テラーノベル
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闇は、何も変わらなかった。
初兎ちゃんが消えても、
世界は壊れない。
崩れもしない。
それが、
何よりおかしかった。
(いむくん視点)
「……初兎ちゃん?」
返事がないことを、
分かっていて呼ぶ。
それでも、
呼ばずには居られなかった。
闇は、
僕の声を吸い込むだけで、
何も返さない。
⸻
歩き出そうとして、
足が止まる。
――どっちに行けばいい?
前も後ろも、
違いがない。
ここは、
二人で選んだ場所だった。
一人で立つことを、
想定していなかった。
⸻
「置いていかないって、
言ったよね」
誰に向けた言葉か、
もう分からない。
初兎ちゃんか、
過去の自分か、
それとも――
もういない“二人”か。
闇は、
何も答えない。
⸻
時間が、
壊れていく。
長くいた気もするし、
一瞬だった気もする。
ただ一つ確かなのは、
名前を呼ぶ回数だけが増えていくこと。
「初兎ちゃん」
「初兎ちゃん」
「……初兎ちゃん」
声が、
少しずつ擦れていく。
⸻
ふと、
後ろに気配を感じる。
振り返る。
――いる。
そう思った瞬間、
胸が跳ねる。
「……っ」
でも、
そこには何もない。
期待して、
裏切られる。
その繰り返しで、
心が摩耗していく。
⸻
「僕が、
来なければよかった?」
答えは、
出ない。
初兎ちゃんは、
否定してくれただろう。
でも、
もういない。
否定されない後悔は、
正解みたいに
胸に居座る。
⸻
座り込む。
立っている意味が、
分からなくなった。
闇は、
冷たい床を用意してくれる。
優しさじゃない。
ただの、
無関心。
それでも、
拒まれないことが
救いに思えてしまう。
⸻
「……ねえ」
独り言が、
増える。
「ここにいるの、
僕だけでいいの?」
答えは、
やっぱりない。
でも、
闇は薄く揺れた。
それだけで、
“聞いてもらえた気”になってしまう自分が、
怖かった。
⸻
初兎ちゃんの言葉を、
思い出す。
君は、闇に居場所を見つけた
その意味が、
今になって分かる。
闇は、
僕を追い出さない。
どれだけ壊れても、
どれだけ呼び続けても。
――だから、
出られない。
⸻
「……ここにいるよ」
誰に向けた宣言かも、
分からない。
「君が消えた場所で、
僕は生きる」
それは、
罰でもあり、
祈りでもあった。
⸻
闇は、
今日も静かだ。
優しくない。
慰めない。
救わない。
ただ――
初兎ちゃんのいない世界を、
続けている。
そして僕は、
今日も名前を呼ぶ。
返事がないと、
分かっていながら。
「……初兎ちゃん」
物語は、
ここで終わるべきだった。
でも、
終われなかった。
ありえない再会が
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