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幻妖三位合戦

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幻妖三位合戦

13 - 鬼を嗤う傀儡の巻・後

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2025年03月03日

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(前回からの続きです。今回は多少の人の心とかないんかな描写あるかも)


過去の事を思い出して数日後のこと。

霊巌はいつも笠で隠している角がやたらと疼いているせいか、集中すらできない。

まさか忌まわしい晴憲の言葉が本当になるのかと、不安と怒りが積もっていく。

「うぐ…腹が変だ…」

霊巌は謎の吐き気に襲われるが、それもすぐ収まる。しかし、何故か喉が乾く。酒でも飲めば収まるだろうと思い、一杯呑んでみた。それでも乾きは収まらない。

霊巌は、かつて食った人間の味を覚えてしまっているため、思い出すだけでも吐き気しかしない。そのために、まさか再び人を食う時が訪れるのではないかと不安になっていた。

酷い鉄の味に、何の肉とも言い難い噛みごたえ、消化途中の食い物が残る臓物と、苦い胃液の味。グロテスクで生々しいあの味をまだ味わうのか、と吐き気しかしなくなる。


「儂もいずれ…心も人ではなくなるのか?」

忌々しき晴憲の術も、鬼としての本能を抑えてくれる辺りはまだ良いが、その術も千年経てばどうせ使い物にならなくなる。今ここに自分がいるのも、この術のおかげとしか言い様がない。

ただひたすらに血肉を求める乾きと飢えに耐え、あの二人にバラすのも時間の問題ではある。


─なあ、お前は陰陽師だろ?折角だからおれの村に雨を降らせてくれないか?─


突如、若々しい青年の声が聞こえる。忌々しい晴憲の声ではなかったが、気がつくと彼はそこに居た。その青年は、農民の様に少し襤褸の服を着ていたが、身体は逞しかった。

霊巌はやっとの事で思い出し、その名を呼ぼうとした。

「其方は、塗之助(ぬらのすけ)…か…?」

─なんだよ、忘れちまったか?─

─おれはよくお前の座敷に来てたんだぜ?それも週に三回は。─

その瞬間、霊巌は千年前だろうか、まだ若々しいあの時に戻れた。

「お前は今でも貴族の求婚の真似をしているのか…」

─まぁ、一種の楽しみって感じだし…それに、お前の所で呑む酒は格別だからさ!─

「あぁ…そうだったな…」

「また、呑むか?」

─良いぜ、お前からもらった杯は…今でも大事にしてるからさ。─

あぁ、かつてはこうやって呑めたものだと思い耽り、塗之助の持つ盃に酒を注ごうとした。

だが、一瞬で現実に押し戻される。

次に見えたのは、鬼になって数十年後の景色。目の前に居たのは、まるで乞食のように老いた塗之助だった。しかし、その手には未だに盃が握られているではないか。そして、霊巌は改めて時の残酷さを思い知り、老いた塗之助が力なく倒れ、息を引き取るその姿を見るしかなかった。

だが、屍体となった塗之助は口を開き、霊巌へとある事を告げた。


─”百鬼夜行《パレード》”は、もう直ぐ訪れる─

と。

そのまま屍体は動かなくなり、腐りきって消えていく。

何を言ってるのか、訳が分からなかった。しかし、晴憲が告げたあの言葉がまた響く。

─まぁ、いずれ君は…また、あの時と同じ様に、いや…それ以上になるだろうね─

まさかこの様になるのか。いいや、まさかその策に嵌められたか。

だが、真相は晴憲しか知らぬだろうと思い、やっとの事で現実に戻り、縁側から月を見た。

蒼く輝く月が、まるで過去に囚われた霊巌を嘲笑う様に光が朧気になる。

また、微かに聞こえる笑い声がまた過去に囚われるように頭へ響く。

そして、霊巌は最後に自分へとある問を投げかけた。


─儂は何時になれば、この死なぬ身を捨てて極楽に向かえるのか─

鬼としての本能は、まだ目覚めぬままだというのに。

一方。

一人の流浪人が、霊巌の様子を遠くから見ている。背丈は彼よりも大きく、片目を包帯で隠しているようだが、その背には大太刀が一振り。その流浪人は昔を懐かしむ霊巌の事を見ながらこう嗤う。

「まだ、私とは気づいて居ないみたいだね。」

「いずれ壊滅の運命を辿るというのに。」


─鬼を嗤う傀儡の巻・後 終─


─次・獣が目覚める時の巻─

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