食事会が終わったあとは、メイドさんたちと一緒にお客様を玄関でお見送り。
まずは、ダグラスさんとテレーゼさんが帰っていった。
何となくテレーゼさんが泊まりたがっていたけど、ダグラスさんが上手くなだめて、ようやく帰ってくれた感じだ。
「次は、昼に来ますので……っ!」
テレーゼさんは最後にそう言い残していったから、そのうち昼食に呼んでも良いかもしれない。
お屋敷をじっくり見たがっていたし、テレーゼさんのお休みの日にでも招待することにしよう。
次に帰っていったのは、ジェラードだった。
明日は朝からグランベル公爵のところに行って、私が会うための調整をしてくれるらしい。
調整が済み次第、日程を教えにまた来てくれるとのことだ。
そして、最後に残ったのはレオノーラさん。
「――レオノーラ様は、お泊りなんですか?」
「いえ? 帰るわよ?」
「えー……。残念です……」
「でも、こんな遅くに危なくありませんか?」
時間はすでに、22時頃。
若い女の子、それに王族。そんな人が外を出歩いて良い時間ではないのだが――
「もちろん、従者を連れてきているからね?
他のみなさんも帰ったことだし、そろそろアイナさんの使用人が気を利かせてくれるんじゃないかしら」
そんな話をしていると、クラリスさんが外から、見知らぬ男性を連れてきた。
身なりの良い……いかにも執事、といった出で立ちだ。
なるほど。他の参加者には王族だということを隠していたから、誰もいなくなるまで残っていたのね。
「レオノーラ様、お待たせいたしました。
馬車の準備ができましたので、こちらに」
「ご苦労様。
それではアイナさん、今日は楽しかったわ。今度は私の部屋にも遊びに来てね。
もちろん、エミリア様も一緒にね」
「はい、そのときはよろしくお願いします! 今日はありがとうございました」
「こちらこそ。それでは、ご機嫌よう」
レオノーラさんは執事風の使用人に付き添われて、堂々とお屋敷から出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ふぅ、お疲れ様でした。あー、緊張した~……」
「このお屋敷で、初めてのイベントでしたもんね!
ふふふ、わたしも楽しかったです♪」
「それは良かったです!
私もいろいろもらっちゃったし、本当に嬉しいなぁ」
「みんなそれぞれ、その人らしさが出た贈り物でしたよね」
「確かに……!
……さてと。それじゃ、みんなもお疲れ様でした!」
玄関に並んだメイドさんたちを|労《ねぎら》うと、それぞれが静かにお辞儀をしてくれた。
……あれ? 何だかいつもより堅い?
みんなも緊張していたのかな。
「それでは私どもは、これから後片付けがありますので――」
「あ、そっか。
でももう遅いし、もし良ければ明日の朝食は少し遅くする?」
「いえ、そこまでお気遣い頂かなくても……」
「んー、そうですね。
アイナさん、わたしもお腹いっぱいですし、朝食は入らないかもしれません!」
「えー。エミリアさん、食べ過ぎじゃないですか?
それじゃ私もゆっくり寝たいので、明日の朝食は無しでお願いね」
「そ、そうですか……?
分かりました、お気遣いありがとうございます」
クラリスさんは少し、申し訳なさそうに言った。
まぁまぁ、うちのお屋敷はそんな感じで大丈夫だから。
「いえいえ、ゆっくり休んでね。
……えっと、それと警備メンバーにもお礼を言っておかないと」
実は今日、警備メンバーは総動員の5人で警備をしてもらっていたのだ。
レオノーラさんもいたから、念には念を入れて……と言うのかな。
「そういうことでしたら、ディアドラさんを呼んで参りますか?」
「そうだね。ついでに軽く、お茶でもしない? 慰労会というか、そんな感じの。
レオノーラさんにもらったデザートっていうのも食べてみたいし」
「あ、それならわたしも食べたいです!」
「ふふふ。エミリアさんのお腹には、まだ入るんですか?」
少し悪戯っぽく言うクラリスさん。
エミリアさんはさっき、『わたしもお腹いっぱい』って言っちゃっていたからね。
「そ、それはもう! 甘いものは別腹だから大丈夫ですっ!」
……まぁ、言い訳としてはそうなるよね……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでは改めまして、お疲れ様でした!
はい、ここからは無礼講で!!」
食堂に集まったのは私とエミリアさん、メイドさんが5人、警備メンバーからはディアドラさんが1人。
テーブルに着いて、レオノーラさんが持ってきたデザートとお茶を囲む。
デザートというのはアップルパイだった。甘さが控えめで、とても美味しい。
ルーシーさんが作ったケーキとはまた違う感じのものだから、飽きも無くすんなりお腹に入ってくれた。
「ケーキといえば、ルーシーさんのケーキは美味しかったね。
いや、今日のお料理は全部美味しかったけど」
「ありがとうございます。最近はあまり作っていなかったので、少し緊張してしまいました」
「久し振りに作って、あのクオリティなんだ? 凄いなぁ……」
正直、普通にお店を開けるレベルはあると思う。
ぶっちゃけて言えばメイドとして働くよりも稼げそうだけど……まぁ、そんなに簡単なものでもないか。
「――クラリスさんはしっかり統括してくれていたし、キャスリーンさんはテレーゼさんがべた褒めだったし……」
「アイナ様。今回はマーガレットさんも活躍したんですよ。
料理に必要な食材を吟味してくれて、たくさん買ってきてくれたんです」
「え? あ、いえいえ!
そんなに大したことではないですよっ!?」
そういえばマーガレットさんは、八百屋さんとか肉屋さんとかと懇意にしているんだっけ。
「……って、あれ? マーガレットさん、今日は普通に接客してたよね?
てっきりテンパるかと思っていたんだけど……」
マーガレットさんは、接客が苦手なメイドさん。
慌てやすいというか、いっぱいいっぱいになるというか。
「実は食事会のお話を伺ってから、毎晩イメージトレーニングをしたんです……。
その成果が出たということで、今日はゆっくり眠ることができそうです……!」
「あ、あー……。うん、ゆっくり休んでね……」
短期集中型、長期は不向き……っていう感じか。
無理するくらいなら、裏方に徹してくれても良かったんだけど……。
「ミュリエルさんはどうだった?」
「今日のお料理は素晴らしかったです……!
しっかりと、味付けと盛り付けは頭の中に叩き込みました!」
「うん。頑張りは知ってるから、これからもよろしくね」
「はい!」
ミュリエルさんもいつの日か、レアスキル『工程ランダム補正<調理>』を克服して、料理上手になるのだろうか。
先日の事件のことは吹っ切ったようにも見えるから、今後も頑張って欲しいかな。
「ディアドラさんもお疲れ様。
今いない警備メンバーには、ディアドラさんの方から伝えておいてもらえる?」
「はい、かしこまりました。アップルパイと一緒に、伝えておきますね」
「うん、よろしく。
ところで警備中、何か変わったことは無かった?」
「そうですね、特には何も。
王族様の付き人……執事風の方でしたが、その方に警備を手伝って頂いたので助かりました」
「あ、そうなんだ。あとでお礼を言っておかないと」
ディアドラさんの話を聞く限り、本当に問題は無かったようだ。
うち以外の使用人と上手く連携ができたっていうのも、これは良いことだよね。
それにしてもこういうイベントを開催すると、みんな何かしらの経験になるものだね。
今後たくさんこなしていったら、みんなの練度ももっと上がっていきそうだ。
それって何だか、お屋敷全体が育っているというか、何だか不思議な感じ。
みんなのスキルが上がっていくのなら、みんなのお給金も上げたくなってしまう。
そのためには私が、もっと稼がないといけないか。
でもそんなことを繰り返し続けたら、きっと良い循環が生まれそうだよね。
うーん。お屋敷の運営、ちょっと楽しくなってきたかも!
周りを見渡せば、みんなが思い思いに会話を楽しんでいる。
このお屋敷は、みんなにとって良い職場になっているのかな?
そうなってくれているなら良いんだけど――
「……ふわぁ」
一通りの人と喋り終えたせいか、一気に疲れが出てきてしまった。
「アイナ様、そろそろお休みになられますか?」
「んー……。そうだね、それじゃこの辺で……」
「それではわたしも失礼しますね。
アイナさんのことはしっかり部屋までお届けしますので、みなさんはこのままごゆっくり」
むむ? それではエミリアさん、よろしくお願いしまーす。
せっかくだし、ここはもう甘えてしまおう。よっこらしょっと。
「ちょ、アイナさん! もう少し自分で立ってくださいよー!?」
「……ふふふ♪」
ちょっと甘えすぎだけど、たまにはこんなのも良いよね。
このお屋敷は、良い人たちが集まっていて、本当に良い場所だな~……。
……はぁ。むにゃむにゃ。
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