレベーターのボタンを押すと、扉が開いたので中に入り下に降りるボタンを押す。エレベーターの扉がゆっくりと閉まる、ガタン、と音を鳴らして。そのまま、エレベーターが動く感覚がした。少し体がふわっとする感覚。ワタシはこれがあまり好きではない。暫くすればエレベーターは音を鳴らして動きを止めた。扉が開くのと同時にワタシはエレベーターから降りる。周りを見てみるが彼女の姿は無い。此処には居ないのだろうか。いや、奥にいるかもしれない。妙に静かなそのFloorを小さな足音を鳴らしながら歩き出した。
「shelly?いたら返事をして!!」
そのFloorを歩き続けるが、shellyの姿も声すらも聞こえない。
「……shelly?」
奥の影がわずかに揺れた。足音はしない。だが、湿った液体が床に滴り落ちる音がやけに耳に響いた。
ワタシは呼吸を整えながら、その影へと近づいた。
「……shelly? ワタシだよ、Veeさ。答えてくれないか?」
次の瞬間、暗闇の中から姿を現したのは
……ワタシの知っている彼女ではなかった。
「……ッ!!」
ベージュ色の貝殻を頭に抱え、そこから滴り落ちる黒い液。赤く濁った強膜に、瞳孔は血のように赤い針のような光を放っている。
黒い液が肩から腕にかけて流れ、桃色の頬ににじんでまだら模様を作っている。スカートの裾は溶けたように染まり、胸郭は剥き出しで鋭い骨の先端が不気味に光を反射していた。
「…………」
骨の尻尾が床を叩き、金属的な響きが広がった。
その瞬間、shelly……いや、ツイステッドとなった彼女が、狂気じみた速さでワタシへと迫ってきた。
「ッ!?」
避ける暇もなく、腕をかすめる風圧が肌を裂くように痛んだ。
ワタシは咄嗟に近くにあったパイプを掴み、それを盾のように構えた。
ギィン、と骨の尻尾がそれを叩き折る。
「shelly!! 聞こえるか?ワタシだ!! ……思い出せないのが悔しいけど……」
必死に声を張り上げる。けれど、彼女の赤い瞳には理性の光はない。
ただ追い詰め、壊そうとする獣のそれだった。
ワタシは走った。決して速くはない足で、必死に床を蹴った。スタミナも持たない。だが、周囲にある物を使い、転がる缶や崩れかけた棚を倒しながら、彼女の動きを阻んでいく。
「くっ……ッ……!!」
荒い息を吐くたびに、頭の包帯がじんと痛む。
その時。
足元に転がる古びたオルゴールに気づいた。
ぶつかった衝撃で、カラン、と蓋が少しだけ開く。
歯車がかすかに回り、小さな旋律が鳴り出した。
……その音を聞いた瞬間、頭の奥で景色が広がる。
「ねぇ、Shelly。その歌……いつも口ずさんでるけど、何の曲なの?」
「え?これ?」
彼女は少し恥ずかしそうに笑いながら、また旋律を口にした。
「……なんでか分からないけど、このメロディを歌ってると落ち着くんだ。」
「落ち着く?」
「うん。嫌なことがあっても、これを歌えば心が少し軽くなるの。だからね、Veeにも覚えてほしいな。」
照れくさそうに笑う彼女の横顔。
あの時の光景が、鮮やかに蘇る。
「……Shelly……!!」
気づけば、ワタシはオルゴールを胸に抱きしめていた。
「思い出したよ……!! あの旋律も、笑顔も……全部だ!!」
咆哮を上げるShellyの動きが一瞬止まる。
赤い瞳が揺れ、理性を取り戻そうとするかのように震えた。
震える声で、veeはその旋律を口ずさむ。
最初は掠れていた声も、必死に想いを込めるうちに音が繋がっていく。
「……っ……」
Shellyが、膝をつき、赤い瞳に涙を浮かべた。
黒い液がじわじわと消えていき、骨の尻尾も溶けるように崩れていく。
やがてその場に残ったのは、震えながら立ち尽くす、元のshellyの姿だった。
「Vee……」
弱々しい声。
ワタシは彼女に駆け寄り、その手を握った。
「shelly……ごめん。思い出すのが遅すぎた。でも、もう二度と忘れない。」
「……わ、私の方こそ……突き飛ばして、ごめん……」
二人はお互いに顔を見合わせ、涙交じりに笑った。
その瞬間、重苦しい空気が溶けていく。
仲直り。
忘れてしまっていた大切な絆を、今度こそ強く抱きしめながら。
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