一覧ページ
アオノミライ ~ネコロマンサーと掃除機が、絶滅どうぶつの魂を今日も集める!~ 【能力の無駄づかい編】
第14話 - 第2話-2 ギガントピテクス4 『バットが火を噴いた ④』
3,895文字
2026年05月20日
一覧ページ
3,895文字
2026年05月20日
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ファンタジー
#イケメン
#ダンジョン
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アルゲンタビスの背に乗ったリクトは、済みきった空気を肌で感じながら、湖を上空から眺めていた。
アルゲンタビスは、体重や翼の構造から、山の斜面や逆風を利用して離陸するという上昇気流に任せて飛行する。あまり羽ばたかず飛べるため、存外乗り心地が良い。
このままどこかへ飛び去ってしまいたい気分だが、依頼を遂行しなくてはならない。
マキネが先に来ているはずだ。アイツを放置するとロクなことがないしな……。
そんな思いを巡らせていると、アルゲンタビスがリクトを振り返る。
「リクト。見えるか?」
アルゲンタビスの低音ボイスが耳に入ると、リクトは下界に視線を落とす。
湖畔の開けた場所に、マキネが書いたと思われる『HEL……』という文字が見える。“ヘルプ”だろうか。いや、ヘルスだった。
「そこに降ろしてくれ」
地上に近づくにつれ、地面に転がる礫などがハッキリと浮かび上がる。
アイツはまだ来てないのか。
リクトが周囲に目を配るも、マキネの姿はなかった。
湖のほとりに降り立ったリクト。しばし湖面を観察していた。
再びぬいぐるみに憑依したグエンが、リクトの許へと歩み寄る。
「どうしたのですか?」
水面をジッと見つめるリクトの顔をグエンが覗き込む。
「上空から湖を見たんだが、外来水生植物が多くてな」
「草ですか? それが何か困るのですか?」
「俺も詳しいことは知らないが、ナガエツルノゲイトウといってな。特定外来生物らしい。増えすぎて地元の人が困っていると聞いたことがある」
「そのナガなんとかって草を回収するのですか?」
「そうしたいが、今日は本来の目的を果たす」
五メートル先に不自然に沸き立つ水面をチラ見したリクト。
「グエンさん。網を投げてくれ」
目当ての魚『ブルーギル』を捕獲するため、投網を用意していたのだ。とはいっても、購入代金はマキネが払ったのだが。自分が獲物にされるとはマキネは考もしなかっただろう。
網の具合を確かめると、リクトは面倒そうに湖面に向かって指をさした。
「ブクブクしているあれですね。何か居るのですか?」
「ああ。俺にとっては害獣といったところだ」
数秒後、水面にマキネが浮き上がる。まだ少し寒いこの季節に、マキネは水泳を決め込んでいた。
石でもぶつけてやろうかと思ったが、短い脚でうまく泳いでいるマキネに、リクトは感動すら覚えてしまう。
リクト自身で投網を打っても良かったが、グエンにウォーミングアップをしてもうらうことにしたのだ。リクトは何かを企んでいるらしい。
バシャバシャと泳ぐマキネ目がけて、グエンは投網を放つ。
魚に混じって網に引っ掛かるマキネ。体を撓(しな)らせ、騒ぎたてる。
「いてぇなコンチクショー! あっ、網がお股に食い込んでるっす。もっと強くお願い! あっ、いい感じ……」
水揚げされた白いスク水姿のマキネが、陸上でピチピチと暴れ回る。
なんだコイツ。なんか微妙に気持ち悪い……。
マキネの奇妙な動きを眺めるリクトは、塩をかけられたナメクジを思い出していた。
「水着に着替えるのに手間取って、ココに来るのが遅くなったっす。テヘッ!」
マキネは上目遣いでお尻に食い込んだ水着をピチっと元に戻す。
前かがみで、無い胸を寄せたり上げたりと、なんだかよく分からないアピールをしてくる始末。
「リクトくん。ウチの荷物からエプロン取ってくだせぇ。いますぐ着けるんで……。男の人ってば、こういうのが好きなんすよね?」
マキネはスクール水着の上からエプロンを装着したいようだ。
「知らん」
見た目だけは合格点のロリ少女マキネだが、言動がアレ? なため、リクトの眼中には入っていない。
「おいおいリクトくんってば。ウチは“スク水エプロン“っていう新ジャンルを開拓しようと思ってるんすよ」
マキネの言葉でイライラがピークを迎え、リクトのこめかみに交差点のようなマークが浮かび上がる。そんなマキネを一秒だけ見たリクト。拳を握りしめ、湧き上がる訳のわからない感情を抑え込む。「ふう」と一呼吸置くと、すぐさま作業に戻るのだった。
「ブルーギルを除いて他はリリースする。グエンさん。分別を手伝ってくれ」
「早速ですけど、これはどうします?」
グエンが体長四十センチのブラックバスをつまみ上げる。
少しニオイを嗅いだグエンが怪訝な顔をする。もともと草や果実を主食としているため、魚を見ても食欲が湧かないようだ。
リクトは考え込む。淡水魚は生臭いイメージしかない。調理法もよく分からない。
「そいつも駆除するか。後ろに居るスミロドンに渡してくれ」
サーベルタイガーの一種である『スミロドン』は、一万年前までアメリカ大陸の南と北に生息していた。駆除対象の魚を食わせるため、リクトはネコ科のスミロドンを待機させていたのだ。
「そこの獲物はどうします?」
体育座りで遠くを見つめマキネを指差し、グエンがリクトに問う。
緑色の髪のマキネを見たリクトの頭によぎる。
マキネ、オマエの前世は海藻なのか?
濡れたマキネの緑色の髪が、リクトには水に浸すと復活する〝増えちゃうワカメ”に見えたのだ。
「奇妙な草は廃棄だ」
「いいんですか?」
「リリースしよう。できるだけ遠くに投げてくれ」
「待てゴルァ!」
グエンに抱きかかえられたマキネがジタバタと暴れ狂う。グエンの顔を蹴り、顔付近の毛を引っこ抜き、鼻の穴に手を突っ込む。ときに目つぶし、ときに鼻フック。マキネは必死に抗ってみせる。
「グエンさん。一旦その海藻を降ろしてくれ」
リクトは、予定していたとある作戦を決行することにした。ビショ濡れの体を拭いてやると、あとは自分でやれとタオルをマキネに渡す。
擦りむいて血の滲んだマキネの膝の手当を始めた。
「リクトくんてばさ、ウチの水着姿をイヤラシイ目でみたりとか。興味なさそうな顔して、見るとこはキッチリ見てるというか……」
「人を除き魔みたいに言うな」
「そういう意味じゃなくて……。どこか達観してるところがあるというか……。なんでもねえよ、コンチクショー!」
内股でモジモジと体を動かすマキネ。白い顔が、ほんのり赤く色づいている。
「まあ、まあ。おふたりさん」
グエンは、愛おしそうに目を細めてリクトらを眺める。
「グエンさん。パンダ(マキネ)をリリース!」
リクトは、マキネの顔に落書きをしていた手をとめる。
目の周りを黒く塗られ、パンダのような顔になったマキネに視線を移した。すかさずグエンのスネを蹴り、合図を送る。
「ウチをパンダにするためにケモ耳カチューシャを用意させたんすね……」
マキネは覚悟を決めたようだ。パンダ耳のカチューシャを自身の頭部に装着した。
「可愛らしいですね」
顔をほころばせたグエンは、パンダと化したマキネを見やる。
愛おしく思えていたらしい感情は一瞬で消え、パンダへの怒りが再燃したようだ。
グエンがパンダ顔のマキネを、力強く湖に放り投げた。さすが類人猿。掛け声は「ウホッ」だった。
風圧で顔面をブルブルさせながら、マキネは正座体勢のままで飛んでゆく。
マキネパンダはしばらく空中を漂うと、およそ三百メートル先に着水した。
「ウォーミングアップは終わりです。次はもっと飛ばしますよ!」
もの足りない様子のグエンが、肩をグリっと回してみせる。
湖面の大きな水柱を確認したリクトは「アメとムチ」と言い残し、作業に戻った。
「俺は魚を分別する。あとは任せた」
リクトが在来種を湖にリリース。
グエンが外来種を後ろにブン投げる。
自力で戻ってきたマキネパンダを、グエンが放り投げるという流れが出来上がっていた。
リクトの意図をくみ取ったマキネも楽しそうだ。
パンダへの仕返しをしている感覚に陥っているグエンも然りだ。
マキネパンダを投擲するたびに飛距離を伸ばしている。
現在までの最長記録は六百メートルである。
「おい! 変なパンダを投げる暇があったら、メシを持ってこいや! 客を待たせるな、この類人猿どもがっ!」
後ろで魚を待ち構えるスミロドンが野次を飛ばす。
グエンが外来種の魚を放り投げる。
「外来種とはいっても大切な命。残したらブチのめす」
リクトは振り返り、スミロドンに脅しという喝を入れる。
「何匹でもこいや!」
ブルーギルを丸のみした、体長二メートルのスミロドンが吠える。
口から突き出た二本の大きな歯がキラリと光った。
「グエンさん、もう少し獲るぞ」
「了解です!」
グエンがゴリっと笑う。
五十匹ほど獲ったころだ。
「ところでリクトさん。獲る魚の量を調節していたのですね」
「害のある魚といっても無駄な殺生はしない。スミロドンにも食える限界ってものがあるからな。頃合いか」
「そのようです」
二人の視線の先に、腹を膨らませたスミロドンが苦しそうに仰向けで寝転がっている。
「仕舞にするか」
「はい」
水を含んでブヨブヨ気味のゴミ(マキネ)を回収、後片付けをしながら、
「グエンさん。本来の願いを叶えてやれなくて悪かったな……」
うつむき加減でリクトがボソリと呟いた。
「これはこれで楽しかったですよ」
グエンは満足そうに顔をほころばせる。
「そうか」
「これでやっと成仏できます」
「そうか……。準備はいいか?」
グエンの霊はクリーナーに吸い込まれてゆく。
グエンが別の生命体に転生できることをリクトは願うのだった。
「リクトさん。マキネさん。あの、いまさらですけど……。私、女の子です」
クリーナーに飲まれつつあるグエンが、ハニカミながら告白した。
「メスだったんか~い!」
普段より半音高いマキネの大声が、湖の畔に消えてゆく。