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紫 × 桃
戦争のお話 。
死ネタ
このお話はあくまで小説であり 、 政治的意図は全くありません 。
地雷さん 🔙 推奨
夜明け前の空は 、 俺の気持ちとは裏腹に 、 綺麗に色づいている 。
「 ね 、 紫 、 お願いだから行かないで … っ 」
背中越しに聞こえる桃の声は 、 いつもより少し掠れていて 。
振り向くと 、 桃が今にも泣き出しそうな顔で立っている 。
その顔があまりにも愛おしくて 、 少し笑い出しそうになってしまう 。
本当は泣きたいのに 。
「 行かないって言ったら安心すんの ? 」
「 する 、 だから … 行かないって言って … 」
そんなことを言われたら心が揺らいでしまう 。
俺は目線を落としてふと考える 。
もし行かない 、 と言えたら 。
全てを投げ出して桃の傍に居てやれたら 。
けれど 、 その願いは叶わない 。
「 … ごめん 」
どんなに桃が願っても 、 俺は桃の欲しい一言を掛けてあげることができない 。
「 … 」
桃が顔を歪めながら俺をじっと見詰める 。
その瞳は 、 誰よりも真っ直ぐで 。
その時 、 出撃準備の号令が響いた 。
桃の肩がびくりと震える 。
それと同時に 、 俺の胸もぎゅぅ 、 と苦しくなってしまうくらい締め付けられる 。
「 桃 、 ちょっとこっち来い 」
俺は急いで桃を人のいない影に引き寄せる 。
「 … これ 、 」
驚く桃に俺は胸ポケットから小さく折り畳んだ紙を手渡す 。
「 え 、 これ … 」
「 … ごめんな 、 傍に居てやれなくて 」
「 … うん … 」
「 … 幸せになれよ 、 」
ぽん ヾ 、 と優しく桃の頭を叩いてやると 、 桃が何か言いたげに口を開く 。
だけど 、 俺は背を向けて自分の戦闘機に乗り込む 。
… 振り返ってしまったら泣いてしまうから 。
桃の手をもう二度と離せなくなるから 。
桃に渡した手紙 ____
本当は書きたいことがたくさんあったけれど 、 いざ書こう 、 と筆を握った瞬間に涙が止まらなくなってしまったので 、 たったの1文しか書けていない 。
けれど 、 最後に少し話せたから好いとしよう 。
はにかみ屋の俺にしては上出来だった 。
そんなことを考えていると 、 隊長の号令が響く 。
そして 、 俺は仲間達と空に飛び立った 。
下では見送りに来た国民が 何か叫んでいる 。
… きっと 、
『 大日本帝国万歳 』 やら 、 『 ご武運を 』 やら叫んでいるのだろう 。
… 戦争なんてくそくらえ 。
ふと下を見てみると 、 桃と目が合う 。
その顔は 、 今にも泣き出しそうで 、 それでいて優しくて 。
今の時代では桃に “ 好きだ ” と伝えられなかったけれど 、 生まれ変わったらいつか ____
その時にはもう俺は俺じゃないし 、 桃も桃じゃないだろうけれど 、 それでも 、 桃と語らったあの木の下で 、 春には蒲公英が綺麗に咲いていたあの野原で 、 また桃と出会いたい 。
日本より遥か遠くの空の上で 、 俺は桃に思いを馳せる 。
… 『 桃に幸あれ 』 。
コメント
2件
泣いちゃう 😿 最後 の 一言 で もう 大号泣 だよ 🙃