テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あめの日/赤組
りうらside雨が降っている日には、必ずお兄ちゃんが飴玉をくれる。
その飴の味は毎回違っていて、被らない。
さっさと被れよ!!って思ってしまうほど。
梅雨の時期は雨がずーーーっと続くから飴玉の味が被らなくていいけど、
さすがにちょっと、飴舐めるのにも飽きてくる。
でもお兄ちゃんがくれる飴が嬉しくてたまらなかった。
突然お兄ちゃんが僕を無視するようになった。
それでも料理などは作ってくれている。それだけでも嬉しかった。
でも雨の日だった、飴玉を貰えなかった。
それだけの事なのに、凄く、すごく寂しくてたまらなかった。
それが数日間続いた。
雨が降っても飴玉はくれなかった。
「ないこおにぃちゃん、?」
「……」
「飴玉。もうくれないの?」
やっぱり話してくれない。
って思ったら、お兄ちゃんが何かを握った右手を僕に差し出してきた。
下に手を広げて見たら、飴玉を1つくれた。
嬉しかった。とても。
「ん。」
その1文字しか声を発してくれなかったけど、
久しぶりに聞けた声が嬉しかった。
いつもはただの味のする丸いものだと思ってた飴玉も、
今日はなんだかとても甘くて優しい味がした。
あれからまた雨の日には飴玉をくれるようになった。
しかもなにか一言言ってくれるのだ。
朝だったら「おはよう」とか、昼だったら「午後頑張ってね」とか。
学校でもくれるようになったから、会えるのも声を聞けるのも嬉しかった。
それでも問題はひとつ。
雨が降らないことだ。
僕にとっては大大大事件、
なぜなら飴玉が貰えないから!!!
しかもお兄ちゃんたら一度も話しかけてくれない!
話しかけないと声だって聴けないし話してくれない。
それが1ヶ月も続いた。
悲しくて寂しくて、どこかいらついていて。
感情が抑えられなくて、僕は部屋で独り毛布にくるまって小さな雨を降らせていた。
涙が止まらない。
ガチャ……
ドアが開いた。お兄ちゃんかな、
どうしたんだろう。
「りうら、」
勝手に入ってきたと思ったら、急に名前を呼んで
僕のことを優しく抱きしめてくれた。
嬉しくて、優しくて、
お兄ちゃんの腕の中でまた雨を降らせてしまった。
僕の唇にお兄ちゃんの唇がくっつく。
そのままお兄ちゃんは僕の口の中にまあるい何かを入れた。
飴玉だ。
「大好き。」
いつもの一言も忘れなかった。
また目に涙が滲む。
口の中の飴玉は、甘くて優しくて、僕を包み込んでくれるような暖かい桃の味がした。
ないこside
雨が降っている日には、弟に必ず飴玉をあげる。
絶対味が被らないように気をつけて。
俺は中3のとき、うどん屋さんで貰った飴を喜びながら食べる弟を見て
恋に落ちてしまった。
本気で、大好きで仕方がなかった。
でも弟ももう中学1年生。それに兄が恋をしていい相手じゃない。
それにこのことを弟に直接伝えたらきっと、嫌われるに違いない。
だから、ずっと隠してきた。
でも俺が好きってことを気づいて欲しくて、
何か行動で伝えられないかと考えた時、1番に思いついたのが
飴玉だった。
弟の好物だし、飴玉をあげるのには、
『貴方のことが好き』
という意味がある。気持ちがいつか届けばいいなって。
だから、雨の日にはあめ、って文字をかけて飴玉を絶対にあげるようにしていた。
あの日までは。
高校3年生になったとき、弟は高校1年生。
頑張れば一人暮らしができる年齢になった。
俺は書道部に入っている。
高3だからもう部活も終わる。そんなとき、
先生に、君は才能があるからこの学校に行くといいよ。
とパンフレットを貰った。
でもその学校は家から少し遠くて、簡単に行ける学校ではなかった。
その学校に行きたかった。行きたいと思った。
でもそこに行ったら、弟にはもう毎日は会えない。
飴も渡せない。
それに俺が引っ越せば弟も一人暮らしをしなければならない。
両親は居ない。事故によって他界してしまった。
祖母の家に行くという手段もあったが俺たちは選ばなかった。
結局、俺は引っ越すことを決めてしまった。
心のどこかで嫌だと叫んでいる自分がいる。
それでも行くと決めた。
弟は嫌だ、と言うかもしれない。寂しい思いをさせるかもしれない。
それでももう引っ越しを決めた。
先生がもう手続きを済ませてくれたから
今更断るなんてことが俺にはできなかった。
大好きな人と離れ離れになることが苦しくなって、
少しだけ、弟と距離を置くことを決めた。
無視をすることは辛かったが、1週間もすれば慣れてきた。
それでも飴玉をあげようと思ったけど、
慣れてしまったから、話しかけることさえできなくなって
飴玉を渡せなくなってしまった。
数日後、
急に弟が話しかけてきた。
「ないこおにぃちゃん、?」
「飴玉。もうくれないの?」
そうやってねだってくる弟が可愛くて仕方なくて、
たまたま右手に持っていた飴玉を弟に差し出した。
本当はなにか話そうと思ったけれど、
「ん。」
の一言、1文字しか言えなかった。
あれから、飴玉を求めているのか俺に話しかけてくる弟が可愛くて
せめて、飴玉はあげるようにした。一言も添えて。
でも事件すぎることがある。
雨が降らない!!
飴玉を求めてくる弟が見たいというのに
ここ何日も雨が降ってくれない!
でもしょうもないことで話しかけてくれるから
その話には答えるようにしている。
可愛すぎてスルーなんてしてられるか。
1ヶ月続いたころかな。
土曜日。いつもはお昼ご飯を食べたあと弟は
1人ででかい画面を目の前にゲームをしているはず、、
なんだけど今日は部屋に戻った。
珍しかった。なにかあるのか少しばかり心配になって部屋の前まで見に行った。
ドアには相変わらず、
『りうらのお部屋』
と書かれた看板が吊り下げられている。
少しドアに耳を当ててみた。
すすり泣きをしていた。いつもあまり泣かないりうらが。
独りで。
部屋の中に小さな雨を作っていた。
俺は手元にあった飴玉を口の中に入れて、
ドアを開けた。
ガチャ……
久しぶりに入るりうらの部屋。
やっぱり、りうらは泣いてきた。毛布にくるまって。
気づいたら抱きしめていた。
久しぶりに抱いた。
こんなことしたらもっと好きになってしまう。
りうらはまた俺の腕の中で雨を降らせた。
そっとりうらの顔をあげる。
そして、りうらの唇にそっと俺の唇をくっ付けた。
こんなこと弟にしてはいけないことは分かっている。
でもそのまま俺はさっき口に入れた飴玉を
りうらの口の中に渡した。
今日は俺の大好きな桃の味。
早くこの気持ちに気づいてくれないかな。
「大好き。」
一言も忘れずにね。