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大正
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umaimon
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桜咲かな
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コランはその槍の刃先を亜矢に向けた。
「いくぞっ、『死者蘇生』!! ……えいっ!!」
その掛け声と共に、槍の先にエネルギーが光の球となって発生し、放たれた。
だが。
「そんな事したら……ダメだよ!!」
リョウが叫ぶ。その時にはすでに遅かった。
コランの放ったエネルギーは亜矢に届く事なく、その場に留まっている。
発動する事のないそのエネルギーは雷のようなものを纏い、増幅し続け、今にも破裂しそうだった。
「えっ!? な、なんだこれっ……!?」
コランは槍を構えたまま自分の放ったエネルギーを抑えきれなくなり、吹き飛ばされそうになる自分の身体を支えようと必死に両足で踏ん張る。
「コランくんっ!?」
何が起こったのかも分からずに亜矢は叫ぶが、どうする事も出来ない。
「ちぃっ……あのバカがっ!!」
グリアは、その手に死神の鎌を出現させると、素早く構えた。
そして、大きく鎌を振ると、そのエネルギーの球体の中心から斬り裂いた。
「……消えなぁっ!!」
グリアがその腕に力をこめる。そうしているうちに球体はいくつもの光の筋となり、やがて空中へ分散して飛び散っていった。
コランは呆然と正面に視線を向けたままの状態で膝からガクっと力が抜け、床に座りこんだ。
「コランくんっ! 大丈夫!?」
亜矢がコランの元へと駆け寄り、その小さな体を抱く。
コランは瞼を半分閉じ、弱々しく亜矢の顔を見返す。
「失敗……しちゃった……。アヤの願い、叶えられなかった……」
「コランくん……!」
亜矢が目を潤ませていると、背後からグリアの声が響く。
「『魂の器』が禁忌の儀式って知ってんだろ? それに反発しようとする力は全て弾き返される。悪魔のガキにどうこう出来るモンじゃねえよ、バカが」
いつも以上に冷たい言い回しに、亜矢は振り向く事なく顔を伏せた。
「亜矢ちゃんの気持ちは分かるよ。でも、ちょっとそれは無理があったね」
リョウは優しい口調で言うが、どこかその言葉に重みがある。
「なんか……疲れた……。アヤの傍は居心地いい……な……」
コランは力の入らない腕で亜矢の身体にギュっと抱きつくと、小さく微笑んだ。
そしてそのまま、瞳を閉じると小さな呼吸を繰り返す。
「あ、あれ……? コランくん、寝ちゃったわ」
リョウが亜矢の側に寄り、ニッコリと微笑む。
「無理な力を放出したせいで疲れたんだよ。悪魔は、こうやって睡眠しながらすぐ側にいる人間の生命力を吸収して自己回復するんだ」
「そ、そうなの……」
その、小悪魔の無邪気な寝顔を眺めつつも、素直に笑えない亜矢だった。
つまり今、コランは亜矢の生命力を吸収しつつ、眠っているのだ。
特別な心臓を持つ亜矢にはそれに対して何の影響も受けないが、普通の人間ならそれは死に至る行為なのだ。
『亜矢の傍が居心地いい』とコランが言ったのは、人並み以上の生命力を持つ亜矢だったからだろう。
「おい、亜矢。ちょっと来い」
グリアが亜矢の腕を掴み、軽く引張った。
亜矢は顔だけをグリアの方に向け、彼に無言で返す。
思ったよりも真剣味を帯びた彼の瞳。
グリアはどうやら、亜矢と二人で話をしたいらしい。彼の視線からそう悟った。
だが、亜矢は彼女らしくなく瞳をそらし、困惑の表情を浮かべた。
「……でも……」
亜矢は自分の膝元で眠るコランを見つめながら、思った。
自分が無理なお願いをしたせいで、コランはこんな目に合ってしまった。
結局、自分の事しか考えていないのは……自分自身だった。
「大丈夫だよ、亜矢ちゃん」
リョウの穏やかな口調に、亜矢は静かに顔を上げる。
「コランくんをベッドに寝かせておいてあげればいいんだよね? 大丈夫、任せて」
それは、亜矢の心を見抜いているのか、気遣いなのか。
「ありがとう。……お願いするわ」
心の底からそう思い、亜矢はそっとコランの体をリョウに預けた。
そうして、グリアと亜矢は部屋を出て行った。
玄関から外へ出るなり、グリアは亜矢の体を壁に押し付けた。
「ちょ……っ何するのよ! やめてよ、こんな場所で……」
「うるせえよ」
亜矢の肩を押さえ付けるグリアの腕に力が入る。思わず、亜矢は顔を歪める。
有無を言わせないグリアの剣幕。一体、何に憤慨しているのだろうか。
グリアは亜矢の肩を押さえ付けたまま、顔だけを僅かに伏せた。
銀色の髪が垂れ、その表情が微かに埋もれる。
「……ったく、次から次へと……邪魔なヤツばかり現れやがって」
「っ!!」
亜矢の呼吸が一瞬、止まる。
グリアの口調は、まるで独り言のようだった。
やり場のない怒りをぶつける対象もなく、目の前に亜矢を置きながらも、心は全く別の方向を向き、言葉は紡がれる。
「死神……」
初めてだった。死神がこんなに『弱く』見えたのは。
何かに押しつぶされそうになっている姿を見るのは。
いつも自己中心で、自信に溢れていて、何でも思い通りにしてしまう。
そんな、死神が、たった一人の少女の前で———こんな顔を見せるなんて。
「あたし、死神はもっと強い人なんだと思っていたわ」
グリアは、顔を上げない。
「自分勝手だし、何でも自分の思い通りにしちゃうし、だから……」
そんな顔はあなたらしくない、という言葉までは出ない。
本心であったとしても、それをここで言う必要性を感じない。
「……前に言ったよな」
「え?」
「オレ様の力でも、出来ねえ事があるって事だ」
グリアは亜矢の肩から手を下ろし、正面から向き合う。
コメント
1件
いやあ、今回も重かったですね……。コランが「死者蘇生」を試みた場面、発動しきらずに暴走するエネルギー描写がすごく生々しくて、思わず息を止めて読みました。特に印象的だったのは、グリアが「死神」としての強さをかなぐり捨てて亜矢に本音を漏らすシーン。あの「出来ねえ事がある」って台詞、彼のキャラがようやく崩れかけた瞬間で、ぐっときました。亜矢が「強い人だと思ってた」と呟くのも、読者視点と重なって。今回は設定面だけでなく、キャラクターの内面にぐっと踏み込んだ回でしたね。