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翌朝、私の熱はすっかり下がっていた。
でもリューに大事をとって今日も休んでいろと言われ、隣の自室で文字の勉強をすることも許してもらえず、仕方なく一日中寝室でごろごろと過ごした。
そして、その翌日。
「くぅ~~っ」
完全復活した私は庭園で大きく伸びをした。
外の空気が吸いたくなって、朝食前にメリーとアマリーと一緒にちょっとだけ庭園に出たのだ。
早朝の澄んだ空気がとても気持ちいい。
「コハル様が元気になられて本当に良かったです」
「メリーも心配したのです~。いつでも癒しますので遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとうアマリー、メリー」
ふたりにお礼を言う。
『花の王国』のことなど心配事は残っているけれど、体調が戻ったせいか気持ちも大分浮上してきていた。
……向こうの世界のことはもう考えないことにした。
ここには、こんなふうに私のことを心配してくれる皆がいる。
お蔭でこの世界で自分の出来ることを精一杯しようと、また思えるようになった。
「聖女様!」
そのとき庭園の向こうから麦わら帽を手にしたベルデさんが駆け寄ってきて、メリーが慌てたように私の後ろに隠れた。
「ベルデさん、おはようございます」
「おはようございます。もうお身体はよろしいのですか?」
「はい、もうすっかり。ご心配をおかけしました」
そういえば私が熱を出したことが結構大事になっているのだと思い出して私は頭を下げる。
するとベルデさんはほっとした様子で人懐っこい笑みを浮かべた。
「それは良かった。丁度、聖女様にお礼を申し上げたいと思っていたのです」
「お礼?」
首を傾げると彼は笑顔で続けた。
「陛下がこの庭園にもっと花を増やすようにと指示を出してくださったのです。庭師も増員することになりまして。これも聖女様が陛下に進言してくださったお蔭です。本当にありがとうございます」
そうしてベルデさんは深く頭を下げた。
アマリーがそれを聞いて興奮したように歓声を上げる。
「良かったわね、ベルデ!」
「はい!」
色々とあってすっかり頭から抜け落ちてしまっていたけれど、リューはちゃんと私の願いを聞き届けてくれていたのだ。
私は笑顔で言う。
「この庭園が花でいっぱいになるのを楽しみにしています」
「はい。必ずここを花の城に勝るとも劣らない庭園にしてみせます!」
彼ならその言葉通り、ここを花であふれる素敵な庭園にしてくれるだろう。
楽しみが出来て、そのことがなんだか無性に嬉しかった。
と、そのときメリーが私の背後からひょっこりと顔を出しぼそっと言った。
「メリーも楽しみにしているのです」
「はい! メリ―様のためにも頑張ります!」
元気に返事をされてびっくりしたのかメリーはまたすぐに引っ込んでしまって、私たち3人は顔を見合わせて笑った。
その日の午後、私の前に懐かしい人物が現れた。
「リュークレウス竜帝陛下、聖女コハル様、この度はご婚約おめでとうございます」
「カネラ王子!?」
今朝セレストさんから『砂漠の国』から使者がやって来るという話は聞いたけれど、謁見の間に入ってきたその姿を目にして私は思わず椅子から立ち上がっていた。
――カネラ王子。彼は『砂漠の国』の王子様だ。
砂漠の国には確か王子様が10人くらいいて、彼はその中の3番目の王位継承者だったはず。
7年前、私が砂漠の国を訪れたとき歳が近かったのもあって一番お世話になったのが彼だ。
明るい金髪に褐色の肌、眠そうな目は相変わらずだけれど、あの頃に比べて身体つきもがっしりして随分頼もしくなった気がする。
そんな彼が私を見て微笑んだのがわかった。
「お久しぶりです、コハル様。またこうしてお会い出来て嬉しい限りです」
「!」
まさか、あのカネラ王子からそんな言葉を掛けられるなんて思わなくて一瞬反応が遅れてしまった。
「――あ、えっと、私もです」
そうしてなんとか笑顔を作る。
……あの頃のカネラ王子は、なんというか、言い方は悪いけれどいつもぼーっとしていて感情のわかりにくい人で、「また会えて嬉しい」なんて言いながら微笑むようなタイプではなかった。
だからびっくりしてしまったのだ。
(7年の間にすっかり王子様らしくなったんだなぁ)
王子様なのだから当然と言えば当然なのかもしれないけれど。
なんだか少し寂しいような妙な気分で椅子に座り直すと、ふと横からの鋭い視線に気づいた。
(あ、マズイかも……)
そちらをゆっくりと振り向けば、案の定リューが不機嫌極まりない顔をしていて慌てて説明する。
「以前、私が『砂漠の国』へ行ったときに彼には何かとお世話になったんです」
「そうだったか……」
そしてリューはその不機嫌顔のままカネラ王子に話しかけた。
「それで。砂漠の国の第三王子自ら我が帝国に何用だ? ただ祝いの言葉を述べに来たわけではないのだろう?」
あからさまに険のある言い方にひやりとする。
しかしカネラ王子は表情を変えず、すっと頭を垂れた。
「はい。我が父、砂漠の王より、竜帝陛下と聖女様へお願い申し上げたいことがあり参りました」
「え?」
思わず声が漏れてしまった。
今、「竜帝陛下と聖女様へ」と聞こえた。
(リューだけじゃなく、私にも……?)
リューもそれに気付いたのだろう、眉をひそめる。
そしてカネラ王子は顔を上げ、真剣な眼差しで告げた。
「我が国を助けていただきたいのです」
「!?」