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「ふーくん」
と呼ばれてそちらを向く風天(ふうあ)。
「ひな」
見覚えのある景色に、見覚えのありすぎる人物がいる。そこは北海道の公園のベンチ。
そして風天のことを「ふーくん」と呼び、風天が「ひな」と呼んだ人物。
彼女は真実田(まみた)陽成宝(ひなた)。
「ふーくんどうしたの?ボーッっとして」
「え?いや?」
「疲れてんじゃない?」
「まあぁ〜…疲れてはいる」
「でしょ。だと思った。顔に出てるもん」
と陽成宝が風天の頬を人差し指でツンとつつく。風天の心臓が早くなる。
「最近忙し?」
「忙しーくもないけど、いつも通り?」
「そうなの?じゃあいつも忙しいってこと?」
と笑う陽成宝。
「まー。ムズイなぁ〜」
「私のことも考える暇もないくらい?」
と陽成宝に言われてまた心臓が早くなる風天。
「いや」
風天は陽成宝に向き合う。
「オレは陽成宝のこと大好きだよ」
と言うと陽成宝が風天の胸の中に潜り込んで、風天の背中側に手を回す。
「私もふーくんのこと大好きだよ」
と陽成宝が風天の胸の中で呟く。風天も陽成宝を覆うように手を回す。
少し呼吸が苦しくなるくらい、深く息を吸わないといけないくらい心臓が早くなっていた。
北海道の、北海道では温暖だが、やはりどこか涼しい風が2人を撫でるように吹く。
〜
というところで薄っすらと目が開いた風天。
ボヤァ〜っとした視界に広がるのは、オシャレな東京の一人暮らしの寝室。
まだ働いていない頭でも、どういうことなのかすぐにわかった風天。
掛け布団を抱き枕のようにした抱きながら横向きに寝ていた風天は、仰向けになって手足を大の字に広げる。
そして
「…はあぁ〜あ…」
と天井に吐くように呟く。心臓はまだ早く動いたままだった。
天井を見たまま深呼吸をして心臓を落ち着かせる。
そして枕元の置くだけで充電できるワイヤレスチャージャーに置いたスマホを取り
時間を確認する。いつも仕事に行くために起きる時間でもないし
かといっていつもより目一杯寝た!ってほどの時間でもないし。
「…WEWでも見て眠くなったらもっかい寝よ」
と言ってスマホを片手に横向きに寝て
WEW (World Extreme Wrestling) entertainmentを見ることにした。
一方で、お昼少し前に起きた海。いつもより寝たのに
「…眠(ねむ)…」
と呟いて洗面所へ行って歯を磨いて顔を洗う。
リビングへ行き、テレビをつけ、インスタントコーヒーを入れる。
コーヒーの入ったマグカップを持ってソファーに座り、啜るようにコーヒーを飲む。朝を感じる。(昼だが)
そしてだいぶ前に行った結婚式で貰った引き出物のカタログをペラペラと捲る。
財布にベルト、ドライヤー、お肉、お鍋セットなどなど、種類は豊富。
ただ…。欲しいもんねぇんだよなぁ〜…
と思う海。朝ご飯も食べず、というより朝ご飯の時間も寝ており
昼も食べずに昼少し前に起きたので、お肉やお鍋セットなどを見たら欲しくなるのかと思いきや
腹減ってねぇんだよな…
と朝も食べていないのにお腹が空いていなかった海。なのでお肉にもお鍋セットにも惹かれなかった。
「まだ期間あるし、ゆっくり決めればいいか」
と呟き、カタログ本とマグカップをソファーの前のローテーブルに置き、キッチンへ移動し、冷蔵庫を開ける。
ビールや缶チューハイ、豆腐や納豆などはあるが、特に何もない。
「…」
ま、別に腹減ってないからいいけど
と思うものの、なにかつまみ的なものがほしかった。と思っていたら
ピーンポーンとインターフォンが鳴った。インターフォンモニターに向かうとモニターの画面は青。
つまり下のオートロック部分の呼び出しではなく、玄関の部分の呼び出し。
「…」
は?
と心の中で思う海。玄関まで行ってドアスコープから外を見て
「…」
ドアチェーンのチェーンじゃない版、ドアガードと呼ばれるものを外す。
するとその音で気づいたのか、ドアが開く。
「もー。お兄ちゃん、チェーン外しといてよね」
と入ってくる女性。海のことを「お兄ちゃん」と呼んでいたのでお察しの通り
「空(そら)こそ来んならLIMEくらい入れとけよ」
海の妹である空である。
「たしかーに。でも大丈夫っしょ。お兄ちゃん女っ気ないし。お邪魔しまーす」
と言いながら入っていく空。
「兄に対して辛辣すぎないか?」
「そーお?あ、洗面所借りるー」
と言いながら洗面所へ行く空。リビングへ行く海。
洗面所からリビングへ来た空が、まるで自分の家のようにキッチンへ行き
「お兄ちゃんはさー、割といい男なんだからさ?自分からいけば、彼女なんて割とすぐできるでしょー」
と言いながら当たり前のように食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫を開く。
「なんもないじゃん」
「そ。これからコンビニ行ってなんか買おうかなって思ってたら空が来たんだよ」
「なるほどー?」
と言ってグラスを持ってソファーに座る空。
「じゃー私ー」
とコンビニに行くであろう海に、欲しいものを注文しようとしたとき
ローテーブルの上にカタログがあるのに気づいて
「えっ!?お兄ちゃん結婚するの!?」
と早とちりする空。
「…」
バカかこいつ
と思いながら空を見て
「会社の元後輩の結婚式の引き出物だよ」
と説明する海。
「ビビったぁ〜…。彼女いないイジリしたばっかだったのに、もう結婚とかなってたらどうしようかと思った」
胸を撫で下ろす空。
「そもそも結婚ってなったらさすがに実家に連れてくわ」
「それもそうか。…」
カタログ本をジーっと見つめて、海を見て
「見てい?」
と聞く空。
「あぁ〜。いいよ。なんなら決めていいよ」
「マジ?」
「あんま欲しいもんないし」
パンツを部屋着兼寝巻きから履き替え、部屋着のTシャツにテキトーなYシャツを羽織る海。
「しゃー。いいもんあるかなぁ〜」
「じゃ、ちょっとコンビニ行ってくるわ」
「んー。あ、あのぉ〜なんてーの?プラスチックの容器でストロー刺すタイプのやつ」
「ん?あぁ〜。あれね」
「そ。それのジャスミンミルクティーあったらよろ。なかったらふつーのミルクティーでいいや」
「でいいやってな」
「おなしゃす」
「はいはい」
「あ」
まだなにかあんのか
と思う海。
「あのぉ〜お兄ちゃんの会社が出したイケメンチカツパン。美味しかったよ」
「イケメンチカツパン?」
ピンと来ず考える海。
「ほら。OWLsとコラボしたやつ」
「OWLs?…あぁ〜なんかコンビニで見たな。あれうち(会社)のだったのか」
「知らなかったんだ」
「変な名前のパンだなぁ〜とは思ってたけど。買ってみるか」
と言って家を出た海。
「麗空(れいら)ー。海綺(うき)起こしてきて」
と母に言われて海綺を起こしに行く麗空。麗空は海綺の妹。
ノックもせずに海綺の部屋に入ると、寝相の悪い海綺が掛け布団を蹴り飛ばしながらすごい体勢で寝ていた。
そんな海綺の足をぺちぺち叩きながら
「お姉ちゃん。お母さんが起きろって」
と言う。
「…んん〜…」
「お姉ちゃん起きて。私まであーだこーだ言われるの嫌だから」
足を叩く力が段々強くなる麗空。
「…んん〜…」
薄っすら目を開ける海綺。
「起きた?お昼ご飯。早くリビング来てよねー」
と部屋を出ていく麗空。海綺は上半身を起こし、頭をボリボリかいてベッドから下りる。
部屋を出て歯を磨いて顔を洗う。そしてリビングへ。すると母、妹の麗空が待っていて
キッチンへ行き、グラスに飲み物を入れてから席につく。そして3人でお昼ご飯を食べる。
父は早めに起きてお昼を食べたらしく、部屋にいると母が言った。
お昼ご飯を食べ終え、リビングで寛ぐ海綺と麗空。
「そうだ麗空ー」
とスマホをいじりながら言う海綺に
「なに」
とスマホをいじりながら返す麗空。
「なんかおもろいことあったー?」
「なにおもろいことって」
「いや、こっちが聞いてるんですが」
「ふつーに生きてておもしろいことなんてそうないでしょ」
「なんか出してよ」
「歌作りのネタにするんでしょ」
「バレた?」
「いつもそうじゃん」
「なんかない?」
「なんか…。…」
スマホをいじりながら考える麗空。
「新1年生でしょ。高校生活とか新鮮でしょー」
「あぁ〜…。それで言うならファンクラブできたわ」
「…え。麗空の?」
思わず麗空を見る海綺。しかし麗空はスマホから目を逸らさず
「なわけないじゃん」
と言う。
「うち(高校)にどえらいイケメンがいてさ」
「1年?」
「そ」
「同じクラス?」
「んん〜…同じ顔なら同じクラス」
と言う麗空。
「…は?どーゆーこと?」
「…あぁ〜。四つ子なんだよね、そのファンクラブできた人」
「四つ子!?」
「そんな驚くーか」
「驚くよ。四つ子?」
「そー」
「一卵性?」
「だって」
「え。その四つ子のファンクラブができたってこと?」
「四つ子のうちの1人ね」
「…。ん?同じ顔なんでしょ?」
「四つ子だからね」
「なのに1人だけなの?」
「らしいよ。でもたしかに1人だけ雰囲気がエロいんよ」
「エロいんだ」
「エロいね。同じクラスの子も、めっちゃふわふわしてて不思議な感じだけどイケメン」
「なに。烏森((うしん)烏森高校の略称)ってそんなおもしろいの?」
「まー。おもしろいか」
「おもしろいよ。え。交代して」
「は?なに言ってんの」
なんて姉妹で話していた。
「コテ(ヘアアイロン)とかいいじゃん」
とカタログを見ながら、ジャスミンミルクティーを飲んでから空が言う。
「持ってんだろ」
と言った後にイケメンチカツパンを食べる海。
「持ってるけど安いやつだし。お兄ちゃんが誕プレでくれんならいいけど」
と言う空に
「…うま」
とイケメンチカツパンのパッケージを見る海。
「美味いっしょ?」
「美味いわ」
「私のセンサーに狂いなし」
両手の人差し指を立ててニカッっとする空。
「ま、否定はできんわな。てか今日はなんで来たん」
「あぁ〜。今日この後友達と遊びに行くのさ。んで早めに着きそうだったから、お金の節約で寄った」
「人ん家(ち)をカフェ代わりに使うな」
「いいじゃんか。そうだ!ねえお兄ちゃん」
「ん?」
「今年さ、1年に四つ子が入ったんよ」
「四つ子?マジ?」
「マジマジ。しかもイケメン」
「そんなマンガみたいなことある?」
「あるんよなぁ〜これが」
「見た?」
「実物?」
頷く海。
「見た見た。さすがに3年にまで話すぐ広まってさ?学校のほぼ全員見に行ったんじゃないかな?
私が友達と見に行ったとき、1年の教室の周り、2、3年でごった返してたもん」
「同じ顔だった?」
顔を左右に振る空。
「まっ、ったく同じ顔」
と言う空に
なんで顔横に振った?
と思う海。
「すごいよ。マジでクローン」
「しかもイケメンなんだろ?」
「そうそう。ファンクラブもできたらしい」
「…それは嘘だろ?」
「チッチッチ」
と舌を鳴らしながら指を左右に振り
「Trust your sister.(妹を信じろ)」
と言う空に
なぜ英語?
と思う海。
「マジなん?」
「マジマジ。今年の1年生は豊作らしいよ」
「豊作ってな」
なんて話していると
「おっ。そろそろ出ないと間に合わん」
と空が言い出し、ソファーを立つ。
「また来る。カタログギフト選びにくるわ」
と言いながら玄関に向かう。
「じゃあ持ってけよ」
と海がカタログ本を持って空の後をついていき玄関へ行く。空は靴を履き、振り返って
「私、今から、遊び、行く。本なんて、持ってく、わけない」
と人差し指であれこれ指しながら言う。
なんだ今の言い方
と思う海。
「じゃ、また来る」
「事前にLIME」
「あいあい。お邪魔んぬぅ〜」
と言ってドアを開く空に
ちゃんと言え
と思う海。空はドアを開けたまま
「あ」
と振り返る。
「たまにはうち(海の実家)来なよ?お母さん寂しがってるよ」
「あ?寂しがってるわけないだろ。空も陸もいるのに」
「…あれ(陸)はロクでもない大学生だから」
「一応陸も空の兄ちゃんなんだからな?」
「そりゃそうだけど」
「なんでオレは好きで陸はダメなんだかがわからない」
「…それはどーでもよくね?」
「…。ま、どーでもいいか」
「だしょ?んだばー」
と言って遊びに行った空。ドアが閉まるのを見届けてから
「なんだったんだあいつ」
と呟きながらリビングへ戻って行った。
「んん〜…おはようございますー…」
と一人暮らしで自分1人しかいないのに朝の挨拶をしながら起きる愛大(まな)。
歯を磨いて顔を洗って、カップ麺にお湯を入れてタバコを吸う。
「…ふぅ〜…」
めちゃくちゃボーッっとする。だいたいの時間でカップ麺の蓋を開けて食べ始め
着替えていつも通りバイトへ向かう。そんなこんなで夜になり
「お姉ちゃん今日も行くんだ」
と麗空に言われる海綺。
「行くよ」
「そーいやお姉ちゃんの歌聴いたことないわ。聴きに行こうかな」
「やめて。あと高1が出歩いていい時間じゃない」
と言ってギターと機材一式を持って家を出た海綺。
「おぉ〜!大也ぁ〜!What’s up!?」
と言いながら、腕相撲するような形で握手する風天。
「おぉ〜。相変わらずだな」
と言う彼。彼は堀野里(ほりのり)大也(ひろや)。風天の高校時代からの親友である。
居酒屋でとりあえずビールと軽い、つまめる料理を頼んで、最初にビールが届いたので
「じゃ、とりあえず」
「うい」
「乾杯」
「乾杯」
と乾杯をした。
「…かあぁ〜…うっま。…どおよ。最近は」
と風天が漠然と聞く。
「どおってなんだよ。漠然としすぎだろ」
「ん?最近なんかないんかなぁ〜って」
「なんかって言われてもなぁ〜。まっ、変わらずかな?」
「彼女とも変わらず?」
「ん?まーぁ〜…。うん。変わらず?」
「付き合って何年だっけ?」
「何年…。今年でぇ〜…4年目?」
「なっが」
と言いながらお通しを食べる風天。
「そろそろ結婚とか考えてんの?」
「んん〜…。ま、オレのほうはね?考えないことはない。ただ彼女が若いじゃん」
「六江野さん4つ下だっけか?」
「そう。今24」
「悪い男やで」
「なんでだよ」
と笑う大也。
「で?」
「いや、彼女のほうは若いから、まだ結婚とかいいのかなぁ〜って思ってさ?」
「あぁ〜…」
「4年も付き合って、結婚の話切り出してフラれたって、笑い話にもならないでしょ」
「まあぁ〜…。でも六江野さんも結婚望んでるかもしれんよ?」
「そこなんよねぇ〜…」
背もたれに寄りかかる大也。
「もしそう思ってるならマジでわからんよ?」
「そうなんだ。同居してんだっけか」
「してる」
「ああぁ〜…キモ」
「なんでだよ」
「なんか胸が、キュッってなんねん」
と胸を掴む風天。
「風天は?彼女できた?」
「Noo(ノォ〜)」
「もしかしてまだ真実田のこと引きずってる?」
と大也に言われて、今朝見た夢のことが思い浮かぶ。
「お。この間(ま)が空くってことは図星か?」
と笑う大也。
「いや、引きずってはー、ないと思うんだけどー」
「でも風天、口を開けば真実田真実田じゃん」
「そんなことねぇよ」
「じゃあ歴代の彼女で1番は?」
「…。まっ。ひなだな」
「ほらみぃ〜」
「そりゃーそうじゃね?歴代最長だし」
「でも大学でできた彼女もいたでしょ」
「いたけど、ひなのほうが付き合った期間長かったし」
「でも普通、直近の彼女が1番印象深いでしょ」
「…そうなん?」
「そうじゃね?それでも真実田の名前が出るってことは」
「まあぁ〜…忘れられんってのは事実だな」
「だろ?」
「認めざるを得ないな…。ひな…。マジで…な」
と頭を抱える風天。
「超引きずってんじゃん」
と笑う大也。
「うるせぇ。てかなんで六江野さん連れてこんかったん?」
「あぁ。一応「行く?」とは聞いたんだけど、「ひさしぶりに会うのに私邪魔でしょ?」って」
「全然邪魔じゃないっしょ。今から呼べば?」
「来るかな」
と親友と飲み明かした風天だった。