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――キーンコーンカーンコーン。
放課後のチャイムが鳴り響く。
その瞬間、体にどっと疲れがのしかかってきた。
本当に今日は“色々”ありすぎた。
いや、今も現在進行形であるんだけど……。
ふと、前の方の空席が目に入る。
今日の全校集会の後。
倒れた須藤は保健室に運ばれ、一日授業を欠席していた。
どうやら学校にはいたらしいが、クラスメイトが面会しに行っても寝たきりだったらしい。
思い出すのは舞台から見た時の須藤の表情。
今の須藤に、果たしてこれまでの“須藤北斗”を維持することはできるのだろうか。
そんなことを考えながら、できる限り早く帰りの支度を済ませる。
そんな俺を予想していたのか、一ノ瀬たちも俺が席を立つ頃には帰り支度を済ませていた。
「じゃあ行くわよ」
「早く帰ろ~」
「今の内だね!」
四人で教室を出る。
するとすでに廊下には、出待ちをしている生徒で溢れかえっていた。
「きゃーーー九条くんーー!」
「ヤバい! 近くで見ると超カッコいいんだけど!!!」
「あれが須藤に“完勝”した男か……」
「スペック高すぎるだろ」
「幻の主席が九条だったなんて……」
「こっち見てーーーー!!!」
……こうなるから早く出たかったのに。
全校集会の後、俺の下に殺到する生徒で溢れかえってしまった。
そのおかげでただの平日だというのに、こんなに疲れたわけである。
「ちょっと、どいてもらえる?」
「道空けてくださーい!!!」
「スターみたい~」
「あはは……」
苦笑いを浮かべながらも、何とか昇降口を出る。
ここまで出てくればさすがに人はおらず、ほっと胸を撫でおろした。
「ありがとう、みんな。助かったよ」
「ううん~。私はなんだか楽しかったし~」
「楽しんでたのは弥生ちゃんだけだと思うけどね……」
花野井もまた俺と同様に疲れた様子だ。
「それにしても、とんでもない人気ね。ただでさえ見た目で目立つっていうのに、全国一位取っちゃうんだから……」
「ほんとすごいよね……! ちなみに聞いてなかったんだけど、九条くんが幻の首席ってことで合ってるんだよね?」
「自分で言うのも恥ずかしいけど、たぶんそうだと思う。新入生代表やってほしいって頼まれてたけど、熱出して休んだから」
「よく今までバレなかったね~」
「まぁな」
そもそもバレることがないしな。
だって自分の成績を教えるような友達がこれまでいなかったわけだし。
「でも一つ気になったんだけど、一年生の頃はどうして表彰されてなかったの? 全国一位なら一年生の時も百位以内入ってて不思議じゃないと思うんだけど」
花野井が訊ねてくる。
ほんとは言いたくないが……ここまで聞かれたら黙るのも逆におかしな話だよな。
それに昔の話だし。
「……笑わないって約束してくれるか?」
「そ、それはもちろん!」
花野井が全力で頷く。
一ノ瀬と葉月に視線を向けると、同じように頷いた。
俺はこほんと一息つき恐る恐る言う。
「……実は俺、数学の試験で名前を書き忘れたんだ」
俺の言葉に固まる三人。
「だから数学が0点で……」
「ぷっ」
一ノ瀬が噴き出す。
それを皮切りに、ダムが放水するように三人が笑い始めた。
「「「あははははははっ!!!!!」」」
「お、おい! 笑わないって言ってただろ?」
「それは無理な話だよ! だって、良介くんが名前書き忘れるなんて……!!! あははははははっ!!! 面白いんだけど!!!」
「九条くんでもそういうことするんだね~! なんか安心したっていうか~。あはははっ、お腹痛いな~!」
「名前、書き忘れ……ぷっ」
「笑いすぎだ!」
全く、笑わないって言ったから話したって言うのに。
でも、笑われても仕方ないか。
名前を書き忘れるなんて、普通するわけないし。
「あぁーなんか、良介くんが可愛く思えてきたよ!」
「私も~! すっごく愛おしいな~!!!」
「そうね。嬉しいギャップだわ」
「まったく……」
恥ずかしくなって視線を逸らす。
すると花野井が俺の右腕に抱き着いてきた。
「は、花野井?」
「良介くんっ♡ ふふふっ♡ 意外にお茶目さんなんだね?」
さらに葉月が左腕に抱き着いてくる。
「九条くんは魅力的な人だね~! 知れば知るほど、大好きだな~♡」
そして、極めつけは――
「もうっ、良介ったら♡」
一ノ瀬が俺の背中に抱き着く。
三人から密着され、甘い匂いと柔らかい感触に体中が包まれる。
「えっと……」
「「「ンフフフ♡」」」
全く身動きができない。
どうしようかと思っていると、ふと後ろから視線を感じた。
振り返るとそこには、顔の血色が悪すぎる彼が立っていて……。
「邪魔なんだよォ……クソ野郎がァ……」
ゾンビのような姿勢で、須藤が俺たちを睨みつけていた。