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この作品はフィクションです。
実在する人物とは一切関係ございません。
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『以上、僕たちがM!LKでした!』
ここ数ヶ月、俺たちは歌番組やバラエティ、雑誌の撮影と多忙な毎日を送っている。
目指していた日常に嬉しい反面、連日の分刻みのスケジュールに少しばかり疲れも見えてきた。更に勇斗はこれ以外にもドラマとレギュラー番組の仕事があり、目に見えて顔色が悪くなっていた。
今は個人撮影中で最初が勇斗、そして次が俺で他のメンバーが続く。
『仁ちゃん、はやちゃん大丈夫かな?音に敏感になってるんか、空き時間にも全然寝てくれやんのよ。』
俺にそう聞いてきたのは勇斗の弟分である舜太だ。最年少でありながら周りをよく見ている。
『俺も言ったんだけど、台本読まなきゃいけないから、て聞いてくれなくて…。よっすぃー、お願いできる?』
そう続くのは柔太朗だ。優しさの塊である柔太朗の言葉にこの返答ならあまり良くない状況であるようだ。
『さっきの対談、全然笑ってなくて嘘笑いやったよな。余裕なさそうやから、仁人じゃないとあかんレベルやと思うねん。』
珍しく真面目な顔で言うのは太智。流石の視野の広さと言えよう。
しかし皆好き勝手言ってくれる。俺じゃあどうしようもできないかも知れないじゃないか。
でも俺じゃないと、と思われている事実に少し嬉しく思う自分もいる。
そうこうしていると勇斗が楽屋に戻ってきたので入れ替わるように俺は部屋を出る。
すれ違いざまに確認できただけでも明らかなメイクでは隠しきれない隈と肌荒れ、少しこけて見える頬。光の入らない瞳、苛立っているような歩き方に即日どうにかせねばと心に決めて早々に自分の撮影を終わらせることに集中することにした。
最短で撮影を終わらせて楽屋に戻っていると何やら聞こえてきた。
『はやちゃん、お願いやから寝てや。見てられへんねん、辛そうに仕事してる姿…』
『は?いつ辛そうに仕事したよ。いつも通りの俺でやってるわ。』
『いつも通りの佐野勇斗を演じてんねやろ?!俺らが分からんとでも思ってるん?!』
『お前に何が分かんだよ?あ?俺が今やらなきゃ誰がすんだよ!無理してでもやんなきゃいけない時期だろうが!』
どうやら心配の限界突破をした舜太が長所であり短所であるお節介を焼こうとしたらしい。
俺は一つため息をついて平静を装って楽屋へ入る。
『そこまで。廊下まで聞こえてるから。次は太智が撮影、柔太朗は舜太連れて出て落ち着かせてそのまま撮影行って。』
俺の指示に3人は従って何も言わず部屋を出て行った。
残った勇斗はソファに身を沈めて天井を睨みつけていた。舜太に怒鳴ってしまった後悔からか握った拳が震えている。
独りにしてほしそうにしていたが俺は敢えて横に座った。
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『で?何に焦ってるわけ?』
『…別に焦ってなんか』
『焦ってないのにかわいい弟分を怒鳴りつけるような奴なの?』
そう言うと少し黙って拳の力が緩んだように見え、ポツリ、とこぼした。
『俺には何もないから…』
『あ?』
『舜太は頭いいポジション、柔太朗は唯一無二の存在感、太智はとんでもないバラエティ力、仁人はラジオがあって…でも俺はなんにもないから、来る仕事は全部やらないとアイツらに顔向け出来ねぇからっ、』
どうやらこいつは忙しさのあまり自己肯定感がぶっ壊れてネガティブに振り切ってしまったらしい。
『アイツらが仕事できる場所増やすために俺は休んでらんねぇんだよ…それしか俺にはできないから、俺なんかが』
『やめてくんない?俺の恋人にネガティブなこと言うの。いくら本人でも許さないよ。』
そう言うとやっとこちらに顔を向けて視線が合った。
『っ…でも』
『でももくそもねぇよ。俺は今好きなヤツの悪口を聞いて気分が悪い。それにメンバー同士の雰囲気が悪くなって空気が不味い。責任とって黙って寝ててくんない?』
そう言って俺は無理やり勇斗の頭を自分の腿に引き倒す。所謂膝枕だ。
横暴な言い分だと分かっている。でもこうでもしないとこいつはあーだこーだと言って空回るのだ。
少しして強張っていた身体が弛緩して体重がかかった。どうやら抵抗する気はないらしい。
距離が近いことを嫌がる恋人だが寝てもらうためだ、仕方ない。そう誰にともなく心の中で言い訳をして勇斗の目をそっと手で覆う。
すると控えめに俺の手に自分の手を重ねて穏やかになった声色で呟いた。
『舜太に謝んねぇとなぁ…一緒に謝ってくれる?』
『んふ、なんで俺もなんだよ。まぁでも隣に立っててやらんこともない。』
『ありがと…』
その言葉を最後に勇斗は寝息をたて始めた。
自らのスマホが手に届くところになく手持ち無沙汰だったため、穏やかに寝ている恋人に少しでも伝われと普段は外では決して口にしない言葉を囁きながら少し傷んだ髪の毛を撫でる。
『勇斗のおかげで俺たちはいるんだよ。勇斗がいるから俺は頑張れてる。勇斗が好きだって言ってくれるから自分のこと少し好きになれたよ。勇斗が俺に好きを教えてくれたんだよ。勇斗、好きだよ。』
寝息をたてる勇斗に引きずられるようにウトウトしていると控えめな音でドアが開いてこちらを覗く顔が3つ。
撮影が終わってタイミングを見計らっていた太智、柔太朗、舜太がトーテムポールのように縦一列になってこちらを見ていた。
俺は顔をそちらに向けて、静かにするようジェスチャーをする。
すると静かに入ってきて寝ている勇斗の顔を覗き込む3人。
『はやちゃん、さっきはごめんね。いつも俺らのためにありがとう。でも、俺らももうおんぶにだっこじゃなくても大丈夫やよ。』
『そうだよ。好きな人と好きなことしてるはやちゃんが俺らは好きだよ。』
『相変わらず真面目で頑張り屋さんなんやから、佐野さんは。』
ねぇ、勇斗。
聞こえてる?お前こんなにメンバーから愛されてんだよ。
お前の魅力ってそこなんじゃないの?お芝居ももちろんだけど、もう一度彼と会いたいと思わせるのは勇斗だからだと思うんだ。
また自信がなくなったら何度でも引き上げてやるからさ。
起きたら皆で飯食って沢山笑おう。笑い疲れてしんどくなるまで笑おうぜ。
笑い疲れてからでいいからさ、俺の好きなくしゃっとした顔して、俺の好きな声で、俺の名前を呼んでよ。
そしたら俺も『勇斗』て名前を呼んでずっと隣に立ち続けていられるから。
ひとまず、今はゆっくりおやすみ。