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テレビのなかのこいつを俺は知らない
知っているのは名前だけ
記者 桃さん、今のお気持ちをお聞かせください。
桃 これは私1人の力ではありません。
支えてくださった方のおかげです。
そんな言葉を平然と口にする
——けれど。
こいつがこの瞳にいつも映すものを俺は知っている。
桃 何見てんの…
不意に背後から声がして 、勢いよく振り返る
そこには テレビとは違う”俺だけが知る桃”がいた。
桃 恥ずかしいからやめてよ
誇らしさの滲む瞳のなかに、確かに俺がいる。
俺はこの天才と呼ばれる小説家のアシスタントをしている。
この天才の裏側を俺は知っている。
いや——
俺だけが知っている。
青 いや、普段とあまりに違うから違う人かと 思ったわ。
現に今だって筆が進まないとかなんとか言って呑気に俺と喋っている
青 原稿大丈夫なんか?
締め切り近いけど。
桃 いやーなかなか進まなくて…
桃が書くジャンルは幅が広い。
恋愛からミステリーまで書く彼だが、人気になった理由はジャンルの広さではない。
彼が人気な理由、天才と呼ばれる理由。
それは、写実的な描写だ。
それは読者が世界観に引きずり込まれるほどである。
青 今回はどんなの書くん?
桃 んー、やっぱり恋愛ものかな。
青 今回は恋愛系の小説で賞取ったんやっ
け。
桃 そうそう。
でも方向性は変えたいんだよねー。
同じようなの書いてたら飽きられちゃう
し。
青 小説家って大変やな。
俺には出来んわ。
桃 青は俺のこと手伝ってくれてたらいい
の。
青 …
桃 てことで、よろしくね?
その顔はいつもの呑気な顔でもテレビに出る真面目な顔でもない、何かを企んだ笑みをしていた。
何時間経っただろうか。
寒い。
重い。
さっきまでは暖かい部屋でテレビを観ていたはずなのに。
今は極寒の窓もない暗い部屋に閉じ込められている。
動くたびに音の鳴る重い足枷。
動きを封じる手錠。
独占欲を模倣した首輪。
これは俗に言う”監禁”とやらだろう。
それなのに俺がここまで冷静でいられるのには理由がある。
桃 どんな感じ、青。
いつもより冷たい声と目で話してくる桃。
俺は今桃に監禁をされているのだ。
青 寒い。
この枷重い。
桃 ふーん。
なんて素っ気ない態度の中、紙に文字を綴る手を止めることはない。
桃 今回は恋愛もの書くから。
愛を拗らせて監禁する恋人の話。
今回もよろしくね。
“アシスタントさん”
そう、俺はあくまでも小説を書くための人形に過ぎない。
正直ここまでさせるのもどうかと思うが。
こうでもしなければあの写実的な表現をすることはできないらしい。
桃 …
俺のことを見て必死に筆を走らせる彼の横顔はいつ見ても綺麗で。
彼の沼に俺もいつしか引きずり込まれていた。
きっと小説の世界観を創る彼自身はとんだ泥沼で。
俺はもう抜け出せないだろう。
桃の小説ヘの想いは凄まじいもので。
アシスタントの俺へ振る仕事は見境がなかった。
青 ~~~ッぁ”♡♡
んッッ、ぅあっ♡♡///
はぁ、はあ…ッ” ♡♡
桃 ~~~♡
んふッ♡いっぱい出てるね♡
俺のことも気持ち良くしてッ?♡
なんて言う桃はなんとも官能的で。
そのまま俺の首に噛み付いてくる彼はなんとも言えない妖しい雰囲気を纏っていて。
彼が付ける痕が増えていくと同時に俺は彼の雰囲気に飲み込まれていった。
桃に恋愛感情がないことなんて分かってた。
それでも、どうしてもこの色欲にまみれた桃はあまりにも目に毒で。
せめてこの時くらいは彼を独占したくて。
彼の唇を奪って。
俺を見てほしいと願いながら、彼の腕の中で彼を感じていた。
桃に恋愛感情はない。
性行為も暴力も監禁だって全ては小説のため。
桃が俺を 見る目にはいつも小説の中の人物が重なっている。
桃の目が俺を見ることはない。
分かってる。
それでも溢れ出しそうなこの想いをいつも必死で飲み込む。
頭では分かっている。
ここは危ない。
いつか殺されるかもしれない。
それでも逃げ出せなくて。
いや
逃げ出したくなくて。
あの声が目が俺を引き止める。
あーあ。
俺はもう沼に溺れてしまったんだ。
もう逃げられない。
いつから俺まで
狂ってしまったのだろうな。
いつ間違ってしまったのだろう。
あの日から何度も身体を重ねた。
何度も暴力を受けた。
ボロボロになる身体に反して、心は満たされた気がしていた。
彼のこんな目を見れるのは俺だけという優越感。
それでも満ち足りたわけではない。
やはり心にはぽっかりと穴が空いていて。
愛を流されても満たされることはなかった。
青 いつになったら…俺のことを見てくれる
んかな…。
ため息に混ざった独り言を暗闇に零して。
今日もまた彼の沼に溺れていく。
桃 青がいなかったら、俺は何も書けない。
まぁ、いなくならせる気なんてないけど
これからもよろしくね…”青”♡
コメント
2件
冒頭部分を少し変更いたしました。
初めまして。 零(れい)と申します。 お気軽にコメントお待ちしております。