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コンコンと静かな廊下にノック音が響く。
「芥川です。」
同じく静かに告げた。
「入り給え。」
緊張の所為か、いつもよりボスの声が少し低い気がする。
「失礼します。」
扉を開けて部屋の中に入ると奥の方でボスが座っているのが見えた。
貧弱な僕の声でも届くようにもう少し進んでおこう。
「それで、何用かね?」
「人虎から言伝を預かってきました。」
人虎に渡された紙をボスに差し出す。
「嗚呼、例の…」
そこにはこう書いてあった。
拝啓、森鴎外殿
この度は我々のお願いを承諾してくださり有難う御座います。
急で申し訳ないのですが、明日作戦会議を下記の場所にて行います。
6月2日 午前7時
旧晩香堂にて
中原中也、尾崎紅葉、芥川龍之介を連れ、いらしてください。
行き方は中原幹部が知っているはずです。
武装探偵社員 中島敦
「へぇ…。芥川くん、私から他の二人には伝えとくよ。
現業務は部下に丸投げ。
今日は早く寝るんだね。」
「はい。」
))ねぇ〜リンタロウー!!
エリス嬢か..
「では失礼します。」
空気を読んで、軽く頭を下げ、首領室を背に向けた。
明日は作戦会議か…
僕がしっかりしないと。
彼らは本当に来るのだろうか?
彼らだってもうポートマフィアに戻らない太宰さんなんて必要ないんじゃないか?
…太宰さん。
貴方ならこんな時どうしますか?
死んだのが太宰さんではなく僕だったら。
元孤児で、臆病な僕なんか、『可哀想、残念』で済ませますか?
それとも過去の記憶に囚われ続けますか?
呪われし友情との生贄に…
(6月2日 午前7時前 旧晩香堂)
「本当に来るのか?ポートマフィアは。」
「来ますよ。きっと。」
嘘だ。
そんなこと思っていない。
本当は今でも彼らは来ないんじゃないかと思っている。
まだ弱い侭なんだ、僕は。
『しっかりし給えよ、敦くん。
君はもう十分強いじゃあないか。
それに心強い仲間がいるだろう?
私を助ける必要はないんだ。
漸く、私が追い求めていたものを迎えることができたんだ。
君は只、直向に己の為すべきことを為せばいいんだよ。
中也に宜しくね。』
静かに横を通り過ぎた風がそう告げているような気がした。
所為=せい
言伝=ことづて
生贄=いけにえ
侭=まま
漸く=ようやく