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「……じゃあ、乾杯しよっか」
キスの余韻もそこそこに、空くんが真っ赤になった顔を隠すようにしてテーブルへと逃げる。
その照れ方に、俺の心臓もまた大きく跳ね上がった。あかん、俺もこのままおったら、勢いでとんでもないことをしてしまいそうや。
一度落ち着こうと、お酒の缶をカチンと合わせて、笑顔で乾杯を交わす。
「……ん、相変わらずうまいな、これ」
「ほんま。このお酒に関しては、多分俺、酒豪やと思う」
ふふっと笑いながら、空くんがまるでジュースでも飲むようにぐいっと喉に流し込んだ。
「あー、またそんなに勢いよく飲んだら、すぐ酔ってしまうで?」
「ううん、大丈夫。前に弦と手を繋いだ時のドキドキは……お酒じゃなくて、恋のドキドキやったから」
「……もうっ!」
照れすぎて、それ以上言葉が出てこえへん。そんな可愛らしい顔で、照れながらそんなこと言うて。ほんま、お兄さんはこのわんこちゃんに翻弄されっぱなしや。
「……そうや、俺、ちょっと気になっててんな。新くん、今日お休みやったのになんでここにおったんやろ? ……もしかして、洸くんと密会する予定やったとか?」
空くんが楽しそうに首を傾げて聞いてくる。これ、真実を言うた方がええんやろか。でも野中さんのプライベートなことやし、俺の口からバラすのは野暮やんな。
「……そうやったらええな。あんな優しくて強い子が洸の恋人やったら、お兄ちゃんとしては自慢でしかないわ」
「ほんまに! それは俺もそう思う!」
空くんも、野中さんと同じ空間で時間を共にして、まだ直接の関わりはなくても、あの人のまっすぐな人間性をちゃんと肌で感じ取ったんやろう。
「……でもさ……俺、家の中では普通に生活出来るようになったから。もしかして新くん、もうお手伝いさん辞めるかもってちょっと寂しく思ってんねん」
「まぁ……でも、友達として遊びに来てくれたら、それでええかもな」
「そっか! じゃあ、弦の次は新くんと仲良くなれるように頑張る!」
「まぁ……それは、程々にお願いします」
少し嫉妬まじりにそう言ってしまって、我ながらちょっとカッコ悪かったやろうか。
でも、それが脅威にならんように早く野中さんと洸がくっついてくれたら、俺的には二重に安心できるんやけど。
「……そや、空くんのお兄さんには、部屋から出られるようになったこと、もう言うたん?」
「ううん。言うても、まだ普通に過ごせるのって弦とおる時だけやし。……」
はにかむように俯く空くん。それは、俺からしたら世の中の人全員に大声で自慢したい一言なんやけど!
「え、なに? 弦、なんでニヤニヤしてるん」
「なんもないよ。ほんまに俺だけ特別なんやなぁ、なんてこれっぽっちもおもてへん」
ニヤニヤが止まらないまま白々しく伝えると、「そうやで。弦だけ、特別」と、空くんがほんまに愛おしそうな顔で視線を重ねてくれた。
「……でも、秀太さんと親分と今日一緒にいて、俺、大丈夫かもって思えた。だから……これからはちょっと強引にでも、人前に出る練習をした方がいいんかも」
「……荒療治になるかもやけど、俺といっぱい外でデートしよう。何があっても、俺が絶対に空くんのこと助けるから」
俺が真剣に伝えると、空くんは、
「やっぱり、俺、弦のこと好きやわぁ……」
と、少しお酒の回った顔でうっとりと俺を見つめた。これは……愛おしすぎて心臓に悪すぎる。
少し寂しそうに手元のお酒の缶を見つめた空くんの手が名残惜しそうに俺の手に重なる。
「……じゃあ、これ飲み終わったら、洸くんの所に戻ってあげてね」
そう言って、残りをぐいっと喉に流し込むんだ。空になった缶をコトッと置いた空くんの気遣いに、胸が温かくなる。
「……うん。あんな風に気にしてない顔してたけど、本当は怖かったに違いないからな」
空くんの気遣いに胸が温かくなる。
「空くんも、一人で心細いやろうけど、玄関の戸締まりはきちんとしてな? チェーンも忘れずに。あ、それから、ベランダもきっちり閉まってるか確認するんやで? もし不安で眠れへんなって思ったら、空くんの部屋の隣は俺の部屋やから。壁一枚隔ててずっと、気持ちは繋がってるからな?」
「……うん、わかった」
過保護全開の俺を笑うこともせず、相変わらず優しい笑顔で受け止めてくれる。
「……俺も、やっぱり空くんが好き」
照れ隠しに空になった缶を誤魔化すように持って椅子から立ち上がった。これ以上ここにいたら、俺の理性が本当に崩壊してしまう。早くここから避難せなあかん。
「……おやすみ」
「……うん、おやすみ」
玄関に移動して、鍵を開ける。やけど、どうしても後ろ髪を引かれて足が止まる。
すると、背後から近づいてきた空くんが、俺の頬を両手で包み込んだ。じっと俺の目を見つめた後、さっきの触れるだけのものとは違う、少しだけ深く、長く気持ちの残るキスをしてくれた。
「……大好き」
「……うん、俺も大好き」
「……また明日ね」
「……うん、また明日」
お互いに掲げた手のひらを名残惜しそうに重ね合わせた後、俺はこれ以上のない勇気を振り絞って、ようやく玄関のドアを開けた。
「うわっ! びっくりした!!」
「え、秀太!?」
蜷川家の玄関を出た瞬間、もとちゃんを送り届けて今し方帰ってきたであろう秀太と鉢合わせた。
「もとちゃんち、そのまま泊まってくるんかと思ったわ」
驚きを隠しながら、鍵を開けて何気なく言うと、秀太は「なんで洸くんほったらかしにして、あいつの家に泊まらなあかんねん」と、いつものふてぶてしい態度で返してきた。
こいつ、絶対自分の本当の気持ちに気づいてへんだけやろ。洸は「もとちゃんが秀太に恋してる」って言うてたけど、俺は絶対に逆やと思ってる。さっきリビングの椅子に座ってる時だって、いつもの癖で腕を組んでるもとちゃんの身体を、秀太のやつベタベタ触りながら話してたからな。
ほんま、俺の兄も弟も、揃いも揃って一筋縄ではいかんやつばっかりや。
リビングのドアを開けると、部屋は真っ暗なのにテレビだけが寂しくつけっぱなしになっていた。
「……うわ、かわい」
「……ほんまは、寂しかったんやろな」
よく見ると、ソファの上で、大きなクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま寝落ちしている洸がいた。
その瞬間、室内に響く電子音。見ると、秀太が無言で洸の寝顔を連写しまくっている。ほんま、こいつもそのうちストーカーで捕まるんちゃうか。
「……なんでお前が撮んねん」
俺もスマホを取り出してカシャリと一枚写真を収めると、秀太が不機嫌そうに睨んできた。ええやろ、一枚くらい別に。俺はこの国宝級の可愛さを、俺の推しに共有したいと思ってしもたんやから。
「……それにしても、すごいな、お前」
画面を見つめたまま、秀太がぽつりと言った。
「……洸の事、助けられへんかったのに、すごいもなんもないやろ」
本当は、洸に対して少し後ろめたさがあった。兄貴ぶって「俺を頼れ」なんて言うてたくせに、いざという時は何もできひんかった。
「……洸のことは、俺も何も出来んかったよ。やけどさ、お前、空くんのことはちゃんと助けられたやん」
本当に珍しく、秀太がまっすぐに俺を褒めてくれている。
……なんやこれ、背中が痒くてゾワゾワするな。あまりの照れくささに、俺はわざとふざけた声を上げた。
「……褒めるなら蜷川さんちの高級メロンみたいに、金品などで、気持ちを表して!!」
「お兄ちゃんに対して強欲すぎるやろお前!」
秀太が呆れたように鼻で笑う。
いつもの小競り合いに戻った安心感に包まれながら、俺は未来の洸の恋人になるであろう我が推しに、「早くどうにかなれ!」念を込めて洸の写真を送信した。
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だも
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モノクロナツキ
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