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「大丈夫? アリエッタちゃん」

「だいじょうぶ!」


ミューゼ達全員がぐったりしている大部屋の前に戻って来たアリエッタは、十分に気合を入れ、扉の前に立った。状況的にやりたい事が上手く伝わったと確信し、その目に迷いは一切無い。

その周囲では、ノエラ達フラウリージェの面々とフレア、そして手伝いをしていた従業員が、小声でアリエッタを応援している。


「いいわねみんな、手筈通りに」

「アリエッタちゃん、大変だけどよろしくね」

「むふん」(みゅーぜ達を癒すのは僕の役目。ここでやらなきゃ男が廃るってもんよ!)


男気の全く無い少女の気合は、辺りの空気を問答無用で和ませる。

笑顔が収まらなくなったノエラが扉を開け、部屋の中へとアリエッタが入って行った。


「……え」

「あ、アリエッタ? それは……」


すぐに部屋の中がざわついた。扉が開いた事でチラ見したミューゼとパフィも、思わず姿勢を正して魅入ってしまう。

部屋に入ってきたアリエッタは、白をベースとした可愛らしい衣装に身を包んでいた。白い靴を履き、右足には白とピンク、左足には白と緑のボーダー柄のニーハイソックス。そして色とりどりの小さな花柄の刺繍をした、チュチュスカート風の白ワンピース。腰には大きなリボンがあり、胸元より上は大胆に肌を出したストラップレスとなっている。

髪は今も虹色に輝いたままで、その煌めきを損なわないようにウェーブをかけ、ふんわりと仕上げている。それでいて頭には大きな青色のコサージュまで付いていた。

アリエッタのデザインを元に、フラウリージェの最高戦力達が僅かな時間で仕上げた最高傑作である。


「……お姫様みたい」


あろうことか、その感想を呟いたのはネフテリアだった。それが聞こえたフレアは、一瞬ガクッと脱力したが、気持ちは分からなくもないので持ち直した。


「みなさん静粛に。どうです凄く可愛いでしょう。これからこの天使としか思えない絶世の美少女アリエッタちゃんが、飲み物を配ってくれます。まだこの子は言葉をあまり知らないので、簡単にお礼を言ってあげてくださいね」


本人が理解しないのを良い事に、遠慮なく褒めちぎるフレア。アリエッタは真顔で首を傾げているが、その姿を見ている全員がその形容に納得していた。そしてこれまでの疲れを自分達で吹き飛ばす程の拍手が巻き起こる。


(ふぅよかった。思った通り歓迎されてる)


転生者アリエッタは自身の経験によって知っていた。真面目に働く大人である程、子供の労いに弱い人が多い事を。そしてそれで何でも許してしまう事を。


「ふふ、それじゃあパフィちゃん達からはじめましょ♪」

「ぱひー!」


アリエッタがパフィに向かって駆け出した。虹色の髪、スカート、リボンがふわりと舞い上がり、注目していた大人達をそれだけで魅了する。


「俺、今日死ねるなら本望だ」

「分かる」

「こらこら……」


そんな感想も、アリエッタにだけは届かない。疲れた目から優しい目になった全員の視線を一身に浴び、アリエッタの闘いが始まった。


「はい、おねがいね」


フラウリージェの店員達が事前に注文を聞き、宿の従業員がグラスに飲み物を注ぐ。フレアの計らいでジュースだけでなく酒類も用意されており、特に兵士達は特別ボーナスだと喜んでいる。

そしてその飲み物は、アリエッタによって笑顔と共に手渡しされ、そのタイミングで労いの言葉もかけられた。


「おつかれさまなの♪」

『!?』


横からアリエッタの笑顔を見るだけで赤面していたギャラリーが、そのメッセージを聞いた途端に顔を押さえてプルプル震えだした。直接飲み物と言葉を受け取ったパフィはショックで停止している。


「ぱひー?」(……あ、あれ? 何か間違えた?)

「あー…うん、大丈夫よアリエッタ」(めちゃくちゃ驚いただけだからね……)

「ミューゼも顔真っ赤だし。王妃様、これどうするし?」

「あはは…ちょっと刺激が強すぎたかしら?」


耐性のあるミューゼやクリムも同じく赤面し、一緒にいた筈のフレアやフラウリージェ店員ですらも赤面したりプルプル震えていたりする。どうやら想定外の破壊力だったようだ。


「ぱひー? ぱひー?」

「はっ!? あれ? 楽園はどこいったのよ……?」


違う場所へトリップしていたパフィが戻ってきた。そして目の前のアリエッタの心配そうな顔に気が付き、現状を思い出した。


「おおおおオウヒサマ? 今のはどういう事なのよ!?」

「いいでしょう。サンディちゃんの口癖を真似て教えてみたの。成功した時はわたくしが本気で召されそうになったわ」


王妃フレアは、初恋の相手であるパフィの母親サンディ・ストレヴェリーの真似をし、『お疲れ様』の言葉を教えていた。娘としては恥ずかしい事この上ない。しかし可愛いのもまた事実。

複雑な気持ちになりながら、パフィはアリエッタに「ありがとうなのよ」と言い、頭を撫でてあげた。その時のアリエッタのふにゃりとした笑顔で、再び周囲の者達が悶えるのだった。


アリエッタは「おつかれさまなの」を覚えた。


「さて、お次はミューゼさん……あら、貴女大丈夫?」


次に進もうとしたが、飲み物を注ぐ筈の従業員が、胸を押さえて震えていた。どうやら致命傷を負っていたようだ。


「うーん、クリムさん。悪いけど彼女の補助をしてあげてくださるかしら?」

「了解だし」


ここでアリエッタに耐性を持ち、接客経験も多いクリムが、従業員のサポートに回る事になった。疲労もミューゼ達程では無いので、フラウリージェ店員達のように軽やかに動いている。


「息を吸ってー吐いてー……大丈夫だし?」

「はぁ……はい。すみません……」

「このジュースで良いし?」

「ええ、助かります」

「はいアリエッタ、頼むし」


飲み物を渡されたアリエッタは、背後のフレアにそっと導かれ、目の前のミューゼに渡す。

先程の流れをそのまま繰り返すだけだが、もちろん効果は抜群だ。


「ありがとね、アリエッタ」

「にひひ」


ミューゼも顔を真っ赤にしながらアリエッタを撫でる。パフィにもミューゼにも喜ばれたと理解したアリエッタは、徐々にテンションが上がっていくのだった。


「おつかれさまなのっ♡」

「王女の地位を譲った方が民衆に喜ばれるよね。そんな気しかしないわ」

「はぁ……天使すぎる」

「主を乗り換えていいですか?」

「やはり我が妃に迎え……あ、いや、ナンデモナイデス」


と、王族関係者はアリエッタの評価をますます高くし、


「ああ……これまで必死に働いてきた事がついに報われた……」

「俺、この為に生きてきたんだな」

「はぁはぁ…はぁはぁ……」


兵士達が心を浄化されるような気分になり、


「くはぁー! こんなうめぇ酒初めてかもしれん!」

「アタシ子供欲しくなってきた……」

「うぅっ……ぐすっ……女の子に手渡しされるなんて……なんて幸せなんだ」


シーカー達は各々喜んでいた。

中でも人々を守る事を意識している者達にとって、純粋な子供からの心を込めたお礼は、何よりも嬉しい物なのだろう。特に兵士と一部のシーカーの涙が止まらない。


「……いや、みなさん荒み過ぎだったんじゃないかしら?」


癒す事で喜ばれるどころか、崇拝まで始めそうなその勢いに、フレアはかなり引いていた。城に戻り次第、労働者の心を癒す為の施策を提案するべきかと、本気で考えている。


(ふぅ、疲れた。これで座ってる人は全員だよね。えーっと、あとはー……)

チョンチョン

「ん? どうしたの?」


フレアの裾を引っ張り、立っているフラウリージェ店員達を順番に指差していく。


「じゅーす……」

「……アリエッタちゃん、まさかっ」


その行動の意味を察したフレアは、思わず目が潤んでしまった。小さな体で明らかに疲れが見えているのに、本当に全員に配るつもりなのだと。


「む、無理しちゃダメよ? これだけの人数に配ったんだから……っ!?」


心配で、つい言葉による説得を試みてしまったが、アリエッタが悲しそうな目になった事で、言葉を詰まらせた。


「フ…フラウリージェ全員集合っ! 好きな飲み物を頼みなさい!」

『ええっ!?』


まさか労う側の自分達まで貰えるとは思っておらず、全員が叫んでいた。

しかし、アリエッタの頑張りを拒否出来る者は、ここには1人もいない。大人しく順番に注文し、アリエッタから飲み物を手渡されていった。


「天使って、本当にいたんだな」


王妃、クリム、従業員にも手渡されているのを見ながら誰かが呟いた。その妄言に対し、ほぼ全員が真顔で頷くのだった。

天使に例えられる程可愛い子供による労い……それは、本物の天使的な存在による、女神ははおやが起こしたトラブルに対処した人々への、せめてものお詫びなのだが、その真実に触れる事が出来る者は存在しない。

誰にも理解されずとも、せめて喜んでもらおうと思っていたアリエッタは、最後までしっかりやり切ったのだった。

そうして全員に配り終えた後、満足気にピアーニャの元へ行き、座っていた妹分を抱っこしてその場に座った。そうする事が当然のように。


『ぶふっ!?』


流れるようなその行動に、ピアーニャ以外が全員吹き出していた。しかしその意味は2種類に分かれる。

1つはピアーニャの事を知っていて、その扱いに笑いを堪える事が出来ないという意味。

もう1つは、小さな天使が幼女を抱っこするという可愛すぎる姿に当てられ、興奮を抑える事が出来ないという意味。


(んふふー、ぴあーにゃ。僕頑張ったよー。お姉ちゃんらしくできたかな?)

「……けっきょく、こうなるのか」


アリエッタの膝の上で、遠い目をするピアーニャ。疲労もあって、そのまま全てを諦めるかのように、小さな温もりを感じながら目を閉じた。


「みゅーぜ……」(ぴあーにゃ寝ちゃったし、部屋に戻ろ?)

「ん、アリエッタよく頑張ったね。王妃様、あたし達もう部屋にもどりますね」

「そうね、最高のご褒美も貰えちゃったし、解散しましょうか。みなさん、ゆっくり休んでくださいね」


フレアがそう言うと、アリエッタを称える拍手と言葉が贈られた。それはアリエッタが退室してもしばらく続いていた。


「あー俺今日はすっげー良い夢見れそう」

「奇遇だな、俺もだ」

「そのまま永眠してもいいな」

「まぁ天使様のお迎えがきたからな」

「はははは」


疲れ切っていた時からは、打って変わって満足気な顔で寝ようとする大人達。兵士やシーカーの一部はその場で転がり、その他フラウリージェのような女性団体や部屋が必要な者達は、いくつか用意された大部屋へと向かうのだった。

一旦収まったと思えた各々の興奮は、しばらくした後に誰からともなく天使の笑顔を思い出してしまう事で再燃する事になる。天使アリエッタ本人がいない各部屋の中で、我慢出来ずに変な声を出しながら悶え転がる人が連鎖的に続出したという。

ピアーニャを抱えて部屋に戻ったアリエッタは、ベッドにピアーニャを寝かせると、そのまま一緒にベッドに入る……事が出来ず、ミューゼとパフィに捕獲された。


「もう辛抱たまらんのよ!」

「アリエッタが悪いんだからね。そんな可愛らしい姿であたし達を誘惑するからっ」

「ふえぇ……」


興奮しきった2人の視線が怖くなり、横にいるクリムとネフテリアに助けを求めようとした。しかし、


「今回ばかりはミューゼに同意するわ」

「うんうん、これは仕方ないし」


今のミューゼ達と同じ目をしていると感じて目を逸らし、少し離れた場所にいるパルミラとツーファンを見た。


「あの、すみません。私も交代でお願いします」

「わたしもぉ~♪」


アリエッタの味方はいない。全員が可愛いお姫様に襲い掛かる獣となっていた。


「や、やぁ……」(ひぃぃぃ! こわいっ! なんでみんなそんな目してるの!?)

『うふふふふ♡』

「ぁ…あうぅ♪」


頭を撫でられると抵抗力が皆無になるという弱点を持つアリエッタの運命は、弱点を知る獰猛なお姉さんに囲まれた時点で既に決まっている。さらに今回はおかわりの2人も待機中。

この後全員が満足するまで、頭の先からつま先まで合計12の手で堪能されなでられ、順番にキスまでされてしまうのだった。

頭を撫でられ蕩けているアリエッタには、それら全てが幸せに感じてしまう。もはや呪いと言えなくもないような衝動である。

しかしその後、着替えもさせてもらえないままミューゼとパフィの腕の中で眠ってしまうと……


『うぅぅぅ~~~……あんな……あんなにも……しかもチューまで……もうムリぃ~恥ずかしくて死ねるうああああああ』


精神世界で冷静になり、恥ずかしさのあまり丸まってしまった。


(これは試練か何か!? なんであんな状態で喜んでたの!? 僕何か間違えたんですかね神様ぁっ!)


そんな娘の弱点を無意識で作った当の神様は、今も隣で土下座中である。

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