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この話は二次創作です。腐向け、nmmn、hnnm等、苦手な方は閲覧しないようお願いします。何かありましたら非公開とさせていただきますので、ご了承下さい。
臆病者の恋
最近、面白くない。
そんな事思っちゃダメだって分かってるんだけど、それでもつい表情に出てしまう。
「今日は、早い?」
出勤前に声を掛けると、ターボーは「うーん」って前置きした。
あ、今日も予定があるんだな。
「ニコちゃんに頼まれた用事が入っててさ、終わったら帰るから」
やっぱり。
二ヶ月くらい前、イマクニでニコちゃんに会った時に、ターボーは『合コンのセッティング、してよ〜』って頼まれてた。ターボーが言うには、コネを使って条件が良い男を探してんだよ、って事だったけど……。まさか、週に一、二回のペースであるなんて思わなかったから。
(ちょっとだけ、ニコちゃん苦手なんだよなあ)
元々女子は苦手だったんだけど、特に強くて綺麗な女性は怖いイメージを持ってしまう。ニコちゃんとか、猿橋さんとか。
「じゃ、待ってる」
言葉だけは聞き分けが良いふりをして、僕はパンを齧る。あー美味しい。
「ん、おりこうさん」
ターボーは僕の頭を撫でて、そのまま部屋を出ていく。パタンという音に、僕は少しだけ感じた苦い思いをコーヒーで流し込んだ。
結局、ターボーの帰りは遅かった。仕事の用事も入ったんだ、なんて言ってたけど、近付いてきたターボーのシャツからは甘ったるい匂いがしてる。
「お酒、飲んだ?」
「まあな」
じゃ、タクシーで帰ってきたのか。僕も免許取れば、迎えに行けるんだけど。
「大丈夫? シャワー、浴びる?」
「ちょんまげ〜」
わ、それで抱きついてこないでー!
そう思ったけど、突き飛ばす度胸もない。怒る勇気もない。だって、嫌われたくない。結局ターボーの腕の中に入って、僕は苦しい甘さに捕らえられる。
「……めん」
「え?」
耳元で小さな声がして、ターボーはそのまま力が抜ける。
「ちょ、ターボー! 重い!」
言ったけど酔っ払いに聞く耳はなくて、僕はなんとかターボーをソファに寝かせて、一人でベッドに行く。
「広いんだけどなあ、このベッド」
少し前までは、二人で寝てたはずなのに。
そんなどうしようもない事が頭を巡って、僕はとにかく寝てしまおうと、広い空白の中で目を閉じた。
そんな日が何度も続いたある日、僕はイマクニに行った。
「あれ、ちょんまげ? 一人か?」
中ではキングがいつものように飲んでいて、今日はその隣にグラスがもう一つ。
「猿橋さん?」
「ちげーよ、貧ちゃん」
トイレにでも行ってるのかな。
「浮気かと思った」
奥さんいるのにこんなとこで女性と二人で飲んでたら、それは浮気だよね?
そう思って言えば、キングに軽く小突かれた。
「なんだよ、ターボーとケンカした?」
「……別に、ケンカなんか」
する度胸もないよ。そんな事して、もしもターボーに会えなくなったら……もう一度引き篭もる自信がある。
「キングと同じの、ください」
店長さんに言うと「はいはーい」って軽い声が返ってくる。キングは携帯を触ってたけど、ニヤニヤした顔で僕を見た。
「大丈夫か? 結構強いヤツだけど」
「……大丈夫だし」
綺麗な青いカクテル。貧ちゃんと飲むにはなんだかロマンティックな感じだけど……。
「キング〜、お待たせ〜」
あ、本当に貧ちゃんだった。
「あれ〜、ちょんまげもいるじゃ〜ん」
貧ちゃんは酔ってるみたいで、よろけながらキングの隣に座る。そして、青いカクテルをごくり。
「よし、これで五十種類〜」
……あ、確かこの店で百五十種類のお酒頼んだら、幻のお酒飲めるんだっけ。冗談だと思ってたけど。
「はい、どーぞー」
僕の前にも青いカクテル。今頃ターボーも飲んでるのかな? ニコちゃんや、綺麗な女の人に囲まれて。
そんな事を考えながら一口飲んでると、貧ちゃんが赤い顔で言った。
「ターボー、今日も合コンなんて羨ましいよなあ! 俺も行きたーい」
こんなの、ただの話題なんだから。
ターボーが相手を探してるわけじゃないんだから。
ニコちゃんに頼まれて、セッティングしてるだけだから。
そう思ったのに、僕の目は勝手に涙を浮かべていた。
「ちょんまげ?」
キングが僕の背中を叩く。
「お酒……思ったより、強かった、から」
そう、だからちょっと目に来ただけ。そう言って笑おうと思ったのに。
「ちょんまげはさあ」
キングがぽつりと言った。
「相手の事を考えて優しく出来るのは、良いところだと思うよ」
「え?」
「でもさ、その為に自分を押し殺すのは、悪いところだよな」
……そうなのかな。でも、大好きな人に我儘なんて言えない。だって、嫌われたくない。
「でも……ターボーも、困ってる友達に、頼まれただけ、だし」
言葉が引っかかって、うまく出てこない。カクテルをもう一口飲んだら、貧ちゃんが隣に来た。
「なんだよ〜、リア充のくせに、そんな泣きそうな顔して〜」
「泣いて、ない」
泣く理由なんかない。ターボ ーは友達思いなだけ。
「ターボー、今頃可愛い子と飲んでるんだなあ〜」
もうダメだった。ぽたぽたとテーブルに雫が落ちる。もう止まらない。
「……ちょんまげ〜、そんな悲しいんなら、ちゃんとターボーに言えよ〜」
貧ちゃんはそう言って、僕の目の前に握り拳を出した。
「我儘言うのも、ケンカすんのも、相手がいないと出来ない、贅沢な事なんだぞ〜」
……相手がいないと、出来ない事。
「そうだぞ、ちょんまげ。貧ちゃんなんか、愚痴を聞いてくれる彼女もいないんだから」
「奥さんの尻に敷かれっぱなしのキングに言われたくな〜い!」
キングと貧ちゃんは、そう言って笑う。そして、僕を見た。
「どうしても離れたくない相手なんだろ? なら、ちゃんと自分の思いも伝えないと、な? お互いに本音も言えない関係なんか、長続きしないからさ」
「だいたい、ターボーもちょんまげにべた惚れなんだからさ〜、安心して我儘言ってこいよ〜」
「……うん。二人とも、ありがと」
カクテルを飲み干して、僕はイマクニを出る。
絶対、この気持ちを伝えるんだ! 背中を押してくれた、二人のためにも。
ターボーが帰ってきたのは、もう日付が変わった頃だった。
「あれ、起きてたか?」
ターボーはそう言って、そのままシャワーに向かおうとする。だけど、僕は前に立ってそれを止める。
「ちょんまげ?」
ちょっと声が低くなった。きっと疲れてるから、早く休みたいんだよね。いつもなら、すぐに引き下がっちゃうんだけど。
「ターボー、僕の話、聞いてくれる?」
ターボーはじっと僕を見つめる。そして、ソファに座った。
「いいよ。ちょんまげの話、聞かせて」
僕も向かい側のクッションに座る。
ドキドキする。緊張する。でも、やっぱり、ターボーに伝えなきゃ。
ずっと、そばにいたいから。
「……僕、もっと、ターボーと一緒にいたい」
顔は見れない。でも、言葉にしなきゃ。
「女の人と、お酒飲んでほしくない。夜は、一緒に、ご飯食べたい。広いベッド、一人で寝るの、いやだ」
ああ、言い出したら止まらない。つっかえつっかえに、それでも言葉が溢れ出す。
「僕だけを、見てほしいんだ……」
ぽたり。握りしめた両手に一雫。ダメだ、こんな時に泣いちゃ、まるで聞き分けのない子どもみたいになっちゃう。もう、ターボーの顔も見れない。
「ターボーが好き……どこにも、行かないで」
ぽたり、ぽたり。もう涙だか鼻水だか分からなくなってる。それでも、もう止まらない。止められない。
「ちょんまげ」
ターボーの声は、優しかった。立ち上がる気配、落ちてきた大きい手。
「ターボー、僕……」
困らせるつもりはないんだ。そう言いたかったけど、ターボーは僕のほっぺを指で拭って、顎を上げた。強制的に、僕の視界にターボーが入ってくる。
「嫌だった? 最近、夜が遅かったの」
「……うん」
もう隠せない。だって、本当に寂しかった。嫌だった。
「分かった。もうニコちゃんの頼み事は断る。急ぎじゃない仕事は夜に入れない。だから、ちゃんとこっち見ろ」
ターボーの手が離れて、僕は彼を見つめる。
「……いいの? 友達のお願いなのに」
「当たり前だろ。どんな友達より、お前が最優先なんだから」
隣に座ったターボーは、やっぱり甘ったるい匂いをさせていた。でも、温かかった。
「俺だって、ちょんまげが好きだよ。一番好き。絶対に離れないから」
鼻の奥がツンとなって、汚しちゃうと思ったけど抱きつく。ターボーの腕が回って、ちょっと震えてる気がした。あ、僕が震えてるのか。
「ごめんな、ちょんまげ。お前に甘えてたよな、俺」
「ううん、ちゃんと言えなかった、僕も悪いから」
大事な人が隣にいる幸せ。ずっと壊したくなくて溜め込んでた思いを口にして、僕はさらに幸せを手に入れた。
「また、我儘言うかもしれない」
そう言ったらターボーは「我儘くらい言えよ」なんて優しい声で言ってくれたから。
「じゃあ、一緒にお風呂入りたい」
「よっし、いっぱい甘やかしてやる」
抱き上げられると、嫌だったはずの甘い匂いも気にならなくなって、僕はターボーの首にぎゅっと抱きついた。
イマクニに行くと、キングが一人で飲んでいた。俺に気がつくと手を上げる。
「聞けたか?」
「おう」
ようやく聞けた、ちょんまげの本音。
事の発端は、ニコちゃんの「お願い、合コンのセッティングして!」という頼みだった。
「えー、嫌だよ。俺、恋人いるし」
「ターボーはいてくれるだけでいいから! ね、社長仲間とか、医者とか、とにかく条件の良い人集めてよ、ね?」
上目遣いで頼まれて、それでも断ろうとした時だった。
「ね、ちょんまげからも頼んでよ」
あ、ちょんまげを巻き込みやがった。そう思っていると、ちょんまげが言った。
「ターボー、ニコちゃんも困ってるし、ちょっとだけ手伝ってあげたら?」
このセリフに、俺はついカチンときてしまった。
ちょんまげとしては、友達が困っているからという優しさからだろう。だけど、自分の恋人が知らない女と酒飲むなんて、イヤじゃないのか?
「……ちょんまげが言うなら、まあ」
そう言ったものの、俺の心には引っ掛かりが生まれてしまった。
(ちょんまげは、本当に俺の事が好きなのか?)
引き篭もっていたちょんまげを引きずり出し、社会復帰のために半ば強引に自社に就職させた。その際に小さい頃からずっと奥にあった想いが再び燃え上がり、告白した時には戸惑いながらも受け入れてくれた。
……だけど、恋愛慣れしていないちょんまげは、ただ『親愛』を勘違いしているだけなんじゃないか?
そう思い始めたら、どうしようもなかった。試すように帰りを遅くしたり、ニコちゃんの香水を借りて服に付けたり、酔って帰ったり、そんな事をずるずると続けて。
でも、ちょんまげはどんな時も怒りはしなかった。少しだけ困った顔をして、口籠もりながらも俺を気遣う言葉しか言わなかった。
だから。どうしても聞きたかった。本当は、俺の事をどう思っているのか。
「まさか、二ヶ月も掛かるとは思わなかったな」
キングの言う通り、毎日のように家を空けていたのに、本音が聞けたのは二ヶ月と少し経った頃。
「それもキングと貧ちゃんに言われなきゃ、もっと我慢してたろうな」
ちょんまげがイマクニで二人に会った後、キングから俺に連絡があった。
『お膳立てしといたから、ちゃんと聞いてこいよ』
キングに相談しておいて、本当に良かったと思う。突然巻き込んだ貧ちゃんも、キングからのメールで事態は把握したらしく、しっかり援護射撃してくれたようだ。今度お礼しないとな。
「あー、マジでサンキュな」
「おう、しっかり感謝しろ。あとさ、ケンカはもっと上手にしろ」
「悪い悪い」
周りを巻き込んだのは反省だけど、そう思うと俺もちょんまげも、きっと恋に臆病なんだろう。
嫌われるのが怖くて、傷付くのが怖くて、手探りで相手を探してる。そんなんじゃ、本当の姿を見ることも出来やしないのに。
「ま、ちょんまげには『ケンカして飛び出したならうちに来いよ』って言ってあるからさ」
「……ほんと、ありがと」
しばらくキングに頭が上がらないな。感謝の意を込めてドリンクを頼む。
「あ、貧ちゃんは『ターボーと別れたら、独身貴族クラブに入れてやるから』って言ってたな」
なんだ、その不吉なクラブは。大体、別れるわけねえだろ! お礼は一旦保留だな。
目の前には青いカクテル。あの日のちょんまげと、きっと同じ。
「なあ、キング。俺、会社じゃドライだって言われるし、実際にリストラやらなんやらで結構恨まれてたりするんだけどさ、どうしてちょんまげには強気になれないんだろうな?」
呟くと、何故かキングの目が丸くなって、すぐに細くなる。
「それが、恋なんじゃねえの?」
そっか。こんなどうしようもなくて、苦しくて、みっともなくしがみついても、それでも幸せなこの気持ちが、恋なのか。
二人でグラスを合わせる。青いカクテルが揺れて、この恋のように甘くて少しだけ苦さを舌に残した。
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