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仁人side
「おーい、勇斗。もうすぐ退院するぞ」
🩷「…知ってる」
「いつまで会わないつもり?」
🩷「俺もわかんねぇ」
病院の屋上から正面玄関を見下ろす同期に声を掛ける。
だけど勇斗からは気のない返事が返ってくるだけだった。
今日は小児科で担当していた急性白血病の男の子が退院する日だ。
途中で肺炎を併発したけど、人工呼吸器を離脱して無事に4クール(地固め)まで化学療法を終えた。
勇斗は入院当初から担当をしていて、ふたりは兄弟のように仲が良かったと看護師から聞いていた。
肺炎を起こしたタイミングで研修期間が終わり俺に担当が変わったんだけど…
勇斗も山中君もお互い気にしてるっぽいのに、不自然なくらい何も言わないし聞いてこなかった。
…だから、こっちが逆に気を遣って疲れた。
「…なんかあったんだろ?そろそろ言えよ」
🩷「面白い話じゃないよ…」
勇斗の隣に立つと遠くに両親と歩く山中君の姿が見えた。
やっぱ気にしてるじゃねーか。
「退院、できてよかったな」
🩷「そうだな」
「…山中君、弱音吐かずに頑張ってたぞ。芯の強い子だな」
🩷「…強くねぇよ。本当は、あいつ泣き虫だし…」
「よく知ってんだな」
🩷「好き…だったから…」
突然の告白に少し戸惑う。
「じゃあなんで会わないんだよ。山中君会いたそうだったぞ…」
🩷「会いたかったさ。けど…俺、どんな顔して会ったらいいか…わかんねぇんだよ」
「…なんで?」
🩷「俺は。あいつが1番助けて欲しかった時に気付いてやれなくて…」
「それ、確か夜中だろ?仕方なくないか?」
🩷「けど…」
苦しそうに勇斗が呟く。
俺は静かに続きの言葉を待った。
🩷「俺は…あの時の選択を今も後悔してる。
呼吸器つけて眠らされてる柔太朗の顔が、ずっと頭から離れないんだ…
仕方ないなんて…思えるわけない」
「…まぁいいけどさ」
俺は勇斗の肩をポンポンと叩いて先に病棟に戻ることにした。
去り際にひとこと同期として餞(はなむけ)の言葉を添える。
「月並みな言葉しか言えないけど…どん底までまだ落ち込んだら前向けよ。
その時は力になるからさ」
って出来事が2年前の話で。
俺は退院後もゲーム仲間として山中君と連絡を取り合っていた。
学校の授業についていくのが大変だとか、サッカー選手は諦めてトレーナーを目指すとか、あとはバレンタインデーにチョコを貰ったとか…
高校生活に戻っていく山中君を応援しつつ、一応勇斗にも近況を伝えていた。
「山中君ってなんか一生懸命で可愛いな」
いつだったかそんなことを言ったことがある。
別にどうこうしようなんて思ってなかったけど。
そしたらあいつなんて言ったと思う?
🩷「軽い気持ちで手を出すな。傷つけたら俺が許さん」
だってさ。
…父親かよ。
だったら…早く言えよ、好きって。
俺の報告に最初は難しそうな顔で聞いていた勇斗だったけど、卒業が近づいてくる頃には柔らかい表情をするようになっていた。
そして
山中君が卒業して家から少し離れた大学へ行くことになったことを教えた日、珍しく勇斗から山中君のことを聞かれた。
🩷「あのさぁ…卒業式っていつだっけ?」
やれやれ…
やっと…力になる日がきたか。
山中君の卒業式の日の翌日。
仕事中に勇斗に呼び出された。
お前がこっちに来いよ…って文句を言おうと思ったけど、あまりに幸せそうな勇斗の顔を見たらどうでもよくなった。
🩷「仁人、ありがとう」
「…上手くいった…って聞くまでもないか」
🩷「うん…まぁ……」
おーおー嬉しそうな顔しちゃって。
お前のこと狙ってる看護師がたくさんいるっていうのにさ…
本当、罪な男だわ。
…でも、同期としては嬉しいよ。
落ち込んでるお前を見るのもそろそろ飽きてたから。
でも、ひとことだけ言わせて欲しい。
「お前さぁ、なげーよ2年はよぉ…」