テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
< rdside >
pn「らっだぁ早く〜〜!!」
rd「待ってってば 笑ヾ」
空は淡い水色で、風は少し温んでいた。
木の葉が日に透けて、影がまだらに道に落ちている。
気づけばもう桜は跡形もなくて、代わりに5月を感じさせる若葉がきらきら揺れていた。
rd「なんか懐かしいね」
歩きながらふと口にすると、彼女は小さく笑った。
あの木の机の匂いも、外の雨の音も、今は遠いのに。
思い出すだけで胸の奥が少し温かくなる。
pn「あ、見えてきた!!」
彼女が繋いである方の手で指を指した。その方向には懐かしい木造の大きな建物があった。
半年ぶりにみるその建物からは、俺達が出会った頃の思い出が染み込んでいた。
rd「まじで懐かしい」
pn「早く入ろ!!」
彼女に引っ張られ小走りで向かい入口まであっという間に着いた。
中に通じる扉が開くと同時に懐かしい妙に洒落た音がなりその一瞬にも感動した。
中は何も変わっていなくてまるであの頃に戻ったような感覚だった。
pn「とりあえずカフェ行く? 笑ヾ」
ぺいんとに連れられ俺らが毎日通っていたカフェに行く。
偶然にも久しぶりに見る店員さんの顔があって軽くそこで立ち話をした。
今日はぺいんとのおすすめではなく店員さんのおふすめ。
pn「俺ら出会った頃は雨だったよね」
rd「うん、もう1年かぁ …」
pn「色々あったね〜」
そんなことを話していると空はいつの間にか灰色に覆われていて窓から見える葉には点々と水滴が落ちる。 今年も長い雨が始まった。
rd「雨降ってきたね」
pn「え!! 俺ら傘なくない?!」
rd「俺折り畳み1本あるよ」
pn「じゃあ大丈夫か!!」
昼食を済ませた俺達はいつも勉強していたあの席へ向かう。
やっぱりそこには誰もいなかった。俺は2人の空間が好きだからそれでよかったと思っている。
pn「俺らの出会い方ってすごいよね」
rd「ね、まさに運命じゃない?」
pn「何言ってんの 笑ヾ」
2人で出会った頃からの思い出話をした。
何時間も。
2人でここで寝た話、ぺいんとが俺に片思いしてた頃の話、一緒に見に行った紅葉の話。
そして俺がぺいんとにあげたペンダントの話。
pn「このペンダントのこともさ、俺ほんとは…」
rd「ん?」
pn「いや、やっぱいいや 笑ヾ」
そう言って、彼女は胸元の小さな銀色をそっと握った。
何も言わなくても、その仕草だけで全部伝わる気がした。
rd「そんなに大事?」
pn「…ん、まあね」
言葉は軽いのに、その指先は離そうとしなかった。
俺はただ笑って見ていたけれど、胸の奥では別の感情が渦巻いていた。
あの日、彼女が意識を失ったときのこと。
冷たい手を握ったまま、二度と戻ってこないんじゃないかって思った恐怖。
医者の口から告げられた現実。
全部まだ鮮明で、忘れられるわけがない。
だからこそ今、隣で笑っている彼女が夢みたいで。
半分は嬉しくて、半分は怖くて。
目の前の幸せを掴んでいるはずなのに、いつかまた失うんじゃないかと怯えていた。
俺は、笑顔の裏でずっとその恐怖を隠している。
それでも彼女はきっと気づいているんだろう。
気づいて、何も言わずにこうして笑ってくれているんだろう。
その笑い方はあの日と変わらないのに、胸の奥が少しざわついた。
目の前にいるのに、遠くへ行ってしまいそうな錯覚が消えない。
一度失いかけた記憶がまだ生々しく残っているからだ。
俺はカップの中で揺れる珈琲を見つめながら、息を殺す。
ほんとはまた怖いんだ、なんて言えるはずがない。
せっかく笑ってる彼女にそんな不安を押し付けたくない。
だから俺は黙って、ただその横顔を焼きつけていた。
pn「…ねえ」
不意に呼ばれて顔を上げる。
彼女は窓の外を見ながら、小さく呟いた。
pn「俺さ、今すごく幸せだよ」
何気ない声なのに、胸の奥の棘がすっと消えていく。
その言葉は俺の弱さを全部見透かして、まるごと包んでくれるみたいだった。
rd「…俺も」
気づけば答えていて、気づけば心から笑えていた。
彼女の手を握ると、握り返してくれる温かさがそこにあった。
それだけで十分だった。
未来を怖がるより、今を抱きしめた方がずっと強くなれる。
窓の外では雨脚が強まっているのに、ここだけは静かだった。
本のページをめくる音、かすかな珈琲の匂い、隣にいる体温。
全部が重なって、あの頃よりも少し大人びた空気をまとっていた。
rd「また来ようね」
pn「うん 今度は半年なんて待たないでさ」
俺達は顔を見合わせて笑った。
灰色の空から漏れる光が窓辺を淡く照らし、時間を止めるみたいに静かだった。
外に出る頃には雨がやや弱まり、濡れた石畳が夕陽に照らされていた。
最初に出会ったあの日と同じような景色。
けれど今はもう、俺の隣にいるのはかけがえのない彼女だった。
pn「これからもずっとそばにいてね」
rd「もちろん。大好きだよ」
「 愛のペンダント 」
本作をご愛読くださりありがとうございました。
命の儚さ、自然の美しさ、愛のあたたかさを題材にした本作が皆さんの心に響いていれば嬉しいです。
これにて「愛のペンダント」は完結となります。
本作にありがとうございました。
コメント
3件
れあさんの書く物語は本当に感情移入しながら読めるので所々泣いてました;♡ 人物設定、伏線、ストーリー構成、感情表現などがしっかりしていて、内容がすっと頭に入ってきました😽🎶
本当に感動しました…! ハピエンで良かった!!
最初から最後まで見させていただきました!素敵なお話とそれを表現する素敵な言葉の数々に、思わず泣いてしまいました、これからも応援してます!頑張ってください