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刺客から受け取る、月下美人のブーケ

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刺客から受け取る、月下美人のブーケ

1 - 刺客から受け取る、月下美人のブーケ

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2025年01月21日

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刺客から受け取る、月下美人のブーケ


ーーー

登場人物: 星導 小柳 (敬称略)

ーーー

設定: サラリーマンの二人。

   星導 部下

   小柳 上司



ーーーーー


「恋愛とかそうの昔に捨て去ったわ。」

そう語る小柳さんは箸先でギョーザをつまんだ。

「まじすか。」

俺から振っておいて何だが、思いもよらぬ回答にそっけない返事をしてしまう。

「そんなこと訊くって事はもしかして、星導くん恋愛中?」

茶化すようにニヤつきながら尋ねてくる小柳さんに、この鈍感男め、と内心悪態をつく。

「いや、まあ、。」

どう返したら良いか分からず歯切れ悪くなる。

「何?話したくない感じ?」

笑顔を崩さず囁く彼にまた俺は見ないフリでラーメンを啜った。

「話したくないとかじゃないですけど、別につまらない話なんで。」

ああ、また冷めたく接してしまう。

そんな後悔とは裏腹に小柳さんはあははと笑ってくれた。

「おもしろい恋愛話は期待してる方に問題があるでしょ。で、どんな人なの?」

箸を置いてテーブルに両腕を固定し、完全に聞きの体勢に入る小柳さんの腕時計がキラキラと光を反射する。

白い細い腕と厳つい時計の対比が彼をより魅的に思わせる。

高そうな時計。

いったい俺の今の給料の何ヶ月分だろうか。

「余裕があって、とても頼りになる人です。素敵なー」

そこまで言ってはっとした。

とても相手が女性とは思えない発言をしてしまった。

けれどそれも気にしない様子で、小柳さんは軽く微笑むだけだった。

「結構しっかりした子が好きなんだね。」

彼の言葉がどうもしっくりこない。

たしかに、彼はしっかりした人だがお茶目な部分ももちろんある。

そこに愛らしさも感じるし、そんな部分が見える度抱き締めたくなる。

俺はしっかりした子が好きなんじゃなくて、俺が好きになった人がしっかりしたように見える人だったってだけの話だ。

「食べたらどうですか?ラーメン、伸びますよ。」「え?ああ、たしかに。」

二人で改めてラーメンと向き合う。

まだちゃんと温かいラーメンだが、湯気はすでに立たなくなってしまった。

「先輩は今までに好きになった人ってどんな人でした?」

「んー、毎回マジでバラバラだからなぁ…」

何気ない言葉のはずが、好きだった人がたくさんいると分かってしまう言葉選びの彼の無傾着さに無性に苛々してしまう。

「あっ、俺に頼ってくれる人。あと、笑顔が可愛い子。」

彼が可愛い笑顔で言った。

「頼ってくれる人…。」

「うん。頼ってくれるってのは、普通に嬉しいじゃん?」

笑顔が可愛いという条件は置いておいて、頼ってくれる人とは。

俺の上司は頼りになる。それが分かるのは俺が彼にたくさんー

これは俺の考え過ぎだろうか。

「そうですね。俺は頼りたい派なんであんまり分からないですけど。」

「じゃあ俺達相性良いね。」

普段クールな彼の急な寄り添いに勝手に心が舞い上がってしまう。

いいや、考え過ぎだ。

第一、彼は恋愛はしないと言っていたじゃないか。

「笑顔が可愛い女性はそりゃ無敵ですね。」

それに俺は可愛い笑顔なんてできないし、女性ですらない。

しかし、項垂れる俺に信じられない言葉が降ってくる。

「女性じゃなくてもやられちゃうんだよなあ。可愛い笑顔はそういう意味でも無敵。」

「え?」

「これは誰にも言うつもりなかったんだけど、実は俺、男性と付き合ったこともあるんだよね。」

先輩はそう苦笑した。

立て続けに行われる彼の爆弾発言に、それはもう混乱しない方がおかしい。

「それ、俺、聞いちゃってよかったんすか。」

「まあ、俺達仲良いし、星導くんのことは信頼してるし。それに隠すのも元彼に失礼かなって今なら思えるから。」

鼓動が速くなる。

もしかしてという期待が膨らんでいく。

長い睫毛。日本人とは思えない程の白い肌。細い絹のような髪。

触りたい。抱き締めたい。体温を感じたい。

 ごめん俺帰えらなきゃ。

小柳さんが席を立った。

テーブルに三千円を置いて。

 俺の奢り。

急な別れに俺は慌てて彼の腕を掴んだ。この時も、彼の唯一のアクセサリーが無駄に光を反射した。

「先輩っ…!」

彼が振り返える。

「小柳先輩、好きですっ…!」

周りは雑音で騒がしいが、俺の気持ちは届いただろう。

彼はいつも通り優しく微笑んだ。

「俺、結婚してるんだ。」

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